2019年02月12日

貸出・マネタリー統計(19年1月)~銀行の不動産貸出への偏重が緩和

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 地銀の貸出伸び率は2ヵ月連続で低下

(貸出残高)
2月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、1月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.44%と約1年ぶりの水準に回復した前月(同2.45%)からほぼ横ばいとなった(図表1)。

業態別では、都銀等の伸び率が前年比1.65%(前月は1.60%)とやや上昇した(図表2)。都銀の伸び率は昨年夏を底に明確に回復しており、大企業のM&Aに絡む資金需要が寄与しているとみられる(図表3)。一方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比3.13%(前月は3.20%)と2ヵ月連続で低下した。伸び率は2014年3月以来、約5年ぶりの低水準となる。中小企業向け貸出が減速基調にあることが、主な担い手となってきた地銀の貸出鈍化に繋がっている可能性が高い。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4) ドル円レートの前年比(月次平均)
次に、為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)1を確認すると、直近判明分である12月の伸び率は前年比2.59%と11月の2.25%から上昇した。ドル円レートの前年比はここ数ヵ月の間小動きに留まっているため(図表4)、見た目(特殊要因調整前)の伸び率に沿った動きとなった。

1月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、1月のドル円レートの前年比が12月と大差ないことを鑑みると、特殊要因調整後の伸び率も見た目(特殊要因調整前)の伸び率の動きと同様、12月からほぼ横ばいと推測される。
 
1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは12月分まで。
(業種別貸出動向)
12月末時点の業種別貸出動向を確認すると(図表5)、電気・ガスをはじめ、教育・学習支援、化学などで高い前年比伸び率が示されている。9月末からの伸び率拡大幅では、化学(10.4ポイント)が突出しており、医薬品メーカーの大口M&Aに絡んだ貸出が影響した可能性がある。残高が最大で、全体への影響が大きい不動産も相対的に高い伸び率ではあるが、徐々に伸びが鈍化してきている。
 
不動産領域では、アパートローン(個人による貸家業向け)において、一昨年以降、市場の過熱感やスルガ銀行問題の影響などから銀行の貸出スタンスが慎重化し、新規貸出の大幅な減少が続いている(図表6)。この結果、10-12月の新規貸出額(5879億円)は直近ピークであった2016年7-9月(1兆1026億円)の約半分の規模に縮小した。
(図表5)業種別貸出の伸び率(前年比)/(図表6)不動産業向け新規貸出額の伸び率
(図表7)貸出の伸びに占める主な業種の寄与度 また、不動産向け全体としても新規貸出額の前年割れが続いており、10-12月(2.4兆円)では直近ピークであった2017年1-3月(3.8兆円)の約6割の水準に縮小している。

貸出残高全体の伸びに対する不動産向け貸出の寄与度も緩やかに低下してきており、同分野の牽引力は弱まりつつある。

良く言えば、貸出の不動産偏重が緩和し、産業の裾野が広がりつつあるとも言える。
(図表8)国内銀行の新規貸出平均金利 (貸出金利)
2018年11月の新規貸出平均金利は、短期貸出(一年未満)が0.547%(10月は0.671%)、長期貸出(1年以上)は0.767%(10月は0.813%)とともに低下した(図表8)。もともと月々の振れが大きい統計であるため3ヵ月移動平均の推移を見ると、長期の低下が目立つ。7月の日銀による長期金利誘導目標柔軟化後に一旦上昇した国債利回りが、11月以降低下に転じたことが影響したと考えられる。国債利回りは11月以降も低下が続いているため(10年国債利回り:11月平均0.104%→1月平均0.00%)、長期貸出金利も低下が続いていると推測される。

2.マネタリーベース: 伸び率は約6年半ぶりの低水準に

2月4日に発表された1月のマネタリーベースによると、日銀による通貨供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は4.7%と、前月(同4.8%)からわずかに低下した。低下は2ヵ月連続で、伸び率の水準は2012年5月(2.4%)以来の低水準となった(図表9)。

これまで同様、内訳の約8割を占める日銀当座預金の伸び率が前年比5.2%と前月(5.3%)から低下したほか、2015年以降高い伸びが続いていた日銀券発行高の伸びが前年比3.3%(前月は3.4%)と2013年8月以来の低水準に低下したことが影響した(図表9・10)。日銀券の伸び率低下については、相続税増税(2015年1月)やマイナス金利政策導入(2016年2月)で活発化したタンス預金増加の動きが、時間が経過したことで鈍化しつつある可能性を示唆している。
(図表9) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表10) 日銀当座預金残高(平残)と伸び率
12月末のマネタリーベース残高は前月末から4.0兆円減少した。季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ても0.2兆円減と2ヵ月連続で減少しており、マネタリーベースの増勢鈍化がますます鮮明化してきている(図表11)。

日銀は昨年末の市場不安定化を受けて、最近は長期国債買入れ減額を様子見しているが、増額に転じたわけではない。つまり、長期国債の買入れペースは過去に減額されたままであることから、長期国債保有高の前年比減少は続いている(図表12)。マネタリーベースの伸びはその裏側にある国債買入れ動向を反映するため、長期国債買入れの鈍化がマネタリーベースの増勢鈍化に繋がっている。
(図表11)マネタリーベース残高と前月比の推移/(図表12)日銀国債保有残高の前年比増減
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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