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女性のライフコースの理想と現実ー最も人気の「両立コース」の実現度は3 割弱、働き方や母親のライフコースなど周りの影響が大
基礎研REPORT(冊子版)2月号

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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1―はじめに
学歴別に見ても、学歴によらず、おおむね最多は「両立コース」だが、全体と比べて高等専門学校卒や大学卒(共学)、大学院卒では「両立コース」がさらに多く、大学卒(女子大)で「出産退職・専業主婦コース」が多い傾向がある。つまり、女性が結婚・出産後も働き続けたいかどうかは、専門性の高い仕事に就きやすい学歴かどうか、また、教育環境の違いなども影響するようだ。
母親のライフコース別に見ても、ライフコースによらず、いずれも「両立コース」が多いが、母親が「結婚退職・専業主婦コース」であれば女性の理想も「結婚退職・専業主婦コース」が全体より多いなど、母親と同じコースを理想とする傾向がある。なお、母親が「両立コース」の女性では、自分の理想も「両立コース」である割合が48.1%にもなり、全体(34.1%)を14%ポイントも上回る。
なお、結婚・出産後に働き方が変わる女性も多いが、現在の職業別に見ると、公務員や正社員、自営業で「両立コース」が多く、いずれも半数程度である。
3―ライフコースの理想と現実
「独身・就業コース」は主に本人の意志のみで決められるが、「両立コース」は、結婚できるかどうか、出産できるかどうか、結婚・出産後も働き続けられる環境なのかどうかなど、本人の意志のみで決められない要因が多いため、実現度が低いのだろう。
4―両立を実現している女性の特徴と実現への影響が大きな要因
これらのうち、どの要因の影響が強いのかを見るために、「両立コース」の実現度合いを得点化して目的変数とし、年齢や最終学歴、母親のライフコース、就業状態、配偶者の年収、実家や義理の実家との距離、体力の程度を説明変数とする重回帰分析を行う*2。分析において、独立変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる。変数は強制投入とする。
なお、女性の就業状態は結婚・出産後に変わることも多いため、説明変数に含めると、因果関係が逆となる部分もある。しかし、国立社会保障人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」によると、正規職員の第1子出産後の就業継続率はパート・派遣の約3倍であり、出産後の就業状態には出産前の就業状態が明らかに影響しているため、就業状態を説明変数に含めている。
重回帰分析の結果、重決定係数は0.359で1%水準で有意な値である。
それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数より、「両立コース」の実現に対して5%水準で有意な変数のうち、就業状態(正規雇用者、あるいは自営業であること)や母親のライフコース(母親も働いていたこと)は正の影響を、配偶者の年収や年齢の高さは負の影響を与える[図表3]。
さらに、母親という働く女性のロールモデルが身近にあり、女性が働く意識が醸成されやすい環境で育ったこと、また、女性の社会進出の進む若い世代ほど「両立コース」を実現しやすい。
一方で、配偶者の年収が高く、経済的に妻が働く必要性が低いことは「両立コース」の実現を遠ざける。
5―世代で違う義理の実家との関係
ところで、義理の実家との距離(の遠さ)は全体では有意ではないものの正の影響がうかがえた。しかし、年齢別に見ると違いがあり、25~39歳では負の影響、40代以上では正の影響があった。つまり、40代以上では義理の実家と別居していた方が「両立コース」を実現しやすいが、25~39歳では逆に義理の実家と同居・近居の方が実現しやすいということになる。
このことから、女性の社会進出が進む中で、親世代も女性自身も、女性が外で働くことに対する価値観が変わることで、若い世代では義理の実家の手助けも上手く得ながら、「両立コース」を実現する女性が増えている可能性がある。なお、実家との距離については義理の実家ほど大きな違いは見られなかった。
6―おわりに
現在、就労環境の整備や女性が外で働くことに対する理解は変化の過渡期であり、今後は、より本人の資質の影響が強まるだろう。一方で現在のところは、「両立コース」を実現するためには、周囲の理解や助けなどを上手く活用することが鍵だ。
*1 「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176
*2「両立コース」の実現度合いは「両立コース」と「再就職コース」以外=0、「再就職コース」=1、「両立コース」=2。母親のライフコースは「専業主婦コース」=0、「再就職コース」=1、「両立コース」=3。就業状態は専業主婦=0、非正規雇用者=1、正規雇用者・自営業=2。実家や義理の実家との距離は同居・近居=1、別居=2とする。
(2019年02月07日「基礎研マンスリー」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
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