2019年03月01日

「米利上げ休止示唆でも円安」をどう捉えるか

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. 年初に一時104円台まで急落したドル円は順調に持ち直し、足元では111円台後半まで上昇している。この最大の原動力となったのはFRBのハト派への転換だ。本来、FRBの金融引き締め慎重化に伴う利上げ観測後退は円高ドル安要因となるが、市場のリスク選好が円安ドル高をもたらした。年初以降、FRBがハト派に転換したとの見方から、世界的に株価が上昇し、リスク選好ムードが高まり続けた。さらに、最大のリスク要因である米中通商交渉を巡って前向きな情報発信が続き、米国による対中関税引き上げが延期されたこともリスク選好ムードを促進した。低金利で投資資金の調達通貨とされる円は、リスク選好局面で売られやすいという特徴を持つため 、リスク選好ムードの高まりによって円がドル以上に売られたというのが今回の円安ドル高の主なメカニズムだ。
     
  2. ただし、今後の円安基調の持続性を考えた場合、リスク選好一本槍の円安基調持続は難しい。ドル円は米長期金利との連動性が強いが、利上げ観測が低迷したままだと米金利が上昇しづらいためだ。米金利上昇を伴わない円安は脆く、持続性も期待しにくい。従って、今後の円安基調持続のためには、(1)米経済・物価の堅調な推移が確認され、(2)FRBの年内利上げ観測が再燃することが必要になる。そして、このシナリオの前提条件として、米中貿易摩擦の激化といったリスクが顕在化しないことも求められる。
     
  3. 今後、まず焦点となるのは、米中交渉の行方とFRBの利上げ再開有無だが、米中は決裂を回避し、米利上げはいずれ再開される可能性が高いと見ている。その場合、次に焦点となるのが「米国の6月利上げはあるか?」という点だ。FRBが6月利上げに意欲を見せれば、利上げ観測が台頭することで円安基調が続くだろう。一方、6月利上げが見えてこなければ、円安が一服したり、円が一旦買い戻されたりする可能性が高い。6月利上げの可能性を見極めるうえで、まずは3月FOMCの内容が注目される。
ドル円レートと米長期金利
■目次

1.トピック:「米利上げ休止示唆でも円安」をどう捉えるか
  ・今回の円安進行のメカニズム・・・リスク選好
  ・今後の行方・・・円安基調は続くのか?
2.日銀金融政策(2月):円高進行時の追加緩和の可能性に言及
  ・(日銀)現状維持(開催なし)
3.金融市場(2月)の振り返りと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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