2018年12月11日

貸出・マネタリー統計(18年11月)~貸出は伸び悩み、通貨供給量の伸びが急低下

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 貸出の伸び率は2ヵ月連続で低下

(貸出残高)
12月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、11月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.17%と前月(同2.22%)からわずかに低下した(図表1)。業態別では、都銀等の伸び率が前年比0.89%(前月は1.05%)と低下、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比3.29%(前月は3.24%)とやや上昇したものの補えなかった(図表2)。

伸び率の低下は2ヵ月連続となる。年前半からはやや底入れしているものの力強さに欠けており、昨年の伸び率(平均3.0%)を大きく下回っている(図表3)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4) ドル円レートの前年比(月次平均)
次に、為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)1を確認すると、直近判明分である10月の伸び率は前年比2.31%と9月の2.40%から低下した。ドル円レートの前年比はここ数ヵ月の間ほぼ横ばいで推移しているため(図表4)、見た目(特殊要因調整前)の伸び率に沿った動きとなった。

11月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、11月のドル円レートの前年比が10月とほぼ変わらなかったことを鑑みると、特殊要因調整後の伸び率も見た目の伸び率と同様に低下し、前年比2.2%台になったと推測される。
 
1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは10月分まで。
(業種別貸出動向)
9月末時点の業種別貸出動向を確認すると、電気・ガスをはじめ、教育・学習支援、金融・保険といったサービス業を中心に高い伸びが示されている。残高が最大で、全体への影響が大きい不動産も相対的に高い伸び率を維持している。
 
ただし、不動産領域では、アパートローン(個人による貸家業向け)において、昨年来、市場の過熱感やスルガ銀行問題の影響などから銀行の貸出スタンスが慎重化し、新規貸出の大幅な減少が続いているほか、不動産向け全体としても新規貸出の前年割れが状況が続いている。このため、不動産向け貸出の伸び率(2018年9月末5.5%)もピーク(2016年9月末7.3%)からは鈍化しており、牽引力が弱まっている。
(図表5)業種別貸出の伸び率(前年比)/(図表6)不動産業向け新規貸出額の伸び率
(図表7)国内銀行の新規貸出平均金利 (貸出金利)
10月の新規貸出平均金利は、短期(一年未満)が0.671%(9月は0.668%)と前月から横ばいとなった一方、長期(1年以上)は0.813%(9月は0.694%)と上昇した(図表7)。もともと月々の振れが大きい統計であるため3ヵ月移動平均の推移を見ると、今年の春以降、持ち直しが確認できる。日銀が7月末の決定会合で長期金利誘導目標の変動幅拡大を許容し、長期金利が0.1%台へと上昇したことも寄与したと考えられるが、11月以降は再び長期金利が低下しているため、貸出金利への影響が注目される。

2.マネタリーベース: 6ヵ月ぶりに伸び率が拡大

12月4日に発表された11月のマネタリーベースによると、日銀による通貨供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は6.1%と、前月(同5.9%)からやや上昇した。内訳の約8割を占める日銀当座預金の伸び率が前年比6.9%と前月(6.5%)から上昇したことが寄与した(図表8・9)。
(図表8) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表9) 日銀当座預金残高(平残)と伸び率
11月末のマネタリーベース残高は前月末から5.3兆円減少したものの、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると前月比で5.0兆円の増加となっており、今年3番目の増加幅となった(図表10)。

日銀は長期国債買入れの減額を段階的に実施しているため、長期国債の買入れペースは鈍化が続いている一方、既に残高が乏しくなっている短期国債の減少ペースは鈍っている(図表11)。マネタリーベースの伸びはその裏側にある国債買入れ動向を反映するため、最近は短期国債残高の減少ペース鈍化がマネタリーベース増加ペースの下支えに働いているとみられる。
(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移/(図表11)日銀国債保有残高の前年比増減

3.マネーストック: 通貨供給量の伸びが急低下

12月11日に発表された11月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨総量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.33%(前月は2.66%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.09%(前月は2.32%)とともに前月から大きく低下した(図表12)。M2・M3の伸び率低下はともに7ヵ月連続となり(小数点第2位以下まで見た場合)、伸び率の水準はともに安倍政権発足前の2012年12月以来の低水準となっている。

貸出の伸びが限定的に留まっていることに加え、既往の原油高や輸出減速等の影響で経常黒字が縮小していることが影響しているとみられる。
(図表12) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表13) 現金・預金の伸び率
M3の内訳を見ると、最大の項目であり、全体の約半分を占める預金通貨(普通預金など)の伸び率が前年比5.8%(前月は6.2%)と大きく低下したほか、現金通貨の伸び率も同3.5%(前月は3.7%)と低下している。さらに、CD(前月改定値▲2.5%→▲3.9%)の伸びがマイナス幅を拡大したことも全体の伸び率鈍化に影響した(図表13)。
(図表14)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 また、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比1.83%(前月改定値は2.06%)と、2ヵ月連続で低下している(図表12)。

内訳では、既述の通り、M3の伸び率が低下したほか、残高の大きい金銭の信託(前月改定値3.8%→当月3.6%)、投資信託(元本ベース・前月▲8.4%→当月▲9.3%)の伸びが低下したことも響いた。投資信託の前年割れは23ヶ月に及んでおり、資金流出の動きが続いている(図表14)。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2018年12月11日「経済・金融フラッシュ」)

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