2018年11月14日

QE速報:7-9月期の実質GDPは前期比▲0.3%(年率▲1.2%)-自然災害の影響で2四半期ぶりのマイナス成長

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●7-9月期は前期比年率▲1.2%と2四半期ぶりのマイナス成長

本日(11/14)発表された2018年7-9月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比▲0.3%(前期比年率▲1.2%)と2四半期ぶりのマイナス成長となった(当研究所予測10月31日:前期比▲0.2%、年率▲0.8%)。

4-6月期の高成長(前期比年率3.0%)から一転してマイナス成長となった主因は、4-6月期に高い伸びとなった民間消費、設備投資がいずれも減少に転じたことである。民間消費は天候不順による外出の手控えや生鮮野菜、エネルギー価格の高騰による実質購買力の低下から、前期比▲0.1%と2四半期ぶりに減少した(4-6月期:同0.7%)。また、好調が続いていた設備投資も自然災害に伴う供給制約の影響から前期比▲0.2%と8四半期ぶりに減少した(4-6月期:同3.1%)。

また、海外経済の減速や自然災害の影響などから輸出が前期比▲1.8%と大きく落ち込んだことから(輸入は前期比▲1.4%)、外需寄与度は前期比▲0.1%(年率▲0.3%)と小幅ながら4-6月期に続き成長率の押し下げ要因となった。
 
名目GDPは前期比▲0.3%(前期比年率▲1.1%)と2四半期ぶりの減少となった。GDPデフレーターは前期比0.0%(4-6月期:同▲0.2%)、前年比▲0.3%(4-6月期:同▲0.0%)であった。国内需要デフレーターは前期比0.3%の上昇となったが、輸入デフレーターの伸び(前期比3.0%)が輸出デフレーターの伸び(同1.1%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し下げた。
<需要項目別結果>
<需要項目別の動き>
民間消費は前期比▲0.1%と2四半期ぶりの減少となった。雇用所得環境は改善を続けているが、豪雨、台風上陸などの天候不順によって外出が手控えられたこと、生鮮野菜の価格高騰、ガソリン、電気代などのエネルギー価格の大幅上昇によって、家計の実質購買力が低下したことが消費を下押しした。7-9月期の消費の減少は一時的な要因によるところも大きいが、2017年4-6月期以降は増加と減少を繰り返しており、基調としても緩やかな持ち直しにとどまっていると判断される。

家計消費の内訳を形態別にみると、自動車、テレビなどの耐久財(前期比0.4%)、被服・履物、家具などの半耐久財(前期比0.6%)、食料などの非耐久財(前期比0.4%)はいずれも増加したが、天候不順、自然災害の影響を強く受けた外食、旅行などのサービスが前期比▲0.7%と大きく落ち込んだ。
 
住宅投資は前期比0.6%と5四半期連続ぶりに増加した。新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2018年1-3月期の89.2万戸から4-6月期に96.8万戸へと大幅に増加した後、7-9月期は95.3万戸と小幅な減少となった。

先行きについては、2019年10月に予定されている消費税率引き上げ前の駆け込み需要が住宅投資を押し上げることが見込まれる。ただし、消費増税後に住宅ローン減税、住まい給付金の拡充が予定されていること、2014年度の消費増税前の駆け込みによって潜在的な需要が少なくなっていることから、駆け込み需要の規模は前回増税時を下回ることが予想される。
 
設備投資は前期比▲0.2%と8四半期ぶりに減少した。4-6月期の高い伸びの反動に加え、自然災害による供給制約も設備投資の下押し要因になったとみられる。

日銀短観2018年9月調査では、2018年度の設備投資計画(含むソフトウェア、除く土地投資額)が前年度比11.2%(全規模・全産業)と9月調査としては過去最高の伸びとなっており、設備投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2018年7-9月期に前期比0.9%と5四半期連続で増加した後、10-12月期の見通しも同3.6%の増加となっている。

製造業の能力増強投資、人手不足対応の省力化投資、東京五輪関連の建設投資、訪日外国人急増に伴うホテル建設など、設備投資の押し上げ要因は多い。経常利益やキャッシュフローに対する設備投資の比率は低水準にとどまっており、企業の投資スタンスは積極化しているわけではないが、企業収益の大幅増加に伴う潤沢なキャッシュフローを背景に、設備投資は底堅い動きが続く可能性が高い。
 
公的需要は、政府消費が前期比0.2%の増加となったが、公的固定資本形成が前期比▲1.9%と5四半期連続の減少となった。足もとでは2017年度補正予算による工事が進捗しているとみられるが、公共事業関係費が約1兆円と2016年度補正予算の1.6兆円に比べて規模が小さいこと、2018年度の当初予算の公共事業関係費が前年比+0.0%の横ばいとなっていることから、減少傾向に歯止めがかからない。11/7に成立した災害からの復旧・復興を中心とした総額9,356億円の2018年度補正予算による公共工事の押し上げ効果が顕在化するのは2019年入り後となるだろう。
 
外需寄与度は前期比▲0.1%(前期比年率▲0.3%)と2四半期連続のマイナスとなった。財貨・サービスの輸出が前期比▲1.8%と大幅に減少し、財貨・サービスの輸入の減少幅(前期比▲1.4%)を上回ったため、外需は成長率の押し下げ要因となった。

7-9月期は豪雨、台風上陸、北海道地震といった自然災害による供給制約が輸出を大きく下押ししたとみられる。また、9月に台風21号に伴う関西空港の一時閉鎖や北海道地震の影響で訪日外国人が急減したことが響き、サービス輸出は前期比▲3.8%の大幅減少となった(財の輸出は前期比▲1.3%)。
(雇用者報酬の伸びが過去に遡って下方改定)
個人消費の動向をみるうえで重要な雇用者報酬を確認すると、2018年7-9月期は名目で前年比2.5%(4-6月期:同3.4%)、実質で前年比1.5%(4-6月期:同2.9%)となり、いずれも前期から伸びが鈍化した。雇用者数は前年比で2%程度の高い伸びを続けているが、一人当たり賃金の伸びが低下したことが名目雇用者報酬の伸び率鈍化につながった。また、生鮮野菜の価格高騰、ガソリンなどのエネルギー価格の大幅上昇から消費者物価上昇率が4-6月期の前年比0.7%から同1.1%へと高まったことが実質雇用者報酬の伸びを押し下げた。

なお、内閣府は、雇用者報酬推計の基礎統計となっている「毎月勤労統計」が2018年1月から調査対象入れ替え及びウェイトの更新を行ったことにより、2017年12月以前の賃金データと断層が生じていることを受け、雇用者報酬の推計方法の変更を行い、過去に遡ってデータを改定した。

改定前の名目雇用者報酬は2018年1-3月期が前年比3.1%、4-6月期が同4.1%と非常に高い伸びとなっていたが、1-3月期が同2.7%、4-6月期が同3.4%へと下方改定された(改定幅は1-3月期が▲0.4ポイント、4-6月期が▲0.7ポイント)。

筆者が内閣府の推計方法変更をもとに、「毎月勤労統計」の断層調整済の一人当たり賃金(現金給与総額)の伸びを試算したところ、2018年1-3月期以降の断層調整済みの伸び率はいずれも公表値(本系列)よりも低くなった(2018年1-3月期:前年比1.4%→同1.0%、4-6月期:前年比2.2%→同1.5%、7-9月期:前年比1.2%→同0.9%)。公表値の所定内給与が2018年入り後に伸びを大きく高めているのに対し、断層調整済の所定内給与は2018年入り後も2017年中と同程度の伸びとなっており、公表値を大きく下回っていることがその主因である。1月に所定内給与(基本給)を改定する企業が少ないこと、2018年春闘で妥結されたベースアップが2017年とそれほど変わってないことを踏まえれば、断層調整済の賃金の伸びがより実態に近いものと考えられる。

筆者は2018年1-3月期のGDP1次速報時からGDP統計の雇用者報酬は過大推計されている可能性が高いことを指摘してきたが、今回の推計方法の変更によってより実態に近いデータに改められたと評価している。
改定された雇用者報酬/断層調整済の賃金上昇率(現金給与総額)
10-12月期はプラス成長に復帰の公算も、輸出の下振れリスクに要注意)
2018年7-9月期のマイナス成長は、4-6月期の高成長の反動や自然災害に伴う供給制約によるところも大きいが、輸出は米国を除く海外経済の減速を背景に、2018年に入り基調として回復ペースが鈍化している。現時点では、10-12月期は供給制約の緩和に伴い民間消費、設備投資、輸出がいずれも増加に転じることから、年率1%程度とされる潜在成長率を明確に上回る成長になると予想しているが、米中貿易戦争が一段と激化するようなことがあれば、輸出の失速を起点として景気が後退局面入りするリスクが高まるだろう。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2018年11月14日「Weekly エコノミスト・レター」)

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