コラム
2019年06月10日

深刻化するイランの人々の暮らし-米国による「最強」制裁の影響-

保険研究部 研究員   岩﨑 敬子

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1――はじめに

2003年に英国、仏国、ドイツ(EU3)とイランがイランの核開発問題に関する交渉を始めてから10年以上の月日をかけて、2015年にイランとEU3+3(米国、ロシア、中国)の間でイラン核合意が結ばれ、本合意は国連の安全保障理事会で承認された。この合意はイランがウラン濃縮活動の制限等を行う代わりに、イランの核開発に対抗して行われてきた経済制裁を解除するものである。しかし、 約1年前の2018年5月、国際原子力機関(IAEA)がイランの核合意順守を確認しているにもかかわらず、米トランプ政権はイラン核合意を離脱し、2018年8月に「最強」のイラン制裁を再開した。さらに、米トランプ政権は、今年4月にイランのイスラム革命防衛隊をテロ組織と指定し、5月にペルシャ湾に空母(アブラハム・リンカーン)を派遣するなどイランへの圧力を強めている。

制裁の目的は何であれ、こうしたイランへの圧力で影響を受けている人のほとんどは、核開発等の国家政策とは全く関係ない生活を送るイラン国民である。本稿では、米国による「最強」イラン制裁のイランの国民生活への影響を示す、イラン通貨の暴落と物価の急上昇の実態を紹介する。直前に迫る安倍首相のイラン訪問を含め、G20のホスト国としても、両国と良好な関係を持つ日本は、イランと米国の緊張緩和に貢献ができる可能性が大きい。日本の貢献が、イラン国民を含めて多くの人の生活を助けるようなものになることを期待したい。

2――イラン通貨価値の暴落と物価の急上昇

1イラン通貨の暴落
イランの通貨は「イラン・リヤル」(IRR)である。公定レートは1ドル42,000 IRRであるが、実際に人々がこの価格でドルを売買することはないと言ってよく、実勢レートでの取引1となる。実勢レートは2018年4月1日時点で、1ドル47,730IRRだったものが、9月26日に1ドル190,000IRRまで暴落した。イラン・リヤルは約5ヵ月で約4分の1の価値になってしまったことになる。その後少し回復し、直近のデータでは、2019年6月8日現在1ドル131,500IRRとなっている。これでも昨年の4月と比べると60%以上価値が下がっていることになる。自国の通貨が暴落すれば、輸入品の値段は上がる。また、国外で商品を販売すれば高く売れることから、自国で作られた商品の国内値段も上がる。このように、イラン通貨の暴落は、物価の急激な上昇(インフレ)を引き起こしている。
図1. イラン・リヤル(IRR)の対ドル為替レートの推移
 
1 本稿で紹介する実勢レートはBONDEST.COMによる。
2生活費の急上昇
イランの2019年4月時点のインフレ率は51.4%である2。食料インフレ率はさらに高く、84.4%である。1年前と比べて食料の値段が2倍近くになったことになる。政府が市場に物資を流すことで物価の上昇を抑える対策を行っているが、物価の上昇を抑えることができていない状況だ。さらに悪い状況が続くようであれば、配給制のクーポンを各世帯に配ることも検討されている状況である。
図2. イランのインフレ率の推移
 
2 本稿で紹介するインフレ率、食料インフレ率はTRADINGECONOMICS.COMによる。

3――現地住民の声

現地住民の感覚では、生活費の急上昇の生活実感は、上記のインフレ率より大きいもののようだ。現地住民のハメッドさん夫婦(仮名・60代・テヘラン北部在住)によると、現在の生活費は1年前の2~3倍になっているという。イラン人の生活に欠かせない米の値段は1年で14万IRR/kgから28万IRR/kgに、肉の値段は55万IRR/kgから130万IRR/kgに上がったそうだ。また、保険適用の糖尿病の薬の値段についても、30パーセントほど上昇したという。輸入品の値段の上昇はさらに大きく、ハメッドさん夫婦の孫が使うドイツ製のオムツは1袋28万IRRから150万IRRと、1年で5倍以上の値段になった。一方で、国民の給与は、公務員で最大限上がった人でも20%程度ということであるから、家計の切迫が深刻であることは想像に難くない。

イランへの制裁は1980年から約40年間なんらかの形で続いており、国民には制裁慣れがあるのではないかと言われることがある。ハメッドさん夫婦は、たしかにこれまでの経済制裁については慣れていてあまり気にしていないことも多かったが、このたびの経済制裁の影響はこれまでに無い大きさだと語る。最後に、ハメッドさんにこのような状況の中で、日本から安倍首相が訪れることに何を期待するか伺うと、米国との伝聞チャンネル以上の期待はしていないという返事であった。伝聞チャンネルとしての役割を果たすことができるのは既に大きな貢献であるが、日本国際問題研究所の貫井万里氏の語るように米国とイランの両者にとって最高なセッティングを用意するような働きができれば3、さらに大きな貢献になる。ハメッドさんの期待を良い意味で裏切る貢献が叶うことを願う。
 
3 貫井 万里(公益財団法人 日本国際問題研究所) https://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=349
イランテヘラン北部タジュリーシュのバザールの様子、2019.6.9撮影
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保険研究部   研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
災害復興、金融・健康行動、メンタルヘルス、ソーシャル・キャピタル

(2019年06月10日「研究員の眼」)

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