2019年03月29日

迫る米予算管理法の期限切れ―予算管理法(BCA)は21年度で期限切れ。長期的な視野に立ち実効性の高い財政規律ルールの導入を

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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3――トランプ政権下で財政収支が悪化、財政規律の形骸化が深刻

1大型減税、歳出拡大により財政収支は大幅に悪化
トランプ大統領は16年の選挙期間中、8年間で政府債務を完済すると主張していたが、18年初から10年間でおよそ1.5兆ドル規模となる大型減税を実現した。また、裁量的経費についてもBCAが定める歳出上限額から18年度および19年度について歳出上限額を合計2,900億ドル程度引き上げたほか、BCAで歳出上限に含まれないOCOなどでも2年度合計2,900億ドルの合計5,800億ドル強増加4させた(前掲図表4)。
(図表5)18年度実 このような財政政策を実施した結果、18年度の財政赤字は前年度比+17.1%増加し、▲7,791億ドルとなった。GDP比でも▲3.8%(前年度:▲3.5%)と前年度から拡大し、▲13年度(▲4.1%)に迫る水準となった(図表5)。
(図表6)18年度歳入比較 これを歳出入別にみると、歳出は前年度比+3.2%増加したが、義務的経費が横這いとなったものの、裁量的経費が歳出の引き上げにより+5.1%の増加となったことが大きい。

一方、トランプ大統領は大型減税を実施しても成長率が高まることで歳入が増加するため、歳入は減少しないとしていた。実際に18年度の歳入は前年度に比べて僅かながら増加している。しかしながら、議会予算局(CBO)が大型減税を実施する前の政策を前提に試算した18年度見通しと比較すると、歳入は▲2,700億ドル(▲7.6%)程度下振れしていることが分かる(図表6)。

歳入の内訳をみると個人所得税が▲970億ドル(▲5.4%)、法人所得税では▲1,350億ドル(▲39.7%)の大幅な落ち込みとなっており、減税に伴い歳入が減少したことが分かる。

なお、大型減税の実施に際し、今後10年間で歳入がおよそ▲1.5兆ドル減少することが見込まれる一方、それに見合う義務的経費の削減が行われなかった結果、金融危機後に復活させたペイ・アズ・ユー・ゴー原則に抵触した。このため、本来であれば義務的経費を強制的に削減する必要があるが、税制改革法5では同原則の不適用が盛り込まれた。このため、トランプ政権下で金融危機後に導入した財政規律強化策の形骸化が深刻となっている。
 
4 授権ベース。
5 “The Tax Cuts and Job Act of 2017”
2財政状況は今後も悪化が続く見通し
3月11日に発表された予算教書6で、トランプ大統領は財政収支(GDP比)が19年度に▲5.1%まで悪化するものの、その後は低下基調に転じ、10年後の29年度には▲0.6%まで低下させる方針を示した(図表7)。これは現行の予算関連法を前提にしたCBOのベースライン見通しで29年度の財政赤字を▲4.4%と推計しているのとは対照的になっている。

また、債務残高(GDP比)についても同様に予算教書が今後10年間で債務残高を18年度の77.8%から29年度には71.3%に低下させる方針となっているのに対して、CBO見通しでは29年度に92.7%まで増加するとしており、大幅な乖離がみられている(図表8)。
(図表7)財政赤字見通し(GDP比)/(図表8)債務残高見通し(GDP比)
予算教書では、税制改革法で時限措置となっていた個人所得減税の恒久化に伴い、今後10年間でさらに1兆ドル財政赤字が拡大する。また、国防関連予算についてもBCAに基づく歳出上限(5,760億ドル)は維持するものの、OCOなどを1,740億ドル計上することで歳出上限から大幅に引き上げたほか、BCAが期限切れとなる22年度以降の歳出上限を引き上げ、今後10年間で1兆ドルの増額を見込んでいる。

また、裁量的経費の非国防予算については歳出上限(5,430億ドル)を維持し、22年度以降は毎年2%減額するとしており、今後10年間で▲1.1兆ドルの削減を見込んでいる。さらに、オバマケアの廃止や医療改革によっても同▲1.2兆ドルの削減を盛り込んでいる。このため、政治的に野党民主党が予算教書の内容を許容する可能性は低い。
(図表9)GDP前提比較 一方、予算教書で提示された財政赤字や債務残高の削減は非現実的な経済前提によって実現しているとの指摘が多い。実質GDP成長率(前年比)の見通しを比べると、予算教書では19年(暦年)が+3.2%と、CBOの+2.7%を上回っているほか、20年ではさらに予算教書(+3.1%)とCBO(+1.9%)の差が大きくなっている(図表9)。

さらに、成長率について予算教書は29年にかけても+2.8%までの低下に留まる一方、CBOは+1.8%まで低下するとしており、10年平均でも予算教書(+2.9%)、CBO(+1.7%)の差が大きくなっている。米国の潜在成長率は2%近辺とみられるため、予算教書の成長率想定は非現実的と言わざるを得ない。

なお、責任ある財政委員会(CRFB)は、予算教書で示された財政政策を用いて、成長率の前提のみをCBOの想定に変更した場合の財政収支や債務残高を試算している。同試算では29年度の財政赤字は▲3.2%(予算教書:▲0.6%)、債務残高は87%(同:71.3%)と予算教書から大幅に悪化することが示されており、現実的な成長率を前提にすると今後も財政状況は悪化する可能性が高い。
 
6 大統領から議会に対する予算要求。議会による予算編成では参考程度の位置づけとなっている。
 

4――BCAに代わる財政規律ルールの本格的な議論を

4――BCAに代わる財政規律ルールの本格的な議論を

1予算編成プロセス改革議論が頓挫、財政赤字に対する有権者の関心も低い
18年に施行された超党派予算法に基づき「予算と歳出プロセス改革に関する合同特別委員会」(The Joint Select Committee on Budget and Appropriations Process Reform)が設置された。これは、予算編成プロセスの改革を議会に推奨するための超党派の委員会で、上下院の与野党からそれぞれ4名ずつ、合計16名からなる。同委員会では外部の有識者とのヒアリングなども通じて、財政規律を含めた予算編成プロセスの見直しが議論されたが、期限である11月30日までに委員会としての推奨案をまとめることが出来ずに委員会は解散した。このため、財政規律強化策が形骸化する中、財政規律の見直し議論は停滞している。
(図表10)財政赤字と世論調査 これは、有権者の財政赤字に対する危機感が後退していることも影響していると思われる。ピューリサーチセンターの世論調査では、「財政赤字の縮小が政策の最優先課題である」との回答割合は、金融危機後に財政赤字が急拡大したこともあって、一時7割を超えていた(図表10)。しかし、その後は財政赤字の縮小とともに低下基調に転じ、15年度以降に再び財政赤字が拡大に転じてからも回答割合の上昇はみられておらず、直近(19年1月調査)では5割を下回っている。これは、財政赤字の水準が金融危機後に比べて依然として低位に留まっていることから、有権者の危機感が強まっていないと考えられる。

このように、財政赤字の縮小を求める世論が盛り上がっていないことも、議会の中で財政規律を強化するインセンティブは高まらない要因だろう。
2BCAに代わる実効性の高い財政規律ルールの導入議論を
BCAに基づく歳出上限は21年度で終了する。このため、22年度以降の裁量的経費には歳出上限の縛りが無くなる。BCAは裁量的経費の歳出削減に一定の役割を果たしたものの、超党派で歳出上限の引き上げが可能となっていることや、除外項目の乱用などにより遵守されてこなかった。
(図表11)歳出内訳(18年度実績) また、BCAの問題点として歳出削減が裁量的経費に偏っていることが指摘されている。連邦政府の歳出は義務的経費が6割と大きく、裁量的経費は3割に過ぎない(図表11)。

このため、18年度実績では裁量的経費の非国防関連支出額(6,390億ドル)を全額削減しても財政赤字(▲7,790億ドル)は解消できない状況となっている。
(図表12)歳出見通し(GDP比) さらに、CBOの歳出見通し(GDP比)では、裁量的経費が18年度の6.3%から29年度には5.0%の低下が見込まれている一方、義務的経費は12.6%から15.1%に増加することが見込まれている(図表12)。これは、高齢化などによるメディケアなどの歳出が構造的に増加するためだ。

このため、BCAの後継となる財政規律ルールの策定においては、裁量的経費の歳出上限を厳格化する仕組みや、ペイ・アズ・ユー・ゴー原則の復活とともに、裁量的経費に加え義務的経費をGDP比で抑制させる仕組みを入れることが求められる。

一方、法定債務上限において与野党対立によって13年以降、具体的な金額が決められない状況が続いているが、これは非現実的な目標が提示され、それが議論の出発点になることで結局、議論が折り合わず、結局時間切れとなって何も決められない最悪の結果となっていることが多い。このため、新しいBCAでは遵守可能で現実的な目標設定が重要だろう。

これから、20年度の予算編成が本格化するが、現在22兆ドルで設定されている法定債務上限の引き上げ問題と併せて、BCAの後継となる実効的な財政規律ルールの策定に期待したい。
 
 

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窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2019年03月29日「基礎研レポート」)

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