2019年06月20日

【6月米FOMC】予想通り、政策金利を据え置き。金融政策ガイダンスを変更

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:政策金利を据え置き。金融政策スタンスを変更

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が6月18-19日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利の据え置きを決定した。

今回発表された声明文では、景気の現状判断で経済活動を下方修正する一方、家計消費については上方修正した。一方、景気見通しに関して「不透明感が高まった」との判断を示し、ガイダンス部分について、金融政策を「忍耐強く判断する」から、「景気拡大を維持するために適切に行動する」との表現に変更し、金融政策スタンスを利下げも視野に入れた変更を行った。金融政策決定ではセントルイス連銀のブラード総裁が▲0.25%の利上げを主張して反対した。

一方、FOMC参加者の見通しは、前回(3月)から、成長率や失業率の見通しが小幅に上方修正(失業率は低下)された一方、19年と20年の物価見通しが下方修正された。とくに、20年は物価目標を下回る水準まで引き下げられた。また、政策金利の見通しでは、中央値でみた19年の数値に変更は無かったものの、政策金利の引き下げを予想する人数が、FOMC参加者17名のうち、前回の0名から8名に増加した。

2.金融政策の評価:米中首脳会談の動向次第では早期利下げの可能性を示唆

政策金利の据え置きは当研究所の予想通り、景気見通しや金融政策ガイダンスの変更も6月4日のパウエル議長の講演を踏まえるとそれほどサプライズではない。しかしながら、FOMC参加者のうち19年利下げを予想した人数が半数程度を占めたほか、FOMC会合後の記者会見でパウエル議長が、今回政策金利の据え置きを予想した委員でさえ、足元は利下げの証拠が増えていることで合意していると説明したことは、通商政策や世界経済の動向次第でFRBが政策金利の引き下げに転換する可能性が高まっている。

当研究所は、通商政策に関して一時は開催が危ぶまれていた米中首脳会談が正式決定され、閣僚級協議が再開されたのは良い兆候と考えており、米中首脳会談では構造協議が部分合意され、対中関税策は緩和されると予想している。このため、現時点ではFRBが19年は政策金利を据え置くとの見通しを維持している。

もっとも、仮に米中首脳会談が決裂し、中国からの輸入品の全額に対する関税強化策が決定される場合には、FRBは7月の会合で躊躇なく▲0.5%の政策金利引き下げを決定するだろう。今後の金融政策動向は、通商政策などにおけるトランプ大統領の手の振り方に大きく左右されよう。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • (雇用の最大化と物価の安定の政策)目標の達成を支援するために、委員会はFF金利の目標レンジを2.25-2.5%に据え置くことを決定した(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 世界経済・金融情勢、抑制されたインフレ圧力の観点から、これらの結果を支援するのに適切となる将来のFF金利の目標レンジ調整を委員会は忍耐強く判断する(今回削除)
  • これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 労働市場は引き続き力強く、経済活動は緩やかなペースで拡大した(経済活動について、「力強く拡大した」”rose at a solid rate slowed from its solid rate in the fourth quarter”から、「堅調なペースで拡大」“rose at a solid pace”から「緩やかに拡大している」”is rising at a moderate rate”に下方修正 )
  • 最近数ヵ月を均せば雇用増加は底堅く、失業率は低位に留まった(変更なし)
  • 家計消費は今年初めから上向いたように思われるものの、民間設備投資の指標は軟調であった。(家計消費については前回の「鈍化した」”slowed”から「上向いた」”have picked up”に上方修正された一方、民間設備投資については前回の「鈍化」”slowed”から「軟調」”have been soft”に表現変更された )
  • 前年比でみたインフレの総合指標、および、食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は低下し、2%を下回っている(変更なし)
  • 市場が織り込む物価見通しは低下した、調査に基づく長期物価見通しはほとんど変化していない(市場が織り込む物価見通しについて、前回の「この数ヵ月低位に留まっており」”remained low in recent months”から「低下した」”declined“に下方修正)
 
(景気見通し)
  • 委員会は、経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、2%で対照的な委員会の目標近辺でのインフレ率の推移、が最も蓋然性の高い結果であると引き続き判断しているが、この見通しに対する不透明感が高まった(「(判断している)が、この見通しに対する不透明感が高まった」"but uncertainties about this outlook have increased”を追加し、見通しに対する確信度を下方修正)
  • これらの不透明感と落ち着いたインフレ圧力を考慮し、委員会は経済見通しについて今後入手する情報から引き出されるであろう結果を注意深くモニターし、力強い労働市場と2%で対照的な目標に近いインフレ率を伴った景気拡大を維持するために適切に行動する(今回追加)

4.FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の17名 )の経済見通しは(図表1)の通り。20年の成長率が上方修正されたほか、19年から長期均衡水準までの失業率が上方修正(失業率は低下)された。一方、PCE価格指数(総合指数)の19年と20年の見通しがそれぞれ+1.5%、+1.9%に下方修正された。この結果、20年はFRBの物価目標(2%)を下回る水準で推移するとの見通しが示された。
(図表1)FOMC参加者の経済見通し(6月会合)
(図表2)政策金利見通し(年末時点) 政策金利の見通し(中央値)は、前回(3月)から、19年が2.375%に据え置かれた一方、20年が2.625%→2.125%(▲0.50%ポイント)、21年が2.625%→2.375%(▲0.25%ポイント)、長期均衡水準が2.75%→2.50%(▲0.25%ポイント)にそれぞれ下方修正された(図表2)。

一方、前述の通り、19年の見通しでは中央値に変化がなかったものの、利下げ予想をする委員は前回が0人であったのに対して、1回(▲0.25%)の利下げが1名、2回(▲0.50%)の利下げが7名と合計8名となった。

また、前述のとおりパウエル議長の記者会見では政策金利の据え置きを予想した委員でさえも、足元で政策金利を引き下げる証拠が増えていることに合意していることが示されているため、米中首脳会談の動向次第では利下げが実施される可能性が高まっている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年06月20日「経済・金融フラッシュ」)

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