2019年02月15日

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 (2)ワークプレイスの多様化
優秀な人材を確保するために、働く場所に関して多様な選択肢を用意し、従業員の働きやすさを担保する動きが活発になっている。このような動きに伴い、サードプレイスオフィス4市場が徐々に拡大しており、ザイマックス総研の推計によれば、東京都区部の賃貸オフィスストック(1,281万坪)の0.5%を占めている。

特に、コワーキングスペースの拠点は急増しており、オフィス需要の担い手として存在感を高めている。コワーキングスペース大手のWeWork は、2018年2月に日本における事業展開を本格化し、東京都心部の大規模ビルに多くの拠点を開設している。WeWorkは、利用者間のコミュケーションを重視し1拠点あたり面積が大きい傾向にあることから、大規模ビルを1棟借りして、運営を行っている拠点もみられる(図表9)。また、三井不動産が運営する「WORK STYLING」も東京都心部に23拠点を開設する(予定を含む)など、大手不動産会社の参入も相次いでいる。CBREの調査 によれば、コワーキングスペースは、2018年9月時点で、東京都区部に346拠点開業し、利用床面積は6.6万坪となった。東京都区部の賃貸オフィスビル新規成約面積に対するコワーキングスペースの割合は7.9%(2018年上半期)まで拡大した。コワーキングスペースの利用は、低コストでビジネスを開始したいスタートアップ企業だけでなく、社外人材とのコラボレーション等を模索する大手企業でも進んでいる模様である。
図表-9  「WeWork」の事業展開 [開業予定の拠点も含む]
 
4 主に事業者がサービスを提供するオフィススペース。レンタルオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペースなど。
 

3. 東京都心部Aクラスビルの市況見通し

3. 東京都心部Aクラスビルの市況見通し

3-1 経済見通しおよびオフィスワーカー数の見通し
ニッセイ基礎研究所では、日本経済は人口減少局面に入っているものの、女性、高齢者の労働力率の上昇、外国人労働力の拡大から労働力人口は増加しており、人口減少による経済成長への影響を過度に悲観する必要はないとみている。今後10年間の実質GDP成長率は平均1.0%となり、過去10年平均と同程度の伸びになると予想している5。各年の実質GDP成長率は、2018年度の1.2%から2019年度は消費増税などの影響で0.8%に低下し、東京五輪が開催される2020年度には1.5%に高まる。東京五輪後の2021年度の実質GDP成長率は、その反動で▲0.2%とマイナス成長となるが、その後はプラスに転じると見込む(図表10)。
図表-10 実質GDP成長率見通し
東京都「東京都就業者数の予測」によると、東京都区部および都心5区のオフィスワーカー数は、2015年から2020年にかけてほぼ同水準を維持した後、2020年以降に本格的に減少すると予測されている(図表11)。CBREによれば、2018年の大型移転の上位3業種は、IT、製造業、プロフェッショナルサービスであった。東京都心5区における「情報通信業(IT)」の就業者数は、2015年の49.6万人から2020年には51.2万人、2025年には52.4万人へ増加する見通しである(図表12)。また、プロフェッショナルサービスに含まれる「学術研究,専門・技術サービス業」の就業者も、2015年の26.2万人から2020年には26.6万人、2025年には26.7万人と緩やかな増加が続く。これらの業種は、今後も引き続きオフィス需要を下支えすると見込まれる。
図表-11 東京都区部・都心5区のオフィスワーカー数見通し/図表-12 都心5区の産業別就業者数見通し
 
5 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2018~2028年度)」(2018.10.12)、斎藤太郎「2018~2020年度経済見通し-17年7-9月期GDP2次速報後改定」(2018.12.10)などを基に設定。
3-2 Aクラスビルの新規供給見通し
三幸エステートの調査によると、2018年のAクラスビルの新規供給は約23万坪と、2003年(約24万坪)に次ぐ高い水準であった。2019年の新規供給は、2018年と比較して低水準になると見込まれるが、翌2020年は再び20万坪を超える大量供給となる予定である。その後、新規供給は一旦落ち着くが、2023年には30万坪弱の過去最高水準の供給が予定されている(図表13)。

ただし、三幸エステートの調査によれば、2019年竣工物件は約9割がテナント内定済み、2020年竣工物件も約6割が内定済みである。順調にテナントリーシングが進捗しており、短期的に需給バランスが大きく悪化するとの懸念は小さい。
図表-13 東京都心部Aクラスビル新規供給見通し
3-3 Aクラスビルの空室率および成約賃料の見通し
前述の経済見通しおよびオフィスワーカー数の見通し、新規供給計画(見通し)を前提とし、2019年から2023年までの東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料を予測した。

Aクラスビルの空室率は、旺盛な需要に支えられ、当面の間、極めて低い水準を維持するが、2020年に大量供給の影響を受けて、小幅ながら上昇すると見込む。その後、空室率は2021年と2022年の新規供給が抑制的なこともあり、低下に向かうものの、2023年に過去最高水準の大量供給を受けて再び上昇する。ただし、空室率が最も悪化した2012年の水準(9.1%)までは上昇しないと見込む(図表14)。
図表-14 東京都心部Aクラスビルの空室率見通し
東京都心部Aクラスビルの賃料は当面上昇傾向が継続し、2019年Q3には約42,000円に達すると見込む。2019年10月の消費増税に伴う経済成長の鈍化が契機となり、成約賃料は下落に転じる。その後、大量供給による空室率の上昇(2020年および2023年)、東京五輪開催後のマイナス成長(2021年)の影響を受けて、成約賃料の下落傾向は続き、2023年には約33,000円を見込む(図表15)。現在の賃料水準(39,468円)を下回るが、情報通信業者をはじめとした底堅いオフィス需要に下支えされて、2016年の賃料水準(33,785円)と同水準に留まる見通しである。
図表-15 東京都心部Aクラスビルの成約賃料見通し
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2019年02月15日「不動産投資レポート」)

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【東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2019年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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