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不眠大国からの脱却ー健康経営における睡眠の視点
基礎研REPORT(冊子版)4月号

清水 仁志
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不眠は、生活習慣病や精神病など様々な病気の原因となることが指摘されている。世界保健機関(WHO)が2018年6月に公表した国際疾病分類の第11回改訂(ICD11)では、新たに「睡眠・覚醒障害」が新章として追加され、世界的に睡眠が重要視されている。しかし、日本人の睡眠に対する理解は決して進んでいるとは言えない。日本人は不眠であっても医療機関を受診せず、アルコール飲用により対処している割合が高いという調査もある。
2―不眠に対する企業の取り組み
確かに、厚生労働省「平成27年国民健康・栄養調査」によると、働く世代における睡眠の妨げとなっている最大の原因は「仕事」であり、睡眠改善には企業の協力が必須であると言える。しかし、企業が従業員の睡眠改善に直接取り組むことは難しい。睡眠は完全に業務時間外のことであり、プライバシーの点から企業が管理することは容易ではない。さらには、理想的な睡眠は個人によって異なるため、禁煙などのようにこうしたほうがよいという明確な解が示しづらい。
そうした中、企業は、長時間労働の是正などの働き方改革を通じて、従業員の睡眠改善へ取り組もうと試みる。厚生労働省「平成29年版過労死等防止対策白書」によると、労働時間が長くなるほど睡眠時間の充足状況が悪化することから、長時間労働の是正は睡眠改善に一定の効果が見込めるだろう。しかしながら、組織一律の働き方改革による間接的な取り組みだけでは不十分だ。睡眠改善のためには、職場でのストレス軽減、通勤時間の短縮に向けた環境整備(在宅勤務の導入など)、業務量の平準化等、多岐にわたる取り組みが必要だ。また、育児や介護など従業員ごとによって生活環境が異なるため、よりきめ細やかな対応が必要となる。一律にここまで労働時間を減らせばよいという基準はない。
3―健康経営としての不眠対策
こうした取り組みを可能にするのが技術革新だ。IoTデバイスや解析ソフトの進歩により、従業員ごとに健康状態、睡眠時間・質の測定等が出来るようになってきた。2018年4月には、繊維大手の帝人が企業向けに睡眠向上のためのサービス提供を始めた。アンケートとウェアラブル端末、スマホアプリを活用することで、従業員それぞれが抱えている睡眠の課題に応じた独自の解決策を示すことが出来る。
不眠対策については、従来の労働時間の短縮や、啓蒙活動等によるアプローチだけでなく、今後は従業員ごとにデータに基づく一歩踏み込んだ取り組みも、技術的には可能になっていくだろう。ただ、従業員の健康維持が目的とは言え、価値観、プライバシーの領域にどこまで関与すべきなのかという課題はさらに大きくなりそうだ。睡眠改善に向けた取り組みは、会社と従業員の信頼関係が問われる。
不眠大国という汚名の返上を果たせるだろうか、企業の試行錯誤、創意工夫に期待したい。
[*1]Nagata T, Mori K, Ohtani M, Nagata M,Kajiki S, Fujino Y, Matsuda S, Loeppke R.TotalHsealth-Related Costs Due to Absenteeism,Presenteeism, and Medical and PharmaceuticalExpenses in Japanese Employers.J OccupEnviron Med. 2018 May;60(5):e273-e280
[*2] 「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標
(2019年04月05日「基礎研マンスリー」)
清水 仁志
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