2019年01月25日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-

中村 亮一

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4―LTG措置及び株式リスク措置の適用要件

上記で述べたLTG措置及び株式リスク措置の適用要件等は、措置毎に異なっている。これについても前回までの報告書のレポートで説明しているが、ここで再掲しておく。

1|基本的な適用要件
「(1)リスクフリー金利の補外」については、全ての会社に強制的に適用される。

「(7)株式リスクチャージの対称調整メカニズム(ED)」は、SCRの株式リスクサブモジュールを算出するのに標準式を使用(部分内部モデルが株式リスクサブモジュールをカバーしていない場合を含む)している会社は強制的となる。

これに対して、(2)~(5)、(8)のMA、VA、TRFR、TTP、DBERは、ソルベンシーII指令や規則に規定された条件を満たしていることを条件に、会社のオプションとなる。

(6)のERPについては、EIOPAによって例外的な不利な状況下にあると宣言された後に、SCR要件に違反する会社のみが適用できる。

従って、今回のEIOPAの報告書における分析は、会社のオプションとして適用されるMA、VA、TRFR、TTP、DBERが中心となっている。

2|複数の措置の同時適用時の要件
複数の措置を同時に適用することもできるが、以下のような一定の組み合わせは排除される。

・TTPを適用する会社はTRFRを適用できない(TTPとTRFRはいずれか一方のみ)。
・TRFRを適用する会社は、同じ(再)保険債務に対してMAは適用できない。
・MAを適用する会社は、同じ(再)保険債務ポートフォリオに対してVAは適用できない。

なお、例えば、異なる保険債務に対して、VAとMAを適用することは排除されない。
 

5―全体的な状況(各種措置の適用会社数等)

5―全体的な状況(各種措置の適用会社数等)

ここでは、各種措置の適用会社数3等の全体的な状況について、報告する。

以下の図表及び図表の数値は 、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2018」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
 
3 以下の図表等において、会社数と述べるとき、1つの会社が異なる事業で各措置を適用している場合等もあり、必ずしも「会社数」を表しているとは限らないが、報告書の概要の結果が示すものに影響を与えないと考えられるため、「会社数」という表現を使用している(次回以降のレポートでも同様)。
1|ソルベンシーIIの適用状況
欧州保険会社のソルベンシーIIの適用状況について、その会社の種類別及びSCR計算の方法別(標準式、部分内部モデル又は完全内部モデル)の状況は、以下の図表の通りとなっている。

EEAの保険市場では、2,912の保険及び再保険会社がソルベンシーIIに従って監督されている。この数値は、会社の再編等の影響もあり、2016年12月31日のデータと比較して33社減少している。従って、以下の文中の前回の報告書との実数の比較においては、この点に留意しておく必要がある。

また、ソルベンシーIIに基づいて363のグループが監督されている。
図表 ソルベンシーⅡの会社の種類別及びSCR 計算の方法別の適用状況
内部モデル適用会社(部分内部モデル適用会社を含む)は、186社でソルベンシーIIの対象会社全体の6.4%となっている。前回の報告書では、対象会社の6.0%の176社(前々回の報告書では5.5%の169社)であったので、比率及び実数とも毎回増加している。また、内部モデル適用会社の割合は、生命保険会社では8.4%、生損保兼営(グループ)会社でも9.2%、損害保険会社は4.9%、再保険会社は6.8%で、生命保険事業を展開している会社において相対的に高くなっている。

次の表は、ソルベンシーIIの対象となる全ての保険及び再保険会社の技術的準備金及び総計上収入保険料(Gross Written Premium)の額の概要を示している。技術的準備金では9割以上が生命保険事業となっている。
ソルベンシーIIの対象となる全ての保険及び再保険会社の技術的準備金及び総計上収入保険料(Gross Written Premium)の額
2|LTG措置及び株式リスク措置の適用状況(全体)
ソルベンシーII対象の2,912社のうち、25.3%にあたる737 社が、MA、VA、TRFR、TTP、DBERのいずれかの措置を適用している。これらの会社は23カ国にわたっており、8カ国(エストニア、クロアチア、アイスランド、リトアニア、ラトビア、マルタ、ポーランド、スロベニア)からの会社は、いずれの措置も適用していない。なお、いずれかの措置を適用している会社の割合については、生命保険会社で50.8%、生損保兼営会社で47.0%であり、損害保険会社の13.7%、再保険会社の7.8%に比較して、相対的に高くなっている。なお、前回の報告書との比較では、再保険会社を除いて、この割合は若干低くなっている。

また、これを技術的準備金の比率で見ると、全体の9,125十億ユーロのうち、6,767十億ユーロ、74.2%(生命保険だけでみれば77.8%)の会社がいずれかの措置を適用している。
MA、VA、TRFR、TTP、DBERの適用状況(会社数)/A、VA、TRFR、TTP、DBERの適用状況(技術的準備金)
3|LTG措置及び株式リスク措置の適用状況(措置別)
MA、VA、TRFR、TTP、DBERの措置別の適用状況は、以下の図表の通りとなっている。

(1)単体ベース
・VAは、最も多く696社(技術的準備金でのシェア66%、以下同様)が適用している。
・TTPは、次に多く162社(24%)が適用している。
・MAは、34社(15%)が適用している。
・TRFRは、7社(0%)が適用している。
・DBERを適用したのは、1社(0%)のみである。
・損害保険会社は、VAを多く適用し、TTPも一定数が適用しているが、基本的には、各種の措置は、技術的準備金が高水準な生命保険事業に対して、適用されている。

なお、MAは、英国やスペインの保険会社で適用されているため、会社数の割に、技術的準備金のシェアは大きくなっている。
MA、VA、TRFR、TTP、DBERの適用状況(会社数)/MA、VA、TRFR、TTP、DBERの適用状況(会社数)(2017年報告書)
MA、VA、TRFR、TTP、DBERの適用状況(会社数の比率)/MA、VA、TRFR、TTP、DBERの適用状況(技術的準備金でのシェア)
(2)グループベース
なお、措置の適用状況をグループ別にみてみると、以下の通りとなっている。

ソルベンシーIIの対象となる363のEEA保険グループのうち、207のグループがいずれの措置も適用せず、残りの156のグループが何らかの措置を適用している。そのうち、138のグループがVAを適用し、77のグループがTTPを適用し、21のグループがMAを適用している。 TRFRは3、DBERは1の保険グループによって適用されている。

グループのいずれかの会社が措置を適用している場合に、措置が適用となるため、単体のケースに比べて、措置適用グループの比率は高くなっている。
MA、VA、TRFR、TTP、DBERの適用状況(グループ数)
4|複数の措置の適用状況
複数の措置の適用状況については、以下の通りとなっている。

TTPとVAの併用会社が124社と最も多く、技術的準備金の市場シェアでは17 %となっている。

TTPとMAの併用会社は28社であるが、英国の保険会社が多く適用している影響により、技術的準備金の市場シェアでは13%と高くなっている。
複数の措置の適用状況
5|株式リスクチャージの対称調整の適用状況
株式リスクチャージの対称調整の適用状況については、以下の通りとなっている。

前回の報告書との関係では、株式リスクをカバーしない部分内部モデルの適用会社数が減少し、それらの会社の市場シェアも10%から3%に大きく低下している。
株式リスクチャージの対称調整
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中村 亮一

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