2019年07月05日

デジタル・ガバメントに向けた取組みー政府の取組みは進むも、国民への浸透は進まず

基礎研REPORT(冊子版)7月号

清水 仁志

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1―行政のデジタル化

世界的にデジタル化の流れが加速している。米中の巨大プラットフォーマーがインターネットを通じて、消費者にあらゆる便利なサービスを提供している。製造の現場でも、loTにより膨大なデータが集められ、AIでの解析により最適化される。
 
こうした潮流はビジネスの現場だけではない。行政においてもデジタル化の重要性は増している。政府は、2018年の成長戦略において「行政からの生産性革命」と銘打ち、デジタル・ガバメントの実現を掲げている。

2―日本のデジタル・ガバメントへの評価~政府取組みへの国際評価は高いが、国民への浸透では他国に大きく劣後

日本のデジタル・ガバメントへの評価は意外にも高い。国連のランキングでは、日本は世界10位、早稲田のランキングでは、7位に位置している[図表]。
 
しかし、日本の行政デジタル化が、世界に先駆けて進んでいるとの実感はそれほど湧かないのではないだろうか。デジタル国家と言われてまず頭に浮かぶのは、エストニアや韓国などだ。例えばエストニアでは、インターネット投票による国政選挙や、行政が作成した書類にネット署名するだけの税務申告など、日本にはないデジタル行政サービスが数多くある。
 
早稲田大学の調査の内訳をみてみると、日本は「政府CIO*1の活躍度」や、「電子政府普及振興」といった政府のデジタル・ガバメント実現に向けた取組み項目で高く評価されている一方で、「市民の電子参加」の評価は低く、国民への浸透という面で他国に劣る。過去の国の行政サービスデジタル化は、手段のひとつにしか過ぎないオンライン化自体が目的となってしまっていた。利用者目線を欠くことで利便性が伴わず、一部の手続においては利用率がほとんど上がらなかった。

3―今後~利用者目線での断行

デジタル・ガバメント実現に向け、推進体制作り、行政へのICT実装、マイナンバー制度の構築など、大きな枠組みは出来上がりつつある。今後はデジタルサービスの利用促進に向け、より実用的なサービスの提供を進めることに加え、国民の理解・信頼獲得と、行政の政治的決断が重要だ。

1|利便性の向上
 
利便性向上のためには、「デジタル化3原則*2」に基づき、個々の手続の簡素化を進めるとともに、国民の利用頻度がより高い地方自治体や民間へのサービス範囲拡大を積極的に進めなければならない。また、デジタルサービスへのアクセス手段確保のために、公的電子証明書を内蔵したマイナンバーカード普及への取組みを一層加速させることに加え、スマホへの電子証明書の内蔵など、出来るだけ簡易な形で公的電子証明手段の確立を進める必要があるだろう。

2|信頼性の確保
 
情報の伝達・加工・共有を容易にするデジタル化は、監視社会や、情報漏えいへと繋がる恐れがある。たとえ利便性が向上したとしても、デジタルサービスが使われなければ意味がない。過去の国の行為に対しての不信感や、既に慣れている行政サービスを変えていくことに対する利用者のアレルギー反応を払拭する必要がある。政府は、適切な情報管理システムの構築と、国民に信頼してもらえるような真摯な取組み姿勢が求められる。

3|迅速な計画の実行、断行
 
デジタル・ガバメント実現は早急に断行されなければならない。急速な人口減少・高齢化の下での行政サービス維持、ビジネス環境変化への対応は喫緊の課題だ。しかしながら、効率化に伴うコスト削減政策は有権者への大きなアピールにつながりにくいため、行政のデジタル化の流れは遅い。政府は、増加する高齢者のデジタル・デバイドや、利用者の信頼獲得に配慮しつつも迅速にデジタル化を進める必要があり、思い切った政治の決断が求められる。
 
今国会でデジタル手続法案が成立し、死亡・相続、引越し等におけるワンストップサービスが順次開始される見込みだ。また、今年の骨太の柱の1つに、次世代型行政サービスが盛り込まれるなど、デジタル・ガバメント実現への潮流は強まっている。日本はデジタルインフラの水準は比較的しっかりとしており、デジタルの方向に舵をきることが出来れば普及は早いはずだ。
 
*1政府CIOは、政府CIO法により規定され、府省横断的な計画の策定などが役割として挙げられる
*2「デジタルファースト」「コネクテッド・ワンストップ」「ワンスオンリー」
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(2019年07月05日「基礎研マンスリー」)

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