2019年01月31日

研究学園都市が挑む、「つくば市スタートアップ戦略」

中村 洋介

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1――はじめに

昨今、いくつかの地方自治体において、革新的なベンチャー企業を創出し育成しようという取り組みが見られる。政府の成長戦略でもベンチャー支援が強く打ち出され、オープンイノベーションへの期待から大企業によるベンチャーとの連携も増えている中1、ベンチャー・エコシステムを作り出し、地域の活性化に繋げていきたいという狙いがある。本稿では、地方のベンチャーの状況や、地方自治体の取り組み事例に触れながら、その課題や展望等について考察したい。
 
1 ここ数年の日本のベンチャーの状況については、拙稿「リーマンショックから10年、日本のベンチャー環境を振り返る」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=60135?site=nliも参照されたい。
 

2――「東京一極集中」の日本のベンチャー

2――「東京一極集中」の日本のベンチャー

盛り上がりを見せている日本のベンチャーであるが、実態として「東京一極集中」の傾向が強い。

日本のベンチャー・キャピタル(VC)の投資実績(件数、金額)を見ると、東京都にあるベンチャー企業に対する投資が圧倒的に多い(図表1)。

東京を拠点とするVCが多く、その多くは力のあるベンチャー・キャピタリストを地方に張り付けるほどの陣容ではない。最大手クラスやメガバンク系列のVCの中には、大阪や名古屋等に支店を有するものもあるが、多くの人員を常駐させているわけではない。

大学発ベンチャー数については、東京都が圧倒的に多く、大阪府、京都府と続く(図表2)。大学別で見ると、東京大学が最も多く、京都大学、筑波大学と続く(同じく図表2)。
(図表1)VCの都道府県別投資実績/(図表2)都道府県別、大学別 大学発ベンチャー企業数(2017年度)
政府の有識者会議でも、地方発ベンチャーが少ないことが指摘されてきた(図表3)。地方の大学に魅力的な「シーズ」があったとしても、その事業化を支えるための人材や資金等が不足しており、地方のベンチャーの立ち上げが進んでいないことが言及されている。
(図表3)政府の有識者会議における地方発ベンチャーへの言及(例)
こうした課題意識をもとに、政府の成長戦略の中でも、都市部から地方への資金循環を促す取組みを強化する旨が盛り込まれた(図表4)。そして、リスクマネー供給の強化を目指した産業革新投資機構(JIC)が設立時に掲げた投資基準では、特に重点的に資金供給を行う分野の1つとして、「地方に眠る将来性ある技術の活用」を掲げている(図表5)。なお、そのJICは、足もとで取締役9名の辞任を受けて、出直しを余儀なくされているのが現状である。
(図表4)「未来投資戦略2018」における言及(抜粋)/(図表5)JIC 投資基準
このように、日本のベンチャーは東京一極集中という傾向が強い中、地方のベンチャー、そしてベンチャー・エコシステムを育てることが課題とされている。しかしながら、ヒト、モノ、カネ、情報が集まりづらい地方において、ベンチャー・エコシステムを育てるのは一筋縄ではいかないことも事実である。
 

3――地方自治体の取組み ~つくば市の取組み事例~

3――地方自治体の取組み~つくば市の取組み事例~

こうした中、革新的なベンチャーを生み出す土壌作りに取り組んでいる地方自治体がある。

先行事例として有名なのは福岡市の取り組みである。創業支援を強く打ち出し注力する中で、2014年3月には国家戦略特区に選定され、「福岡市グローバル創業・雇用創出特区」として歩み出した。2015年3月には『「グローバル創業都市・福岡」ビジョン』を策定、その後に独自の市税軽減措置の創設や、ベンチャー支援施設「Fukuoka Growth Next」の開設等、取り組みを加速させている。

また、神戸市の取り組みも注目を集めた。神戸市は、2016年に策定した「神戸2020ビジョン」の中で、施策の基本的方向の1つとして「若者に魅力的なしごとづくり」を掲げている。2016年からは、シリコンバレーに本社を置く著名な投資家(シード・アクセラレーター)の500 Startupsと組んで、短期集中型起業家支援プログラムを実施している。2018年には、初回開催以来3回目のプログラムとなる「500 Startups Kobe Accelerator」を開催した。その模様は各種メディアでも取り上げられ、実績ある海外投資家と連携した取り組みとして話題を呼んだ。

地方自治体のベンチャー支援取組みにも注目が集まる中、2018年12月には、つくば市が新たな取り組みをスタートさせた。本稿では、そのつくば市の取り組みに触れていきたい。
1|筑波研究学園都市
「筑波研究学園都市」は、高水準の研究と教育を行うための拠点形成、及び国の研究機関等の移転を通じた東京の過密緩和を目的とした国家プロジェクトとして建設された。1963年にプロジェクトが閣議了解され、1973年には筑波大学が開学、1980年には当初予定されていた研究教育機関等の移転が完了し、研究学園都市として概成を迎えた。1985年には国際科学技術博覧会(つくば万博)を開催、2005年にはつくばエクスプレスが開業する等、都市としての歩みを進めてきた。

現在の人口は約23万人。筑波大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、産業技術総合研究所(産総研)等、国と民間合わせて約150の研究機関、そして約2万人の研究従事者が集積していると言われている。また、研究者や留学生等、多くの外国人が居住している2

つくばエクスプレスによって、つくば駅から東京・秋葉原駅への所要時間は最短45分と、飛躍的に都心からのアクセスが改善した。一方で、日本百名山に選ばれている筑波山等、自然が身近に感じられる街でもある。

2011年には「つくば国際戦略総合特区」に指定され、次世代がん治療の開発・実用化や生活支援ロボットの実用化等、ライフイノベーション及びグリーンイノベーション分野のプロジェクトが進行している。また、2017年からは「つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業」として、先端技術の社会実装に向けた実証実験の支援を行っている。
 
2 住民基本台帳人口の集計ベースの外国人住民数は、143カ国9,106人。(2017年10月1日現在) (資料)「統計つくば 平成29年度版」

(2019年01月31日「基礎研レポート」)

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中村 洋介

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