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インド経済の見通し~財政金融政策により景気は年度後半から持ち直すも、輸出減速で緩慢な成長が続くと予想(2019年度+7.0%、2020年度+7.3%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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経済概況:内需が冴えず、成長率6%割れ

一方、公共部門は景気を下支えた。年度末の予算執行の加速や選挙関連支出により、政府消費は同13.1%増(前期:同6.5%増)と、2四半期ぶりの二桁成長まで上昇した。
純輸出については、まず輸出が同10.6%増と、4期連続の二桁成長となったものの、前期の同16.7%増から増勢が鈍化した。一方、輸入は同13.3%増(前期:同14.5%増)と、内需の減速を反映して小幅に減速した。結果として、純輸出の成長率寄与度は▲0.9%ポイント(前期:▲0.2%ポイント)と悪化した。
1 2018-19年度通年の成長率は前年比6.8%増(2017年度:同7.2%増)と低下し、5年ぶりに7%下回った。
2 インドでは不良債権問題を背景に国営銀行の融資が厳格化するなか、ノンバンク金融会社(NBFC)がインドの中小企業や消費者向けの信用供与を拡大させてきた。預金を持たないNBFCは資本市場で資金調達を行うため、IL&FSのデフォルトをきっかけとする流動性逼迫により経営状況が悪化している。
経済見通し: 19年度は+7%程度の勢いを欠いた成長へ
民間消費は足元で減速傾向にあるが、今後は農家の所得向上と所得減税の影響で下げ止まり、底堅い伸びを続けると予想する。政府は今年度の暫定予算に盛り込んだ農家支援金の直接給付3を3月に開始している。またインド気象局(IMD)の1次予測によると、今年の南西モンスーンは順調な雨量が得られる見通しであり、カリフ期の穀物生産は順調に推移する期待が高まってきている。農家の収入増加を通じて、農村部の消費需要は今後改善に向かうだろう。さらに政府は暫定予算において個人所得税の減税案を盛り込んでおり、これが実施されれば都市部の中間層の購買意欲を刺激するとみられるほか、インド準備銀行(RBI、中央銀行)の金融緩和やノンバンク金融会社に対する流動性供給策も消費需要の下支えとなるだろう。もっとも雇用情勢は厳しさを増しており、政府と中銀の支援策が機能しなければ都市部を中心に消費の冷え込みが続く恐れもある。
総固定資本形成は輸出減速により昨年のような二桁成長こそ望めないものの、総選挙を終えて政治の先行き不透明感が払拭されたことから堅調な拡大ペースに戻るだろう。4月に開票された下院総選挙では、モディ首相率いるインド人民党が前回総選挙(2014年)を上回る議席を獲得する歴史的勝利をおさめた。経済政策の継続性が担保されたため、企業は新政権発足まで見合わせていた新規投資に踏み切るものと予想される。またBJPの圧倒的勝利はモディ政権の経済改革への期待の高まりに繋がるため、経営者の景況感指数は改善して投資に弾みがつく展開も予想される(図表5)。なお、インド人民党は総選挙で掲げた公約のなかで「今後5年で100兆ルピーのインフラ投資」、「世界銀行が公表するビジネス環境ランキングで世界50位入り」を打ち出している。財政赤字を抱えるインド政府がインフラ投資を加速させるには財源の捻出が不可欠であるため、物品サービス税の見直しや直接税の簡素化など税制改革が進展しなければ、投資が息切れする恐れもある。
外需については、まず輸出が財貨・サービス共に取引相手国の景気減速を受けて鈍化しよう。また足元では米中貿易摩擦が再燃する一方、米トランプ政権が一般特恵関税制度(GSP)の対象国からインドを除外4するなど輸出を巡る環境は悪化しており、輸出の低迷は長期化する恐れもある。一方、輸入は内需の回復を背景に緩やかな拡大が続くことから、純輸出の成長率寄与度は悪化するだろう。
以上の結果、19年度の実質GDP成長率は内需の回復を輸出の低迷が相殺して+7.0%(18年度:+6.8%)の勢い欠いた成長となるだろう(図表6)。しかし、20年度は新政権の経済政策による投資の持続的な拡大や輸出の底打ちを受けて+7.3%成長まで回復すると予想する。
2期目のモディ政権では、モディ氏の最側近として財務相を務めたアルン・ジャイトリー氏が健康問題を理由に入閣を辞退したため、これまで国防相を務めていたニルマラ・シタラマン氏が次期財務相に指名された。あまり存在を知られていない同氏がどのように経済の舵取りを行うのか市場の注目が集まっている。
3 農家支援金の直接給付(通称:PM―Kisan)は総額7,500億ルピーを予算計上しており、1,000万を超える小規模農家に対し1世帯当たり年間6,000ルピーを3回に分けて支給される。昨年12月から遡って適用され、一回目の支給は3月末までに完了する見通し。
4 5月31日、米トランプ大統領がインドを一般特恵関税制度(GSP)の対象から除外することを発表した。GSPは途上国の経済発展を促すことを目的に米国への輸入にかかる関税を一部免除する制度である。GSP除外により、インドから輸出される自動車部品や化学薬品、食器類に最大7%の関税が課されることになる。
(為替の動向)年後半から再びルピー安へ

(物価の動向)19年度後半からインフレ警戒感が強まる

先行きのインフレ率は、当面食品価格を中心に緩やかに上昇、その後は政府による財政出動、RBIの金融緩和を背景に消費需要が回復する年後半から物価上昇ペースが強まる展開を予想する。19年度末にはRBIの中期インフレ目標の中央値である4%を上回るまで上昇してインフレ警戒感が次第に強まるだろう。従って、CPI上昇率は19年度末には+4.3%、20年度末には+5.2%まで上昇すると予想する。
また当面は南西モンスーンがもたらす雨季(6-9月)の降雨がインフレリスクとなりそうだ。インド気象局(IMD)の1次予測によると順調な雨量(平年の96%程度)が得られる見通しであるが、民間気象会社スカイメット社はエルニーニョ現象による影響を大きくみており、IMDよりも少ない雨量(平年の93%程度)を予測している(同社は干ばつの発生確率を15%と予測)。インドにおける雨季の降雨量は年間の7割を占め、農産物の生育を左右するだけに食品価格に及ぼす影響も大きいとされる。雨季入り前の天気予報は予測精度が高いとは言えず、実際の降雨動向に注目が集まる。
(金融政策の動向)6月で利下げ打ち止め、20年度半ばには再び引締め局面に入ると予想

しかし、12月には政府との不仲が伝えられたパテル総裁が辞任し、モディ首相に近いとされるダス元財務官が新総裁に就任すると風向きが変わった。政府が2月1日に選挙対策色の強い来年度予算案を発表すると、RBIは2月7日の会合で政策金利を従来の6.50%から6.25%へと引き下げると共に、当面の金融政策のスタンスを「引き締め」から「中立」に戻した。さらに4月の会合では、景気減速やインフレ率の低迷により金融緩和余地が生まれたことから、RBIは追加利下げを実施している。
先行きについては、まず6月の金融政策決定会合でRBIは1-3月期のGDP統計で更なる成長鈍化が確認されたこと、米中貿易摩擦の再燃で輸出の下振れリスクが高まったこと、インフレ率が中期目標の中央値を下回って推移していることを考慮して3会合連続となる利下げ(▲0.25%)を決定すると予想する。しかし、先行きのインフレリスクや世界景気不安を背景とする新興国資金流出を警戒して金融政策のスタンスは「中立」を維持し、RBIの利下げは一旦打ち止めとなるだろう。その後、19年度末にかけては景気回復の遅れや緩やかな物価上昇を背景に政策金利は据え置かれるが、20年度半ばには景気回復や通貨安を背景にインフレ警戒感が高まるなかでRBIが再び金融引き締めに動くと予想する。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年06月05日「基礎研レター」)

03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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