2019年03月05日

企業業績の不透明感が日本株式の重しに

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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2018年はTOPIX の下落率が20%に迫るなど、2011年以来、アベノミクス相場が始まってから初めて年を通じて日本株式は大きく下落した。2019年に入って反転はしたものの、すぐに上昇が止まり、足元では方向感に乏しく、上値が重い展開が続いている。

2018年を振り返ると、TOPIX(図表1:赤線)は1月中旬に約27年ぶりに一時1,900ポイントに到達した。しかし、1月下旬から2月上旬に米長期金利の急上昇やそれに伴う米国株式の下落が嫌気され急落し、1,700ポイント台まで下げた。それ以降も米中貿易摩擦に対する懸念などが重しとなり、9月中旬までは1,700ポイント前後で方向感が乏しい展開が続いた。9月下旬から10月上旬に一時1,800ポイントを回復したが、年末にかけては再び米長期金利の上昇と米国株式の下落、世界的な景気減速懸念、さらには米政策運営に対する不透明感などから大きく調整した。12月下旬にTOPIXは1,400ポイント割れ目前になった。年末から年明けにかけて一旦反発したものの、その後は1,500ポイント台で推移している。

年末からの株価の反発は短期で終わったが、日本株式は企業業績からみて引き続き割安な水準にある。TOPIXの予想PER(図表1:青線)をみると2018年は1月以降低下し、12月末には11倍を割った。年末からの株価反発に伴いPERもやや上昇したが、それでも足元12倍前後にある。2013年以降、予想PERは概ね13倍から15倍で推移していたことを踏まえると、予想PERは依然として低水準にあるといえる。
図表1:TOPIXと予想PERの推移
日本株式が割安な水準にあるにもかかわらず上値が重い背景には、企業業績に対する不透明感が影響していると思われる。米中貿易摩擦の悪影響、世界景気の減速や電子部品・半導体の需要鈍化などの懸念がある。さらに、米利上げペース鈍化に伴う円高リスクもくすぶっている。外部環境だけでなく、国内では2019年10月に消費増税が予定されている。本当に実施されると、消費増税の影響は少なからずあるだろう。そのため現在の業績予想からみると割安な水準に株価があっても、業績予想が下方修正される懸念もあるため、積極的に投資しにくい状況となっている。

実際にTOPIXのEPSをみると、2018年11月下旬以降、今期予想、来期予想ともに低下傾向にあることが確認できる(図表2:線グラフ)。特に来期予想はそれ以前の9月からやや低下し、来期予想増益率(面グラフ)も低下傾向にある。今期以上に来期に対する警戒感が高まっていることが示唆される。取得できる証券会社などの来期予想は例年、楽観的な傾向があり、足元でも来期7%台の増益が予想されているが、来期は一桁前半の増益や横ばい、もしくは減益といったより悲観的な声も出てきている。
図表2:TOPIXのEPSと来期予想増益率の推移
ただ、株価の割安感は業績見通しの下方修正をかなり織り込んだ水準に株価があると見ることもできる。そのため、実際の企業業績はあまり下ぶれせず、企業業績に対する安心感が広がれば、大きく上昇する可能性もある。足元の第3四半期の決算発表で今期業績見通しの下方修正を発表する企業が相次いだ。そのような企業の株価でも下方修正の発表にあまり反応しない、逆にやや上昇する場合もあったことからも、そのことがうかがえる。

どちらにしても株式市場で企業業績に対する警戒感が強いだけに、直ちに不透明感が払拭される可能性は低いと思われる。特に足元、来期業績に対する手がかりも少なく、多くの企業が今期の本決算と来期の業績見通しを発表する5月頃までは、とりあえず様子見をする投資家も多いだろう。そのため、外部環境が大きく変化しなければ、企業業績の不透明感が日本株式の重しになり、当面は上値の重たい展開が続くことが予想される。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2019年03月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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