コラム
2019年04月01日

保険法早わかりシリーズ第二回-入門、被保険者同意

保険研究部 取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任   松澤 登

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一般に契約は二当事者間の合意で締結される。たとえば、自動車の売買契約であれば、自動車を売ろうとする販売事業者と自動車を買おうとする顧客の間で売買の合意があれば契約は有効に成立する。

一方、他人の死亡の保険契約においては、保険会社と保険契約者になろうとする者の間の合意だけで契約が有効に成立するわけではなく、被保険者になろうとする者の同意が必要となる(保険法第38条)1。被保険者とはその人の生死が保険の対象になっている人のことをいい、他人の死亡の保険契約とは契約者と被保険者が別の者である死亡保険契約のことである。

なぜ、死亡保険契約の締結に当たって被保険者の同意が必要になるかについては、主に三つの根拠が説明される。一つ目は過去の英国で起こったような関係のない有名人の生命に保険をかけるような賭博的な利用を排除すること、二つ目には被保険者の生命が危機にさらされるようないわゆる道徳的危険(モラルリスク)を防止すること、三つ目には自己の生命に他人が勝手に保険かけることを排除するといった人格権的な利益を保護すること、が挙げられている2。論者によって重点の置き方が違うが、人格権的な要素を強調すると死亡保険だけではなく、生存保険にも同意を必要とするなど広く同意を要すべきとする議論と結びつきやすい面がある3

これらの被保険者の利益を守るために被保険者の同意を得るといった現行法の方法(同意主義)は必ずしも唯一の考え方ではない。他国では利益主義をとっている国もある。これは被保険者の死亡によって生活が困るなど被保険者の生存にメリットがあるような者のみが契約者となれるという仕組みである。損害保険では被保険利益4といえば、保険の成立に必要とされているものである。ただ、死亡保険においては誰がどのような利益をどれだけ保有するのか判断するのは難しい。親子の間ならどうか、会社と従業員ならどうか、微妙な問題が多くある。

また、日本で昔採用されていた親族主義という方式もある。親族主義とは家族の間でのみ付保できるというものであるが、親族以外にも死亡保険は利用されているので、狭きにすぎるし、また家族間であれば勝手に死亡保険を付保してよいというのも疑問である。

そこで旧商法および保険法が採用している同意主義となるのだが、実務的には被保険者同意があれば何でも良いというわけではなく、保険契約者や保険金受取人と被保険者との関係を見つつ、引受を行うかどうか生命保険会社が総合的に判断している。
 
さて、旧商法から保険法になったことによる最大の変更点は、被保険者が死亡保険契約の解除請求ができるとしたことである(保険法第58条)。旧商法下では被保険者の同意は撤回できないと解されており、いったん保険契約締結に同意した以上は、同意をなかったことにしてくれとはいえないとされてきた。死亡保険契約が締結された時点と事情が大きく異なった場合(たとえば夫が妻に保険をかけたが離婚した場合や従業員に保険を付したがその従業員が退職した場合)でも、被保険者が契約を解消する手段は存在しなかった。

しかし、保険法では(1)道徳的危険が生じた場合(契約者が被保険者を死亡させようとしたり、保険金支払に関して詐欺的な行為を行ったりした場合)、(2)保険契約者や保険金受取人と被保険者との間の信頼が損なわれた場合、(3)保険契約締結したときに基盤となった事情が変化した場合(離婚や退職)には、被保険者は契約者に対して保険契約を解除するように請求することができるようになった。

直接的に被保険者が保険会社に対して解除請求するのではなく、保険契約者に対して請求することとされたのは、上記で挙げたような事情が本当にあるかどうかを保険会社は確定的に知ることができないため、保険契約者と被保険者の間で合意を形成させることが相当であるとされたためである5。たとえば、離婚した元妻が元夫に死亡保険契約をかけているが、元妻が養育するこどもの扶養料を元夫が支払っているような場合には保険契約を解除しないことも一理あろう。なお、保険契約者が解除に応じない場合は、被保険者が、保険契約者に対して解除の意思表示を求める訴訟を起こすことになる。
 
次に保険法制定過程で議論になったが、改正されなかった点についても触れておきたい。それは未成年者の被保険者同意についてである。被保険者同意の法的性格については、ここでは深く立ち入らないが、保険契約を有効にするという法律上の効果を有する意思の表明である。

未成年者の生命に関する死亡保険契約における被保険者(=未成年者)の同意は、そもそも有効に行えるのか、という論点がある。先に述べたとおり、被保険者同意は被保険者の利益保護のために行われる。小さいこどもがそのことを理解して意思の表明を行うことはできないのではないか、ということである。それではその場合、親権者が代理して同意することができるのか、という問題もある。自分の生命に関することなのに、こどもとは別人である親が代理できるのかということである。さらにはこどもに一定の死亡保障が必要だとしても保険金の金額制限が必要ではないかとの議論も保険法制定の過程で行われた。

実際には、こども保険や学資保険といったこどもを被保険者とする保険契約も一般的に販売されており、特段、こどもの生命に関する保険で問題が生じたということはない。この問題については、改正にあたった法制審議会では結論を出さず、その取扱を金融審議会に委ねる形になった(実際には両審議会が連動する形で審議された)。結論としてこどもの被保険者同意については規定を設けないことになり、また、金額制限を含む道徳的危険については業界として適切に取り組むことが金融審議会第二部会保険基本WGで表明された。

実務では従来から15歳未満のこどもの生命に関する死亡保険については親権者等法的代理人が同意を行うこととされており、15歳以上のこどもでは本人が同意することとなっているが、これは現状でも維持されている。一方、金額制限については15歳未満に関する死亡保険について適切に各社が社内基準を設けることとされた6。ただし道徳的危険を防止するためには各保険会社が金額制限をするだけではなく、保険会社における適切な危険選択が必要となることはいうまでもない。
 
最後に傷害疾病定額保険について触れておきたい。傷害疾病定額保険とは保険法制定によって新たに分類された保険の類型で、いわゆる第三分野の保険契約である7。傷害や疾病で入院・手術したり、一定の状態になったりした場合に、あらかじめ定められた額の保険金が支払われる保険である。典型的には家族傷害保険や医療保険などがある。

傷害疾病定額保険については、被保険者自身が保険金受取人になる場合には、被保険者の死亡のみを目的とするものを除き、被保険者同意が不要とされた(保険法第67条)。傷害疾病定額保険では入院・手術のほか、死亡給付が付いている保険契約が珍しくないが、その場合であっても、被保険者同意は不要である8。傷害疾病死亡のみを保障対象とする保険契約について、被保険者同意が必要とされている。

これは傷害疾病保障という被保険者自身の保険ニーズが強い保険契約において定型的に道徳的危険が少ないと判断されたものである。実務的には、遊園地が入場者に対して傷害保険を付するような場合や、町内の運動会で参加者に傷害保険を付するような場合に、全員から同意を取り付けるのは事実上困難であることなどの事情が背景にあったようである。
 
被保険者同意は被保険者の利益を守るために行われる。したがって定型的に被保険者の利益となる場合には被保険者同意が不要となる、あるいは簡易な同意方法(保険契約を締結することを通知し、異論がないことを持って同意とする9)が認められている。被保険者の利益と保険契約の利便性実現のバランスを現実にどうとっていくのか立法過程で問われたのが、被保険者同意規定であった。
 
1 旧商法にも被保険者同意が必要であることだけは規定されていたが、保険法では被保険者同意が死亡保険契約の有効要件であると規定し、その性格が法文上も明確化された。たとえば保険契約の締結後に被保険者の同意があった場合にはその時点から契約が有効になると説明するものがある(萩本修編著「一問一答保険法」(商事法務2009年)p171)。
2 山下友信「保険法」(有斐閣2005年)p268など
3 山下友信・米山高生編「保険法解説」(有斐閣2010年)p182 山下哲生担当分
4 ある物に偶然の事故が発生したときに、ある人が損害を被る場合に、その人がその物に被保険利益があるという。たとえば家屋の所有者はその家屋に被保険利益を有する。
5 前掲注1、p197
6 生命保険協会「未成年者を被保険者とする生命保険契約の適切な申込・引受に関するガイドライン」(平成21年1月29日)。なお、保険基本WG席上では危険選択を適正に行ったうえで1000万円を上限とすることが妥当ではないかとの意見が出された。
7 保険金額が定額ではない損害てん補型の商品は保険法上、損害保険契約とされた。保険業法上の分類とは相違する。
8 死亡保険金の受取人は実際には被保険者の相続人になる。
9 企業保険ではあるが、総合福祉団体定期保険がこの方式で行われることが多い。
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保険研究部   取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法、企業法務

(2019年04月01日「研究員の眼」)

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