2019年03月27日

韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

文字サイズ

1――はじめに

韓国では最近、少子高齢化による生産年齢人口の減少に対する対策の一つとして外国人労働者を受け入れようとする動きが広がっている。韓国における在留外国人数は2013年の157.6万人から2016年には204.9万人まで増加した。また、同期間における外国人就業者数も76万人から96.2万人まで増加している。

韓国における外国人労働者の受入れ政策は大きく「優秀専門外国人労働者の誘致戦略」と「非専門外国人労働者の効率的活用」に区分することができる。優秀専門外国人労働者の誘致戦略としては、「電子ビザの発給」、「点数移民制の施行」、「留学生の誘致及び管理強化」、「投資移民の活性化」等が挙げられる。また、非専門外国人労働者の効率的活用と関連した代表的な政策としては、2004年8月に施行された雇用許可制がある。雇用許可制とは、国内で労働者を雇用できない韓国企業が政府(雇用労働部)から雇用許可書の発給を得て、合法的に外国人労働者を雇用する制度である。

日本における外国人労働者も2008年の48.6万人から2017年には128万人まで増加している。しかしながら、外国人労働者を在留資格別みると、留学生などの資格外活動(29.7万人)と技能実習(25.8万人)等、長期間にわたる就労を目的としていない在留資格で働く外国人労働者の割合は43.4%にも達している。さらに、最近は、技能実習制度の問題点が指摘され、それに対する対策も求められているところである。

今後、日本が長期的な労働力人口の減少に合わせて外国人労働者を受け入れるためには、技能実習生制度のみならず、韓国が導入している雇用許可制やドイツやシンガポール1など先進国の労働許可制の導入も含め、外国人労働者受け入れ政策の転換を考える必要があるだろう。本稿では、韓国における外国人雇用の現状と課題、そして雇用許可制の実態を分析することにより、今後の日本における外国人労働者受け入れ政策のあり方について考察する。
 
佐野孝治(2014)「韓国の経験に学ぶ:人手不足対策、外国人雇用強化制度とは、最終回」労働新聞2014年12月22日
 

2――在留外国人と外国人労働者の現状

2――在留外国人と外国人労働者の現状

韓国における在留外国人の数は、2016年12月末現在204.9万人で、前年に比べて8.5%増加している。在留外国人の数が200万人を超えたのは統計を集計して以降初めてで、人口に占める在留外国人の割合も2012年の2.84%から2016年には3.96%まで上昇している。
図表1 韓国における在留外国人などの推移
国籍別では、中国が101.7万人(49.6%、韓国系中国人が61.7%)で最も多く、次いでベトナム14.9万人(7.3%)、アメリカ14.0万人(6.8%)、タイ10.1万人(4.9%)の順になっている。性別では、男性が54.5%で女性の45.5%を上回っている。そして、年齢階層別(5歳刻み)では25~29歳が16.3%で最も多く、次いで30~34歳(14.5%), 20~24歳(10.6%), 35~39歳(10.2%)の順であった。
図表2 国籍別在留外国人の構成比/図表3 年齢階層別在留外国人の構成比
ビザ類型別には、在外同胞(F-4:372,533人、18.2%)、非専門就業(E-9:279,187人、13.6%)、訪問就業(H-2:254,950人、12.4%)、短期訪問(C-3:190,443人、9.3%)が上位4位になっている。一方、不法滞在率は、ビザ免除(B-1:56.4%)、技術研修(D-3:52.1%)、芸術興行(E-6:41.5%)、船員就業(E-10:35.8%)が高く、教授(E-1:0.2%) 、研究(E-3:0.2%) 、在外同胞(F-4:0.3%)、会話指導(E-2:0.3%)は低かった。
図表4ビザ類型別在留外国人数と構成比
一方、統計庁の「外国人雇用調査」によると、 2016年 5 月現在、15歳以上の外国人のうち、就業者は96.2万人(男性63.8万人(66.3%)、女性32.4 万人(33.7%))で、前年より2.5万人増えている(外国人の雇用率は67.6%、失業率は4.2%)。年齢階層別には、30~39歳(28.1万人)、20~29歳(25.3万人)、40~49歳(18.8万人)が多く、60歳以上は6.4万人で少なかった。

就業者を国籍別にみると、韓国系中国人が44.1万人(45.8%)で最も多く、次いでベトナム人7.2万人(7.5%)、韓国系以外の中国人6.4万人(6.7%)、北米人4.5万人(4.7%)の順であった。在留資格別には、一般雇用許可制の非専門就業(E-9)が26.1万人、特例雇用許可制の訪問就業(H-2)が22.1万人、在外同胞(F-4)が19.9万人、永住(F-5)が8.8万人、結婚移民(F-2-1、F-6)が6.2万人、専門人材(E-1~E-7)が4.6万人、留学生(D-2、D-4-1、D-4-7)が1.3万人となっている。

産業別には、製造業(43.6万人)、 卸小売・宿泊・飲食店業(19.0万人)、事業・個 人・公共サービス(18.7万人)、建設業(8.5 万人)が上位4位を占めている。職種別には、技能員・機械操作及び組立従事者が39.5万人(39.0%)で最も多く、次いで単純労務従事者30.5万人(31.7%)、サービス・販売従事者12.1万人(12.6%)、管理者・専門家及び関連従事者10.4万人(10.8%)の順になっている。
 

3――外国人労働者増加の背景

3――外国人労働者増加の背景

韓国で在留外国人及び外国人労働者が急激に増加し始めたのは、2004年8月に、「外国人勤労者の雇用などに関する法律」を施行し、「外国人産業技術研修生制度」を「雇用許可制」に転換・実施してからだと言える。雇用許可制を導入する前に、韓国では雇用許可制を導入すべきなのか、労働許可制を導入すべきなのかに対して議論があった。雇用許可制と労働許可制の大きな違いは制度の主体を誰にするかにあるだろう。つまり、雇用許可制は使用者に外国人労働者を使用する権利を与えることを中心にしていることに比べて、労働許可制は外国人労働者が労働する権利を重視している。また、雇用許可制は事業場の移動を原則的に制限していることに比べて、労働許可制は事業場の移動を保障し、同一労働同一賃金の実施を重視している。韓国では2002年に民主労働党と民主労総により労働許可制の導入が主張されたものの、十分な議論が行われていないことや政治的状況により実施までは至らなかった。その結果雇用許可制が導入され、現在まで施行されている。

では、なぜ韓国政府は雇用許可制を導入するなど、外国人労働者の受け入れに積極的な政策を実施することになっただろうか。その最も大きな理由としては、(1)出生率低下による将来の労働力人口の減少と成長率低下に対する懸念が増加したことと、(2)日本をモデルとした「外国人産業技術研修生制度」の問題点が深刻化したからである。

韓国の出生率は 1950 年代後半を頂点として急速に低下し、1983 年以降は、人口の置き換え水準である 2.1 を下回る状況が続いている。特に、2005年には出生率が1.08まで低下した。韓国政府は少子化の問題を解決するために、2006年から「セロマジプラン」という少子高齢化対策を実施し、10年間にわたり、莫大な予算を投入したものの、2016年の出生率は1.17であまり改善されていない。同期間における日本の出生率が1.32から1.44に改善されたことと比べると、韓国の出生率の改善度の低さが分かる。さらに、韓国統計庁が2019年2月27日に発表した「2018年出生・死亡統計(暫定)」では、2018年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数、以下、出生率)が2017年の1.05を下回る0.98まで低下すると推計した。

一方、2016年における韓国の高齢化率は13.2%で、日本の27.3%に比べてかなり低い水準であるものの、高齢化率の上昇のスピードが速く、2060年には高齢化率が41.0% まで上昇することが予想されている。2017年に発表された日本の将来人口推計による2060年の日本の高齢化率38.1% を上回る数値である。出生率が低下し、高齢化率が高まると労働力人口の減少は避けられない。従って、将来の労働力人口の減少とそれによる成長率の低下を懸念した韓国政府は、既存の消極的な外国人労働者受け入れ政策を積極策に転換することになったのである。
図表5 韓国における最新の出生率の動向
外国人労働者受け入れ政策を積極策に転換したもう一つの理由としては、日本の「技能実習生」をモデルとした「外国人産業技術研修生制度」が、「現代版奴隷制度」と呼ばれるほど様々な問題点を漏出させた点が挙げられる。ブローカーによる送り出し過程の不正により、不法滞在者が多数発生(2002年の場合、外国人労働者の8割が不法就労者)し、賃金未払いを含めた人権侵害の問題が続出した。
 

4――外国人労働者受け入れ政策

4――外国人労働者受け入れ政策

韓国における外国人労働者の受入れ戦略は大きく「非専門外国人労働者の効率的活用政策」と「優秀専門人材の誘致戦略」に区分することができる。非専門人材の効率的活用政策としては「雇用許可制」が、優秀外国人労働者の誘致戦略としては、「電子ビザの発給」、「点数移民制の施行」、「留学生の誘致及び管理強化」、「投資移民の活性化」等が挙げられる。本章では、まず、韓国における外国人労働者受け入れ政策の変遷過程を述べてから、「非専門外国人労働者の効率的活用政策」である雇用許可制とそれ以外の「優秀専門人材の誘致戦略」について論ずる。
(1) 韓国における外国人労働者受け入れ政策の変遷過程
韓国政府は1993年に外国人産業技術研修制度を導入することで単純機能の外国人労働者を合法的に受け入れ始めた。外国人産業技術研修制度を導入する前には、単純技能の外国人労働者の受け入れは原則的に禁止されていたものの、実際には違法な雇用が発生しており、その規模すら把握できない状況であった。韓国政府は開発途上国との経済協力を図り、1980年後半から急速に増加した人件費負担や3K業種への就職忌避現象などによる労働力不足の問題を解決するために、外国人産業技術研修制の導入を決めた。この制度は、産業研修生として入国した外国人が事業場で一定期間、研修を受けてから帰国する仕組みであった。しかしながら、労働力不足が深刻な事業場では、彼らが研修生の資格であるにもかかわらず、研修はおざなりにして、すぐに労働に従事させるなどの問題が発生した。また、外国人研修生が指定された事業場から離脱して不法滞在者になるケースも頻発した。さらに、外国人研修生の資格で働く場合の賃金や労働権、労働者の地位や保険、悪質な送出機関やブローカーの存在などが新しい問題として浮上した。

韓国政府は、外国人産業技術研修制と外国人労働者管理の問題点を解決するために、2000年から既存の外国人産業技術研修制を修正して「研修就業制」を実施した。 研修就業制は、外国人労働者が国内の事業場で技能を習得する産業研修生という身分で研修を受けてから、研修就業者という資格で制限的に労働者の地位を認め、決まった期間の間に合法的に就業を可能にした制度である。2000年から産業研修生は2年の研修を受けると1年間就業することが可能になった。また、2002年以降は1年の研修後、2年間就業ができるように就業期間を拡大した。そして、2002年には単純サービス分野の労働力不足を解消するために、韓国国籍ではない外国の同胞、特に中国同胞と旧ソ連地域の同胞が一部のサービス業種で働くことを許可する「就業管理制」が導入された。さらに、2003年には「外国人労働者の雇用などに関する法律」が制定・公布され、2004年からは単純技能の外国人労働者の導入を合法的に許可する雇用許可制が施行されることになった。その結果、既存の外国国籍の同胞を対象にした就業管理制は雇用許可制の特例制度として雇用許可制に統合されることになった。

他方、海外専門人材の導入の場合、関連政策は科学技術政策の一環として始まった。韓国政府は1968年から遅れていた韓国の科学技術の水準を向上させるため、「在外韓国人科学技術者誘致事業」を実施した。この事業は1990年代まで持続される。韓国政府は、1990年代以降、韓国の産業構造が急速に高度化すると、国家競争力において科学技術及び専門知識などの重要性を認識し、海外の優秀な外国人人材の誘致にも力を入れることになった。1993年には新経済5ヵ年計画により、科学技術分野でBrain Pool制度が設けられ、その結果、「海外高級科学頭脳招聘活用事業」が実施され、既存の関連事業もこの事業に吸収されることになった。その後、科学技術人材の誘致支援は人文社会系列の優秀人材分野にも拡大されて1999年からはBK21事業、2004年からはStudy Koreaプロジェクト、2008年からはWCU、そして1年後にはWCI事業が実施された。そして、BK21事業とWCU事業の後続事業として、2013年からはBK21プラス事業が、2015年からはKRF事業が実施されている。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―のレポート Topへ