2019年03月07日

景気拡大期は戦後最長となったか? -長さより回復の自律性が問題だ

基礎研REPORT(冊子版)3月号

櫨(はじ) 浩一

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1―戦後最長となったか?

発達した熱帯低気圧は発生した地域によって、台風(typhoon)、ハリケーン、サイクロンと呼び名が変わる。2005年にニューオーリンズ市に甚大な被害をもたらしたカトリーナのようにハリケーンには名前が付けられている。日本では「台風9号」というように名前ではなく番号で呼ばれるのが普通だが、台風にも日本など14の国・地域が加盟している「台風委員会」が名前を付けている。
 
第二次世界大戦後の景気循環には、いざなぎ景気や岩戸景気のように名前が定着したものもあるが、多くは人によって呼び方が違ったり、特徴が無くてほとんど言及されることがなかったりするので、台風のように第○循環と呼ばれることが多い。2012年11月を底にはじまった現在の景気拡大局面は第16循環である。ちなみに台風やハリケーンの命名には苦労しているようで、リストの順番に従って同じ名前が繰り返し使われるルールになっている。
 
昨年夏以降、豪雨、台風、地震など相次ぐ自然災害に見舞われ、世界の株価が大幅に下落するなど金融市場の動揺も起こった。景気循環の確定には多くの統計数値がそろう必要があるため、公式な判断はもう少し先になるが、こうした中でも景気回復の動きは続いていると見られ、政府は月例経済報告等に関する関係閣僚会議の資料の中で、景気回復局面は1月で74ヶ月続いたことになり、2002年1月を底とした第14循環の拡張局面の73ヶ月を抜いて、第二次世界大戦後で最長となった可能性があると指摘した。

2―今回景気の特徴

現在の景気拡大局面の大きな特徴は、長期間景気拡大局面が続いているとは言うものの、この間の経済の拡大幅が小さかったということだ。高度成長期の1965年10月を底とする「いざなぎ景気」では、実質GDPの拡大ペースは、年率で10%を越えていた。しかし、2012年10-12月期から2018年7-9月期までの間の拡大ペースは、わずかに1%程度にすぎない。
 
景気動向指数の一致指数でみると、初期には過去の景気回復局面とそん色の無い速度で景気が拡大したが、途中からは足踏み状態の時期が目立つようになった。景気後退に至ってはいないので、拡大局面が続いてきたと判断されてはいるが、ずっと景気が拡大を続けてきたわけではなく、むしろ休止期間の方が長かった。
 
現在の日本経済は政策的な支え無しに民間の経済活動が自律的な拡大を続けている訳ではなく、大幅な財政赤字と異次元の金融緩和という二つの政策による補助エンジンを使ってようやく景気後退を防いでいる状態だ。
 
先行きについても、国内経済には急に悪化しそうな要因はないものの、海外経済は不安要素だらけだ。英国のEUからの離脱は方針も定まらず、大きな混乱なく実現できるか不透明だ。昨年世界経済を揺るがし続けた米中の貿易摩擦の行方も予想がつかない。中国経済の減速も明らかで、過去の景気対策で積み上がった債務問題も懸念材料だ。

3―財政・金融政策の正常化という課題

景気が悪くて多くの人が失業に苦しんでいる状況では、財政・金融政策を発動して経済活動を活発化することに大きな意味がある。しかし、現状の日本経済は人手不足が問題となるほどの状態で、何が何でも景気後退を阻止しなくてはならないという状況にはない。
 
景気拡大が長く続くことにこだわり過ぎると、国民の労苦を軽減しようという本来の意図に反して将来の国民負担を大きくしてしまう恐れがある。財政赤字を続けて政府債務がさらに累積していくことには明らかに大きな危険があるし、日銀が大量の金融資産を購入し続ける金融緩和にも副作用がある。景気拡大を続けるために、どれだけの政策を投入するのが最善かは、それによって得られる効果とそのための損失との兼ね合いの問題だ。
 
現在の景気の先行きについては海外経済の行方の不確実性という問題があることは確かで、リーマン・ショックのような大きな混乱が起これば、将来の負担は覚悟の上で大規模な景気刺激策を発動せざるを得ない。しかし、このまま現在の財政・金融政策による景気刺激を続けて緩やかな景気拡大を維持するという方針で、日本経済が政策による支えなしに自律的に拡大する状態に到達できるのかどうかは大きな問題だ。
 
景気回復期間が戦後最長となった可能性があるということは、このまま財政・金融政策による景気刺激を続けることが適切なのかどうか、方針を慎重に再点検すべき時期になったということでもあるのではないだろうか。

(2019年03月07日「基礎研マンスリー」)

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