2018年12月28日

IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について(2)-IASBにおける検討状況と各種関係団体の反応等-

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長   中村 亮一

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2|IASBのHans Hoogervorst議長によるAICPA(米国公認会計士協会)の規制進展に関する年次総会におけるスピーチ
IASBのHans Hoogervorst議長は、12月11日に開催されたAICPA(米国公認会計士協会)による規制進展に関する年次総会における「私たちは次の危機に準備ができているのか?(Are we ready for the next crisis?)」とのタイトルのスピーチ16において、IFRS第17号に関して、以下のように述べて、IFRS第17号がいかに金融安定性に貢献するのかを説明した。

これによれば、IFRS第17号の適用により、1)保険負債の適切な測定、2)透明性のあるオプションと保証のコスト、3)リスクマージンの最新化された情報、4)不利な契約の即時認識、5)前払い収益計上の終結、6)利益調整の減少、が図られることから、金融安定性に貢献すると述べた。
 

2018年12月11日
IFRS第17号の金融安定性への貢献

今、私は保険に向かおう。保険負債の長期的な性質を考えると、保険業界は銀行より急激な流動性危機にさらされにくい。それにもかかわらず、膨大な金融資産を保有しているため、保険会社はシステミックリスクの影響を受ける。さらに、保険会社のビジネスモデルは、現在の低金利環境によって圧力を受けている。

国際通貨基金(IMF)は、2017年の金融安定性報告書において、利回りの追求において、保険会社はより多くの信用リスクと流動性リスクを抱えていると警告した。保険会社が保有する低格付債券のシェアは大幅に上昇したと指摘した。IMFはまた、業界が不透明で異質な金融情報開示と会計及び規制制度の不備に苦しんでいることを指摘した。

これがもちろん、IASBが保険契約の新基準であるIFRS第17号を公表した理由である。

私は、IFRS第17号が保険業界の金融安定性に非常に重要な貢献をもたらすと確信している。

第1に、オプション及び保証の費用を含む保険負債は、適切に測定され、定期的に更新され、より良い情報を提供する。持続不可能な株式ポジションの構築は、より早く見えるようになる。FASBは、過去の費用測定を現在の測定に置き換え、保険基準に同様の変更を加えた。

第2に、IFRS第17号は前払いの収益計上を終結させる。収入は、サービスが提供されている場合にのみ認識される。明らかに、これは、年金のような長期契約の利益を先取りできる、世界のいくつかの地域での現在の慣行よりも保守的である。

さらに、IFRS第17号は、異なる世代の契約間の束縛のない平均化を終わらせることにより、収益性の傾向に関するより良い情報をもたらす。現在の会計基準は、保険会社が異なる世代の契約の収益性を一緒くたにするために多くのフリーウェイを与えている。収益性の高い契約を収益性の低いより新しい契約と一緒くたにすることで、損益計算書を滑らかにすることができる。古い契約は、満了後も現在の収益に貢献することさえある。

明らかに、この慣行は、投資家が収益動向を識別することを非常に困難にする。また、保険会社の業績が悪化しても、慎重な配当配分の余地を生み出す。IFRS第17号では、保険契約の異なる期間を明確に区別することを保険会社に要求する。利益が減少し始めると、それははるか早く表示される。

 

5―12月前後の各種団体等からの反応等

5―12月前後の各種団体等からの反応等

1|CFO Forumの反応
欧州保険会社のCFO(最高財務責任者)の集まりであるCFO Forumは、12月5日に、IASB議長のHans Hoogervorst氏宛に、IFRS 第17号への修正に関する意見を述べるレター 17を送った。

このレターの中で、CFO Forumは、「IFRS第17号の潜在的な修正を検討し、IFRS第9号とIFRS第17号との間の発効日の整合性を維持するという審議会の最近の決定に感謝する。」と述べたが、一方で「私たちが一貫して述べてきているように、私たちは EFRAGテストにおいてCFO Forumのメンバーによって特定された未解決の問題を評価することが非常に重要であると信じている。」と述べて、さらに「これらの問題は、新基準が業績を公正に反映し、その結果が投資家や他の利用者に分かりやすいものになるようにするために、IFRS第17号の修正を通じて解決される必要がある。」とした。

加えて、「CFO Forumは、特定された全ての問題に対して可能な解決策を提供し、業界は改善されたIFRS第17号を完成させる勢いを維持することを約束し続けている。」と延べ、(前回のレポートで報告した)10月にCFO Forumが提示した解決策の検討を進めることを促した。

そして、「12月の会議で発表されたスタッフの報告書に基づくと、EFRAGテストからの強力な証拠及びCFO Forumによって提案された解決策が真剣に検討されておらず、問題が時期尚早に却下される可能性があることを私たちは非常に心配している。」として、12月のIASB会議での決定等に対して、不満及び大きな懸念を表明した。
 

2018年12月5日
Re: IFRS 17号への修正

この機会を利用して、あなたと他のIASB理事が最近、CFO Forum及び保険ヨーロッパのメンバー会社の多くのCFOとの間で行った電話に感謝する。この電話会議では、IFRS第17号に関するIASBの最近の決定及び進行中の作業が議論された。

私たちは、IFRS第17号の潜在的な修正を検討し、IFRS第9号とIFRS第17号との間の発効日の整合性を維持するという審議会の最近の決定に感謝する。私たちが一貫して述べてきているように、私たちは EFRAGテストにおいてCFO Forumのメンバーによって特定された未解決の問題を評価することが非常に重要であると信じている。進行中の実施プロジェクトと共に、かなりの数の主要な保険会社によるこのテストは、重大な問題、それらの影響及び関連するコストと複雑さについての実質的な新しい証拠を提供した。これらの問題は、新基準が業績を公正に反映し、その結果が投資家や他の利用者に分かりやすいものになるようにするために、IFRS第17号の修正を通じて解決される必要がある。

CFOフォーラムは、特定された全ての問題に対して可能な解決策を提供し、業界は改善されたIFRS第17号を完成させる勢いを維持することをコミットし続けている。そして、私たちが先に述べた電話で示したように、私たちはIASBがCFO ForumのメンバーがEFRAGに提出した広範囲のテスト証拠に留意することが重要であると考えている。

私たちは、IASBに、私たちの関係メンバーが問題、詳細な証拠及び提案された解決策を提示することを提供した。EFRAGのテストに参加した個々のメンバー会社は、問題、テストの結果としての新たな証拠及び提案されたCFO Forumの解決策を説明するために、IASB(のスタッフ)に手を差し伸べ続ける。私たちは、Forum全体が特定された問題を解決するための提案が証拠によって理解され支持されることを確実にするために必要な支援を何でも提供する用意があると繰り返し述べている。

12月の会議で発表されたスタッフの報告書に基づくと、EFRAGテストからの強力な証拠及びCFO Forumによって提案された解決策が真剣に検討されておらず、問題が時期尚早に却下される可能性があることを私たちは非常に心配している。私たちは、あなたがForumによって提示された問題にどのように対処し、私たちの個々のメンバーからの相当量のEFRAGテスト結果を評価し、IFRS第17号への必要な修正を加える上で業界と連携するかを理解することができれば、喜ばしく思う。

2|EFRAGの反応
EFRAGは、12月18日に開催された理事会で、IASBにおける最近の議論の進展に基づいて、EFRAGがIFRS第17号への変更案の将来の公開草案(ED)の可能性に備えて積極的に準備すべきであるかどうか、もしそうであればどのように検討すべきかについて検討した。
3|アナリストの反応(KPMGによる調査結果報告書)
KPMGは、12月に、保険会計に関するアナリストの現在の見解と、IFRS第17号の下で状況がどのように変わるかについての彼らの期待を調査した結果である報告書「Can you see clearly now? Feedback from analysts on the insurance reporting landscape:今やはっきりと見ることができるのか? 保険広告展望に関するアナリストからのフィードバック」18を公表した。
(1)調査の内容
この報告書は、IFRS第17号の導入にあたって、保険会社の事務システム上等の実施上の課題とは別に、アナリストや投資家のコミュニティに、彼らが準備ができ、彼らが見るものを理解できるように、予想される影響を伝えることが、もう1つの重要な側面であるとして、これにより光を投げかけるために、IFRS第17号の下で状況がどのように変化するかについての彼らの期待を理解するために、現在の保険会計についての彼らの見解を評価すべく、代表的な20名のアナリストのサンプルの中で調査を行っている。

(2)調査結果のポイント
この調査結果によれば、アナリストは現在のIFRSに不満を抱いており、IFRS第17号の下でいくつかの重要で期待できるベネフィットを見ているが、しかし彼らはまた多くの不確実性と潜在的な懸念を有している、ことがわかった。

具体的には、以下の点が挙げられている。

・IFRS第17号は、アナリストが保険会社をどのように評価するかに影響を与えるが、今と同様に、将来的にはIFRSにのみ焦点を当てることはないだろう。

・アナリストは、IFRS第17号が、保険会社に対する投資をより魅力的にし、資本コストを削減するかどうか、のような重要な質問に関して、意見が分かれている。

・IFRS第17号の下での比較可能性の大幅な改善にもかかわらず、アナリストは依然として代替的な業績指標の場所を探している。多くは、ソルベンシーIIとエンベデッド・バリュー(EV)報告がIFRS財務諸表と同じくらい重要であると想定している。

・アナリストはまだIFRS第17号に精通していない。彼らはIFRS第17号の影響とその準備のために何をしているのかについて、会社からより多くのことを聞きたいと思っている。

・新しい基準が円滑に開始され、よりまとまりのある、より情報に富んだ市場を創造するためには、より多くのコミュニケーション、議論、そして意識の向上が必要とされる。

(3)調査結果の具体的内容からの抜粋
IFRS第17号の実施に伴う影響に関連する、より具体的な内容の抜粋は、例えば以下の通りである。

・IFRS第17号により、アナリストの70%は、保険会社間の財務実績の比較可能性が改善されると予想し、3分の2近くが財務実績の透明性の向上を予想している。さらに、半数以上が保険グループ内の報告の整合性の向上を期待している。

・しかし、IFRS第17号が投資家による保険業界への理解の向上につながると期待しているのは、(30%で)3分の1に満たない。

・アナリストは、IFRS第17号を含むいかなる原則ベースの会計基準も保険会社間の良好な比較可能性を提供できることにやや悲観的なままである。半数以上(55%)が、原則ベースの基準による比較可能性が達成可能な範囲について懸念を抱いており、さらに1/4はまだ不明確である、と述べている。

・アナリストが保険会社の業績をよりよく理解するのに役立つと思う追加の開示範囲については、保険会社間の標準化された基礎に関する主要な前提の感応度分析(90%)、トップラインとボトムラインと配当余力の間のより明確なリンケージ(85%)、異なるコホート又はヴィンテージからの結果への貢献に関するより明確な情報(70%)、が挙げられている。

・アナリストの3/4は、新基準によって、保険会社を評価するために使用されるアプローチを、直接又は更新が必要なモデルへのインプットを通じて変更すると考えている。

・IFRS第17号は、75%のアナリストが保険会社間の比較可能性を向上させるとしているが、60%のアナリストがIFRSに基づく保険会社と米国GAAPに基づく保険会社間の比較可能性を低下させると考えている。

・規制上の報告(ソルベンシーII等)と財務報告との間に有益でない相違がある可能性があるという大きな懸念がある。

・アナリストの大多数は、IFRS第17号、ソルベンシー報告及びエンベデッドバリュー(EV)などの代替的な業績指標が引き続き同様に重要であり、明確な勝者はないと考えている。

・一方で、(別の保険会社に対する調査によれば) 回答者の64%が、IFRS第17号及び第9号の数値を代替的な業績指標で補完し続けることを考えているが、これらの保険会社の大多数が、EVなどの代替的な業績指標を継続して使用するのではなく、IFRS第17号とソルベンシーIIなどの規制指標の両方を反映するように一連の指標を再設計すると考えている。

・アナリストの10%だけが自分たちが基準に精通していると考えているが、90%のアナリストは知識が限られていると認めている。

・多くのアナリストは、新基準を明確にするために会計専門職の出版物に依存している。しかし、10名中7名のアナリストは、保険会社がもっと投資家やアナリストのための十分な教育や訓練を提供すべきだと考えている。

なお、この報告書の中で述べられているIFRS第17号の原則ベースの性格に関するアナリストの批判は、先に述べたEIOPAのGabriel Bernardino会長が提起した懸念を反映している。

(4)報告書作成者からのコメント
以上のような調査結果に関連して、例えばこの調査報告書の作成者の1人であるKPMGのアクチュアリーのグローバルリーダーであるFerdia Byrne氏は、報告書の中で、以下のように述べている。

「良いニュースは、IFRS第17号が利用者とのコミュニケーションを著しく手助けする追加の開示、特に、より優れた感応度分析や異なる契約のヴィンテージからの貢献に関するより詳細な情報、を提供することである。しかし、また克服すべき課題もある。アナリストは、標準化されたエンベデッドバリュー(EV)の感応度が開発されたのと殆ど同じ方法で、標準化された開示の開発を必要とするかもしれない整合的な基礎に基づいて提示される情報に飢えている。保険会社は、トップラインとボトムラインを如何にリンクさせるのかを学び、IFRS第17号の下での結果の主要なドライバーを説明しなければならないが、これは彼らが広範な様々なシナリオの下でどのように反応するのかを見るために、新しい基礎での結果の複数の繰り返しを要求することになる。そして、私たちは目一杯のリアリズムを維持する必要があり、たとえこれらの変更の後でも、世界は完全ではなく、ローカルの多様性は依然として残るだろう。例えば、配当余力は一般的にローカルの資本と規制要件によって左右され続けることになる。」
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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