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迫る米予算管理法の期限切れ―予算管理法(BCA)は21年度で期限切れ。長期的な視野に立ち実効性の高い財政規律ルールの導入を

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩
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3――トランプ政権下で財政収支が悪化、財政規律の形骸化が深刻
トランプ大統領は16年の選挙期間中、8年間で政府債務を完済すると主張していたが、18年初から10年間でおよそ1.5兆ドル規模となる大型減税を実現した。また、裁量的経費についてもBCAが定める歳出上限額から18年度および19年度について歳出上限額を合計2,900億ドル程度引き上げたほか、BCAで歳出上限に含まれないOCOなどでも2年度合計2,900億ドルの合計5,800億ドル強増加4させた(前掲図表4)。

一方、トランプ大統領は大型減税を実施しても成長率が高まることで歳入が増加するため、歳入は減少しないとしていた。実際に18年度の歳入は前年度に比べて僅かながら増加している。しかしながら、議会予算局(CBO)が大型減税を実施する前の政策を前提に試算した18年度見通しと比較すると、歳入は▲2,700億ドル(▲7.6%)程度下振れしていることが分かる(図表6)。
歳入の内訳をみると個人所得税が▲970億ドル(▲5.4%)、法人所得税では▲1,350億ドル(▲39.7%)の大幅な落ち込みとなっており、減税に伴い歳入が減少したことが分かる。
なお、大型減税の実施に際し、今後10年間で歳入がおよそ▲1.5兆ドル減少することが見込まれる一方、それに見合う義務的経費の削減が行われなかった結果、金融危機後に復活させたペイ・アズ・ユー・ゴー原則に抵触した。このため、本来であれば義務的経費を強制的に削減する必要があるが、税制改革法5では同原則の不適用が盛り込まれた。このため、トランプ政権下で金融危機後に導入した財政規律強化策の形骸化が深刻となっている。
4 授権ベース。
5 “The Tax Cuts and Job Act of 2017”
3月11日に発表された予算教書6で、トランプ大統領は財政収支(GDP比)が19年度に▲5.1%まで悪化するものの、その後は低下基調に転じ、10年後の29年度には▲0.6%まで低下させる方針を示した(図表7)。これは現行の予算関連法を前提にしたCBOのベースライン見通しで29年度の財政赤字を▲4.4%と推計しているのとは対照的になっている。
また、債務残高(GDP比)についても同様に予算教書が今後10年間で債務残高を18年度の77.8%から29年度には71.3%に低下させる方針となっているのに対して、CBO見通しでは29年度に92.7%まで増加するとしており、大幅な乖離がみられている(図表8)。
また、裁量的経費の非国防予算については歳出上限(5,430億ドル)を維持し、22年度以降は毎年2%減額するとしており、今後10年間で▲1.1兆ドルの削減を見込んでいる。さらに、オバマケアの廃止や医療改革によっても同▲1.2兆ドルの削減を盛り込んでいる。このため、政治的に野党民主党が予算教書の内容を許容する可能性は低い。

さらに、成長率について予算教書は29年にかけても+2.8%までの低下に留まる一方、CBOは+1.8%まで低下するとしており、10年平均でも予算教書(+2.9%)、CBO(+1.7%)の差が大きくなっている。米国の潜在成長率は2%近辺とみられるため、予算教書の成長率想定は非現実的と言わざるを得ない。
なお、責任ある財政委員会(CRFB)は、予算教書で示された財政政策を用いて、成長率の前提のみをCBOの想定に変更した場合の財政収支や債務残高を試算している。同試算では29年度の財政赤字は▲3.2%(予算教書:▲0.6%)、債務残高は87%(同:71.3%)と予算教書から大幅に悪化することが示されており、現実的な成長率を前提にすると今後も財政状況は悪化する可能性が高い。
6 大統領から議会に対する予算要求。議会による予算編成では参考程度の位置づけとなっている。
4――BCAに代わる財政規律ルールの本格的な議論を
18年に施行された超党派予算法に基づき「予算と歳出プロセス改革に関する合同特別委員会」(The Joint Select Committee on Budget and Appropriations Process Reform)が設置された。これは、予算編成プロセスの改革を議会に推奨するための超党派の委員会で、上下院の与野党からそれぞれ4名ずつ、合計16名からなる。同委員会では外部の有識者とのヒアリングなども通じて、財政規律を含めた予算編成プロセスの見直しが議論されたが、期限である11月30日までに委員会としての推奨案をまとめることが出来ずに委員会は解散した。このため、財政規律強化策が形骸化する中、財政規律の見直し議論は停滞している。

このように、財政赤字の縮小を求める世論が盛り上がっていないことも、議会の中で財政規律を強化するインセンティブは高まらない要因だろう。
BCAに基づく歳出上限は21年度で終了する。このため、22年度以降の裁量的経費には歳出上限の縛りが無くなる。BCAは裁量的経費の歳出削減に一定の役割を果たしたものの、超党派で歳出上限の引き上げが可能となっていることや、除外項目の乱用などにより遵守されてこなかった。

このため、BCAの後継となる財政規律ルールの策定においては、裁量的経費の歳出上限を厳格化する仕組みや、ペイ・アズ・ユー・ゴー原則の復活とともに、裁量的経費に加え義務的経費をGDP比で抑制させる仕組みを入れることが求められる。
一方、法定債務上限において与野党対立によって13年以降、具体的な金額が決められない状況が続いているが、これは非現実的な目標が提示され、それが議論の出発点になることで結局、議論が折り合わず、結局時間切れとなって何も決められない最悪の結果となっていることが多い。このため、新しいBCAでは遵守可能で現実的な目標設定が重要だろう。
これから、20年度の予算編成が本格化するが、現在22兆ドルで設定されている法定債務上限の引き上げ問題と併せて、BCAの後継となる実効的な財政規律ルールの策定に期待したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年03月29日「基礎研レポート」)

03-3512-1824
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
窪谷 浩のレポート
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