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中国の「2025年問題」-人口、財政、社会保障関係費の三重苦【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(36)
保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき
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1-日本とほぼ同じスピードで進む少子高齢化、一人っ子政策の廃止も出生率は最低に
中国では1970年代後半から一人っ子政策が実施され、出生率を厳しく抑制する策をとった結果、少子高齢化が急速に進行した。総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が7%を超える高齢化社会から高齢社会(14%)、さらには超高齢社会(21%)への移行は、24年、11年と日本とほぼ同じスピードで到達すると予測されている(図表1)1。
1 内閣府「平成30年版高齢社会白書」
2 中国国家統計局は、生産年齢人口が2012年に減少に転じたことを発表(2013年1月)。ただし、この場合の生産年齢人口の年齢は15-59歳を対象としている。図表1の国連の推計によると、中国の生産年齢人口(15-64歳)のピークは2015年である(5年毎の推計)。
2-ゆっくりと開き始める“ワニの口”?、中国の財政状況
日本は、1990年以降、税収の減少によって拡大した歳出と歳入の開きを国債で賄った経緯がある。2017年時点での政府債務残高はGDP比で236%まで膨れ上がり、歳出面では社会保障関係費の増加が主要因の1つとなっている3。
一方、中国の政府債務残高は対GDP比で47.0%と警戒レベルとされる60%を下回っている4。日本と比較するとまだ一定程度の猶予はあるとも考えられるが、財政収入の減少が懸念される中で、医療、年金といった既存の社会保険に加えて、介護保険という新たな財政プレッシャーを引き受ける必要がある点に留意する必要がある。
3 財務省「日本の財務関係資料」(平成30年3月)、IMF-World Economic Outlook Database April2018
3-中国の社会保険は、年金・医療・労災・失業・生育・介護の6種類
4-急増する社会保障関係費、本当は国の支出の25%にまで拡大?
社会保障関係費とは、国による社会保険や福祉など社会保障に関する経費をいう。中国においては、図表6で示したとおり、社会救助、社会保険、社会福祉、軍人保障が対象となる。
ここでは、一般公共予算支出の費目のうち、「社会保障・就業費」(社会救助、社会保険(医療、生育を除く)、社会福祉、軍人保障)、「医療衛生・計画出産費」(社会保険(医療、生育))を社会保障関係費としてみてみる。
「社会保障・就業費」と「医療衛生・計画出産費」を合計すると、2017年の社会保障関係費は前年比12.4%増の3兆9,063億元(約70兆円)となった(図表7)。社会保障関係費は、わずか5年間で2倍に増加し、その増加率も国の財政支出を上回る勢いである5。また、一般公共予算支出のうち、社会保障関係費は19.2%と、最も大きな割合を占めた(図表8)。
更に、広義の社会保障関係費として捉えるならば、上掲の2件の費目以外に、社会保障制度の1つで、都市の会社員を対象とした住宅積立金の補助金1,772億元、コミュニティ(社区)公共施設の9,527億元も挙げられる6。現在、中国では、各地域に設置したコミュニティ(社区)に地域住民の軽度な症状に対応できたり、慢性病など安定した疾病の治療が可能な医療機関や、地域住民を対象とした介護施設を付設している。これら広義の社会保障関係費を合計すると、5兆元を超え、国の支出のおよそ25%を占めることになる。
5 社会保障関係費の急増の背景については、拙稿「増加する中国の社会保障関係費と高まる財政圧力」、(基礎研レポート、2015年10月16日発行)をご参照。
7 都市・就労者の年金制度は1951年導入で現在の制度となったのは1997年、都市の非就労者・農村住民を対象とした年金制度は2014年に制度統合(都市の非就労者は2011年、農村住民は1992年導入)、都市・就労者を対象とした医療保険制度は1951年導入で現在の制度になったのは1998年、都市・農村住民を対象とした医療保険制度は2016年に制度統合(都市の非就労者は2007年、農村住民は1959年導入・2003年制度改正)となっている。
(2019年02月19日「保険・年金フォーカス」)
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- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
片山 ゆきのレポート
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