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サクセッションプランニングの焦点-後継者計画の課題は決め方より育成にある
江木 聡
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1――サクセッションプランニングとは
後継者計画は、コーポレートガバナンスの要諦である社長・CEOの選任に直結している。本稿は、これらを一体として扱い、後継者計画で先行する米国の考え方を参考にしながら、日本における経営者の育成・選定に関わる論点の考察を通じて、後継者計画のあり方を検討する。
1 先行する海外では後継者計画の対象者は社長・CEOに限定されず、副社長・CFO以下の経営陣から広く組織・階層のリーダー職まで広がっている。クリスティー・アトウッド(石山恒貴訳)「サクセッションプランの基本 ―人材プールが力あるリーダーを生み出す―」ASTDグローバルベーシックシリーズ(2012年)pp.15-16
2――先行する米国の後継者計画
米国の経営者育成は、将来有望な候補を若い段階から「はじめる、やめる、変える」など、管理とは別次元の困難な職務に敢えて配置(タフ・アサインメントという)して鍛えることが柱となっている。例えば、外資系日本法人の社長に、日本の感覚からすれば非常に若い外国人が就任にしているケースなどは、欧米とは全く異質な文化や言葉の壁がある日本に敢えて配置し、小規模でも若くして経営を経験させ、実際に経営者としてビジネスを拡大できるのかを評価するというタフ・アサインメントである7。このように、後継者計画には、企業の歴史、職業文化、経営に対する考え方が反映する。米国における後継者計画は、経営の重要な課題として、経営職という高度専門職を、早期選抜と修羅場経験を通じて育成する仕組みとして確立されている。
2 ピーター・キャペリ「ジャスト・イン・タイムの人事戦略 不確実な時代にどう採用し、育てるか」日本経済新聞出版社(2010)P.15
3 三品和広「経営戦略を問い直す」筑摩書房(2006年)pp.150-151
4 前掲注3 pp.171-172
5 八木洋介・金井壽宏「戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ」光文社(2012)P.166
6 米国有名校MBA修了には一般に2,500万円を超える学資等が必要とされ、高額の学資負担を伴うMBA取得は、米国社会で経営職志望の意思表示になるとともに、その選抜候補に入る有力資格というシグナリング効果がある。
7 米国S&P500株価指数企業では2014年から2017年の4年間に、半数近い220社でCEOが交代したが、内部昇格がそのうち78%を占めている。大卒が生涯平均して5回転職するといわれる米国では(前掲注1 P.24)、当然、生え抜きではないが、米国でも経営者は内部昇格が基本である。加えて、外部の厚い経営人材マーケットの存在が経営者の外部招聘というオプションを提供し、米国の経営者計画を柔軟かつ強靭なものにしている。
SpencerStuart“CEO TARNSITIONS 2017”https://www.spencerstuart.com/research-and-insight/2017-ceo-transitions
3――日本の後継者計画の現状
計画として曖昧なケースは、日本企業の経営者育成に対する考え方の反映と見ることができる。日本では「人(経営者)は地位に就けば自然に育つ」という考えが支配的である。また、経営者とは高度専門職という捉え方ではなく、高度なゼネラリストとしてきた。育成の実態も、年功序列の職業文化の下、明確な計画はなくとも、長期にわたる異動経験の中で、企業独自のスキルや人脈を築きながら、多数の評価者による査定を経て、会社内部では客観性と納得度の高い後継者の絞込みが行われてきた9。その意味では、欧米とは異なる日本式の後継者計画があるといえるだろう。いずれかが優れているという訳ではなく、これも日本における企業の歴史、職業文化、経営に対する考え方の反映なのである。しかしながら今、後継者計画の必要性が問われている背景には、日本企業の現状に課題が存在するのも確かである。
8 経済産業省「CGSガイドラインのフォローアップについて(CGS研究会(第2期)第3回事務局資料)」(2018年)P.26
9 石山恒貴 訳者解説「クリスティー・アトウッド『サクセッションプランの基本 ―人材プールが力あるリーダーを生み出す―』ASTDグローバルベーシックシリーズ(石山恒貴訳)」(2012年)P.132
4――決め方の課題
- 後継者の選定は現社長・CEOの人物眼といった属人的な要素に依存し、客観的な基準や評価情報が用いられることが少ない。
- 後継者の育成計画も(あったとしても)現社長・CEO の頭の中だけに存在し、明確な育成方針や育成プロセスが存在しなかった企業が多い。
- 後継者の指名は、客観性と透明性が必ずしも十分ではない(中略)、指名の際に、社内論理10や、現社長・CEO の主観的な判断や個人的な都合11など、企業価値の向上以外の観点が優先され、幅広い候補者の中から最適な人材が選ばれていない。
しかしながら、現社長・CEOの人物眼については、その依頼を受けた専門外部機関が後継者候補のアセスメントを行ってみると、最も総合評価の高い人物が、現社長・CEOの「主観的な」意中の次期候補者と一致するケースが、実際には多いようである。
社内者と社外者の人事情報の非対称性から、後継者の選出は社内の経営執行側がある程度主導せざるを得ない。そこで今回のコード改訂では、取締役会や(任意の)指名委員会による社外者の後継者計画への監督・関与の強化が要請された。その結果、現社長・CEOが選抜や指名の理由や妥当性について、少なくとも社外者に対し説明することが求められ、現社長・CEOが提示した指名案が承認される場合でも社外者を入れた審議を経ることになる。後継者計画が社長・CEOの頭の中だけに存在した際には入り込んでいたかもしれない恣意性や社内論理等の余地は、必然的に抑制されていく構造にあり、今後もこの監督強化の流れは強まっていくだろう。後継者計画の実効性を確保するために、取締役会や社外取締役が後継者の決め方を監督することは極めて重要である。ただ一方、妥当性を確保するための手続きが担保されれば、後継者計画の真の目的である優れた経営者の輩出が約束されるという訳ではない。
10 経済産業省「CGSガイドライン」P.35脚注26 「例えば、年功序列や入社年次・年齢、社内派閥間や事業部門間のバランス、出身部門や学歴、過去の人事慣行など。」
11 前掲注7, P.35脚注27「例えば、現社長・CEOが退任後も影響力を行使しやすいなど。」
5――育成の課題
12 経営人材の用語について本アンケートは特定の定義を置いていない。アンケート回答者の主観により、経営人材を社長・CEO以外の副社長・役付役員、機能別責任者(CFO等のC-classポジション)、事業責任者等まで広く想定している点に留意が必要である。但し、日本企業ではこれら職位も社長・CEOにつながっていくため、本稿の後継者計画の対象である。
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