2019年06月07日

NY金が1300ドル台を回復、1400ドル突破の条件は?

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. 5月下旬に1オンス1270ドル台であったNY金先物はその後反発し、足元では1340ドル台まで上昇している。米国と他国との間の摩擦が激化したうえ、FRB要人発言によって利下げ観測が急激に台頭したためだ。
     
  2. ただし、NY金は反発したとはいえ、近年におけるレンジ内での動きに留まっている。昨年来、ドルが多くの通貨に対して上昇しており、ドル建て表記であるNY金の割高感が強まっているためだ。ちなみに、過去の事例を振り返ると、リーマンショックの際もNY金は上昇しなかった。危機に伴う換金売りが出たほか、流動性への不安から決済通貨であるドルを調達する動きが強まり、ドル高が進んだためと考えられる。
     
  3. 従って、NY金が今後も上昇し、1400ドルの節目を突破するためには、市場で先行き懸念が残存することに加えて、ドルの下落が必要になる。今後、NY金が1400ドルを突破するシナリオは2つ考えられる。一つは、「米経済失速シナリオ」だ。米中摩擦の激化などから米経済が失速し、FRBが大幅な利下げに踏み切るというシナリオだ。この場合、ドルの優位性が崩れ、リスクオフとともにドル安が進行することで、1400ドル突破の条件が揃う。もう一つは、「ユーロ大幅上昇シナリオ」だ。ドルインデックスに占めるユーロの割合は6割近くを占めているため、ECBの利上げなどを材料にユーロの対ドルレートが上昇すると、ドルインデックスは押し下げられる。さらに何らかのリスクが浮上すれば、NY金1400ドル突破の条件が揃うことになる。メインシナリオではないが、両者のうち早期に実現する可能性があるとすれば、「米経済失速シナリオ」の方だろう。
     
  4. 同シナリオが実現する場合、NY金の1400ドル突破は「世界経済に赤信号が灯った」ことを意味することになる。そして、その段階になって振り返ってみると、現在の1300ドル台回復は「世界経済に黄信号が点灯していた」ことを意味していたことになるだろう。
NY金とダウ平均
■目次

1.トピック:NY金1300ドル台回復、1400ドル突破の条件は?
  ・NY金上昇の背景
  ・依然、レンジ内に留まる理由
  ・1400ドル突破の条件
2.日銀金融政策(5月):追加緩和に関する意見の隔たり目立つ
  ・(日銀)維持(開催なし)
  ・見通し
3.金融市場(5月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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