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堅実な30代の住宅ローン返済-変動金利の割合が増加するも、貯蓄を行い金利上昇に備え
清水 仁志
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1――はじめに
1 30代の世帯数自体は減少しているが、住宅ローンを支払っている世帯の割合が増加しているため、実際に住宅ローンを支払っている世帯数は横ばいで推移している。また、1世帯当たりの借入額は増加しているため、30代の住宅ローンは拡大している。
2――実効金利の大幅低下により、家計への負担は減少
さらには、住宅ローン減税により、10年間は借入額の1%が所得・住民税から控除されることが家計の負担軽減に寄与する。変動金利選択世帯では、住宅ローン金利が1%を下回ることが多く、住宅ローン減税とのネットで、実質的な金利はほぼゼロ(場合によってはマイナス)となっている。
3――高い貯蓄志向~金利上昇時の期日前返済も視野に~
住宅金融支援機構「2018年度 民間住宅ローン利用者の実態調査【民間住宅ローン利用者編】(第1回)」によると、変動金利を選択している住宅ローン利用者は、金利上昇により住宅ローン返済額が増加した場合、11.5%が全額返済、29.8%が返済額圧縮あるいは一部繰上返済をすると回答している(図表5)。では、実際に家計は回答通りにローン返済を出来るのであろうか。
総務省「家計調査」により、住宅ローン支払い世帯における月々の家計収支をみると、金融資産の純増額は増加の一途を辿り、家計は貯蓄を増やす一方で、住宅ローンの返済額は減少している(図表6)。住宅ローン金利の低下により月々に返済すべき金額は減少し、さらには、教養娯楽、その他消費支出(交際費など)を節約することで家計収支は大きく改善しているにもかかわらず、その余剰分を住宅ローンの繰上げ返済へつなげようという動きがみられない。高金利であった過去においては、少しでも借入額を減らすことで利息支払い分を少なくしようというインセンティブが働いていたが、現在の超低金利下ではそのような動機が薄れる。そのため、家計は比較的余裕があったとしても、あえて積極的に繰上げ返済を実行し、借入額の圧縮をしていないのではないだろうか。また、とりわけ30代でこの傾向が強いのは、住宅ローン減税により借入額の1%が税額控除されるため、借入額圧縮への動機が他の世代に比べより薄れているからであろう2。
このように、金融資産を蓄えた結果、金利上昇時には、図表5の回答通り一部の借入金を返済する可能性は十分にあるのではないだろうか。
2 ただし、実際には金利、借入額、所得、住宅ローンの契約条件などによっては、借入額を圧縮した方がメリットが大きいと思われる場合も多々ある
3 ただし、単純のため、変動金利における返済額の急上昇を防ぐための125%ルール(金利上昇後の返済額が、従来の返済額の125%を超えないルール)などは考慮せず、2017年時点での借入額に対して、住宅ローン金利が上昇した場合の返済割合を試算した数値
4――雇用環境悪化による配偶者の収入減少リスクも、世帯主の収入でコントロールされている
過去の景気後退局面における雇用調整は、まず、残業時間の抑制による労働投入削減から始まり、その後、賃金減少、雇用削減へと順を追っていく。2000年代までは、雇用削減に本格的に着手することは少なかったが、リーマンショックの際には非正規労働者を対象とした雇用削減が問題となった。急激な景気後退を受け、それ以前に増加していた非正規労働者が早い段階から雇用調整の対象となった。
企業はリーマンショック以降も、コストが低く、雇用調整が比較的容易な非正規労働者を増やしてきた。再び景気後退が起これば、こうした非正規雇用の労働者を中心とした雇用調整が加速する可能性がある。
上記のような非正規労働者を中心とした雇用調整が行われた場合の、30代の住宅ローン返済に及ぼす影響について、総務省「就業構造基本調査」をもとに考えてみたい4。前提として、世帯主(夫、30~39歳)の所得が250万円以上5かつ、配偶者(妻)が非正規雇用の世帯を対象に、全ての世帯が現在、世帯年収(夫と妻の合計所得)の16.0%6を住宅ローン返済に充てていることとする。
上記前提の下、配偶者が失業した場合の所得階級別の世帯年収に対する住宅ローンの返済比率を試算すると、ローン返済額の世帯年収の目安とされる20~25%を超える組み合わせは(図表8)の通りとなった。世帯数の割合でみると、非正規雇用の配偶者を持つ世帯の36%が住宅ローン返済額の年収比が20%を超し、3%の世帯が同25%に達する結果となった。
返済額の年収比が20%を超える世帯は一定いるものの、25%を超えるのはごく一部であり、住宅ローン返済は、おおむね世帯主の所得のみでコントロールできていると思われる。
4 ただし、就業構造基本調査では、住宅を持っていない世帯も含まれる点には注意が必要である
5 各種銀行の住宅ローン契約条件等で世帯主の最低限の所得とされる額。実際に、夫の所得が250万円以上の世帯における平均所得を計算すると、家計調査の住宅ローン保有世帯の収入とほぼ一致する
6 総務省「家計調査」により計算した30~39歳における2017年の世帯年収に対する住宅ローン返済負担率(図表2)
5――おわりに
また、金利上昇後に景気後退に陥った場合には、家計は利息支払いの増加と、収入の減少という2重苦に直面する可能性もゼロではない。
低金利、住宅ローン減税などの政策が大規模に行われ、住宅市場が活況を呈しているのは事実であるが、その担い手となっている30代は返済期間が長く、様々なリスクに直面する可能性がある。
今後とも経済への影響が大きい住宅市場における、若年層の住宅ローン動向には十分に留意したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年03月18日「基礎研レター」)
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