2019年06月04日

市場の拡大が続くインドネシアの生保市場-インドネシアの生命保険市場(2017)-

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3|販売チャネル
グラフ4は、インドネシア生命保険協会(AAJI)データによる2015年(1年間)と2018年1月~9月(9ヶ月間)のチャネル別販売シェアである。

インドネシアでは銀行を通じた生保販売がここ数年、大きく伸びてきた。その結果、「2015年」から「2018年1~9月」へと推移する間に、バンカシュランスが、最大シェアを持つ販売チャネルとしての地位を、エージェントから奪っている。
グラフ4 インドネシア生保市場における販売チャネルシェアの推移(保険料による)
4|資産運用
投資資産(総資産から非投資資産を除いたもの)の運用状況がグラフ5である。

定期預金・CD(9.2%)や国債等(13.1%)など、安全性の高い資産への投資が約3割で、株式(30.4%)、ミューチュアルファンド(35.3%)等のリスク性の運用資産への投資割合が6割を超えている。

リスク性資産の構成比が高いのは、販売商品中のユニットリンク保険の割合が大きいことと関連があると考えられる。
グラフ5 インドネシア生保会社の投資資産の構成(2017年末)

4――市場参入の状況 会社数の推移

4――市場参入の状況 会社数の推移

1|生命保険会社
2017年末現在、インドネシアには61の登録生命保険会社がある。内訳は、内国会社が37社、外資との合弁会社が24社である。2016年から2017年にかけ、内国会社数の増加が大きい。
表2 インドネシアの生命保険会社数の推移
収入保険料で計算した2017年のシェア(表3)を見ると、内国会社のシェアが45.8%、外資合弁会社のシェアが54.2%で、市場の半分を外資合弁会社が押さえている。しかし外資合弁会社のシェアは前年の2016年には6割を超えていたので、内国会社のシェア増加が著しい。

収入保険料上位20社を見ると、上位に外資合弁会社が数多くランクインしている。

2018年5月、ジョコ・ウィドド大統領が保険会社への外資出資比率の上限を80%とするという規則に署名した。80%の上限規制は上場保険会社や当該規則発効以前に、すでに外資の比率が上限を超えている会社には適用されず、これらの会社が外資の出資比率を引き下げることを強制されることはない。20社以上の保険会社の外資出資比率が80%を超えていると言われ、この既得権が認められないと大きな摩擦が引き起こされると案じられていたが、インドネシア当局は外資の果たしている役割を評価して、既得権を認める方向を採用した。
表3 収入保険料上位20社(2017年)
2|イスラム保険(シャリア生命保険またはタカフル生命保険)の状況
 インドネシアは人口の約9割がイスラム教徒という宗教的な側面を持つ国である。そしてイスラム教徒の世界には、一般的な生保事業とは別途のイスラムの教義に即したシャリア生命保険(世界的にはタカフル生命保険と呼ばれることが多い)がある。インドネシアでもシャリア生命保険の提供がなされている。表4はインドネシアでシャリア生命保険事業を営む会社数の推移である。2017年末現在、シャリア生命保険専業会社が7社、シャリア生命保険を提供するビジネスユニットを持つ生保会社が23社ある。このいずれの社数も過去最高である。
表4 シャリア生命保険を提供する会社数の推移
表5はシャリア生命保険事業の業績数値と一般の生命保険事業の業績数値を対比したものである。シャリア生命保険事業の規模が一般の生命保険事業の何%にあたるかを見ると、2017年では、保険料で5.6%、総資産で7.3%となっている。保険料ベースでは2014年以降、シャリア生保事業のシェアが下がってきていたが、2017年にはシェア増加に転じた。
表5 シャリア生保事業と一般の生保事業の規模比較
今後、インドネシア経済の発展とともに国民の間に生命保険へのニーズが高まることが予想されるが、その際には、イスラム教徒の一定割合の人々がイスラムの教義に則ったシャリア生命保険に加入することを選択すると考えられる。そのためシャリア生命保険事業の将来性は明るいと見られており、シャリア生命保険事業の発展を見越して多くの生命保険会社が取組を開始した。

OJKはビジネスユニットの一つとしてシャリア生命保険事業を行っている生命保険会社に対し、シャリア生命保険部門を分社化することを求めている。これに応じ2016年と2017年に1社ずつのシャリア生命保険専業会社が発足した。
 

5――さいごに

5――さいごに

以上、数値を2017年のものに更新する形で、インドネシア生命保険市場の状況変化を見てきた。インドネシアの生保市場は、2016年までの好調を2017年も持続し、期待通りの成長を見せたが、2018年については伸び悩みの傾向が見られるとの報道もある。とは言え、インドネシア生保市場のキャパシティが高いこと、長期的に大きな成長が見込める市場であることには異論がない。これからも、外資のインドネシア生保市場への参入は続くだろう。ただし主立った保険先進国の代表的な保険会社が顔を揃え、地場の生保会社とともに覇を競うインドネシア生保市場は、まさに生保オリンピックの様相を呈しており、魅力ある市場であるとともに、生保会社の経営力を問われる場ともなりつつある。競争の中では撤退を選ぶ会社も出てくる。例えばオーストラリアのコモンウェルス銀行は2018年10月に、インドネシア生保子会社の株式80%をFWDに売却すると発表した。

今後とも、継続的にインドネシア生保市場のフォローを続けていくこととしたい。
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松岡 博司

研究・専門分野

(2019年06月04日「保険・年金フォーカス」)

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