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- 家族が認知症になったらー成年後見制度を見てみる
2018年11月07日
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認知症が重度になると判断能力が衰え、重要な契約などが当人ではできなくなる。そのときのために用意されている法的な制度が成年後見である。
成年後見制度には家庭裁判所が法律の定めに従って本人を援助する者を選任する「法定後見」と本人があらかじめ締結した任意後見契約に従って本人を援助する者が選任される「任意後見」とがある。本稿では「法定後見」のうち、最も利用実績のある「後見」について見てみることとする*1。「後見」とは判断能力をまったく欠く者を対象とする制度である。具体的には判断能力が日常的な買い物も含め自分ではできずに代わって誰かにしてもらう必要がある程度に至った者を対象とする。「後見」が開始されると、成年後見人が家庭裁判所により選任される。
成年後見人は本人の行為全般について、本人を代理することができ、本人の行為を取り消すことができる。
後見制度は手続きが煩雑であったり、費用がかかったり、自由がきかなかったりするなどいろいろな批判があるが、財産の処分をまったく他人に委ねてしまうため、それなりの規制が必要という事情がある。いずれにせよ、認知症で判断能力を失った方がなんらかの重要な取引を行おうと思ったら、この後見制度を利用するほかはない。
後見制度を利用するきっかけとしては、預貯金の管理・解約、身上看護(入院契約の締結など)などがある。預貯金の管理・解約の件数が図抜けて多く、銀行で成年後見人をつけて欲しいといわれて手続きを行う事例が多いものと推測される。
さて、後見制度の概要を見ていこう。後見をはじめるためには親族等が家庭裁判所に後見開始審判の申立てを行う(民法7条)。なお、成年後見人は親族がなるものというイメージが強いが、親族が選任されるケースは全体の26.2%しかなく、司法書士や弁護士が選任されるケースのほうがはるかに多い。
後見の審判が確定すると、成年後見人は財産の調査、金融機関や官庁等への届出、年間収支状況の確認を行う。そして、家庭裁判所に財産目録と年間収支予定表を提出する。
次に後見人の日常の仕事を確認したい。成年後見人の主な仕事は療養看護と財産管理である。療養看護といっても、事実行為、すなわち実際に介護を行うことは成年後見人の事務には含まれず、入院契約の締結や介護施設への入所契約など法律行為に限定される。また、手術など医療行為への同意は成年後見人の権限に含まれない。
一方、財産管理は事実行為としての財産管理と対外的な代理行為(法律行為)の両方がある(民法859条)。年金などの入金管理、生活費や光熱費等の支出管理、税金の申告と納税等を行う。また、預貯金の引き出しや保険金の請求と言った法律行為を行う。さらに、本人が不要な契約をしてしまった場合にその契約を取り消すことも行う。
そして年に一度、後見事務報告書、財産目録、収支状況報告書等を家庭裁判所に提出する。
後見は通常、本人死亡によって終了する。後見が終了したときには、成年後見人は二ヶ月以内に財産の計算を行い、財産目録を作成し、財産を相続人に引き渡す。
さて、簡単に後見を見てみたが、留意点を述べてみたい。
まず、後見は通常、死亡によらなければ終了しないという点である。後見の申立てのきっかけの多くは上述の通り、預貯金の管理・解約が多い。しかし、一旦、後見を開始すると金融機関との取引が終わっても後見が終了するわけではない*2。
また、成年後見は本人のための制度であり、贈与は厳しく制限される。したがって、生活費の援助なども求めようもなくなるし、住宅資金贈与などの各種の相続対策もできないことになる。
一方で、成年後見人となる人から見ると相当な手間がある。これは担い手問題に結びつく。
政府は成年後見制度普及に取り組んでいる*3が、目に見える大きな成果を挙げたとは言いにくい*4。そこにはこれまで述べてきたような制度の利用者と担い手にとっての敷居の高さがあるのではないだろうか。
*1 法定後見には「後見」のほかに「保佐」「補助」がある。
*2 成年後見人が不適格等の理由で交代することはあっても、本人の死亡のほかは、本人(成年被後見者)の判断能力が回復するのでなければ後見は終了しない。
*3 成年後見制度利用促進基本計画(平成29年3月24日閣議決定)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/keikaku1.pdf 参照
*4 認知症患者が2012年で462万人である一方、成年後見制度利用者は2017年で21万人にとどまる。
成年後見制度には家庭裁判所が法律の定めに従って本人を援助する者を選任する「法定後見」と本人があらかじめ締結した任意後見契約に従って本人を援助する者が選任される「任意後見」とがある。本稿では「法定後見」のうち、最も利用実績のある「後見」について見てみることとする*1。「後見」とは判断能力をまったく欠く者を対象とする制度である。具体的には判断能力が日常的な買い物も含め自分ではできずに代わって誰かにしてもらう必要がある程度に至った者を対象とする。「後見」が開始されると、成年後見人が家庭裁判所により選任される。
成年後見人は本人の行為全般について、本人を代理することができ、本人の行為を取り消すことができる。
後見制度は手続きが煩雑であったり、費用がかかったり、自由がきかなかったりするなどいろいろな批判があるが、財産の処分をまったく他人に委ねてしまうため、それなりの規制が必要という事情がある。いずれにせよ、認知症で判断能力を失った方がなんらかの重要な取引を行おうと思ったら、この後見制度を利用するほかはない。
後見制度を利用するきっかけとしては、預貯金の管理・解約、身上看護(入院契約の締結など)などがある。預貯金の管理・解約の件数が図抜けて多く、銀行で成年後見人をつけて欲しいといわれて手続きを行う事例が多いものと推測される。
さて、後見制度の概要を見ていこう。後見をはじめるためには親族等が家庭裁判所に後見開始審判の申立てを行う(民法7条)。なお、成年後見人は親族がなるものというイメージが強いが、親族が選任されるケースは全体の26.2%しかなく、司法書士や弁護士が選任されるケースのほうがはるかに多い。
後見の審判が確定すると、成年後見人は財産の調査、金融機関や官庁等への届出、年間収支状況の確認を行う。そして、家庭裁判所に財産目録と年間収支予定表を提出する。
次に後見人の日常の仕事を確認したい。成年後見人の主な仕事は療養看護と財産管理である。療養看護といっても、事実行為、すなわち実際に介護を行うことは成年後見人の事務には含まれず、入院契約の締結や介護施設への入所契約など法律行為に限定される。また、手術など医療行為への同意は成年後見人の権限に含まれない。
一方、財産管理は事実行為としての財産管理と対外的な代理行為(法律行為)の両方がある(民法859条)。年金などの入金管理、生活費や光熱費等の支出管理、税金の申告と納税等を行う。また、預貯金の引き出しや保険金の請求と言った法律行為を行う。さらに、本人が不要な契約をしてしまった場合にその契約を取り消すことも行う。
そして年に一度、後見事務報告書、財産目録、収支状況報告書等を家庭裁判所に提出する。
後見は通常、本人死亡によって終了する。後見が終了したときには、成年後見人は二ヶ月以内に財産の計算を行い、財産目録を作成し、財産を相続人に引き渡す。
さて、簡単に後見を見てみたが、留意点を述べてみたい。
まず、後見は通常、死亡によらなければ終了しないという点である。後見の申立てのきっかけの多くは上述の通り、預貯金の管理・解約が多い。しかし、一旦、後見を開始すると金融機関との取引が終わっても後見が終了するわけではない*2。
また、成年後見は本人のための制度であり、贈与は厳しく制限される。したがって、生活費の援助なども求めようもなくなるし、住宅資金贈与などの各種の相続対策もできないことになる。
一方で、成年後見人となる人から見ると相当な手間がある。これは担い手問題に結びつく。
政府は成年後見制度普及に取り組んでいる*3が、目に見える大きな成果を挙げたとは言いにくい*4。そこにはこれまで述べてきたような制度の利用者と担い手にとっての敷居の高さがあるのではないだろうか。
*1 法定後見には「後見」のほかに「保佐」「補助」がある。
*2 成年後見人が不適格等の理由で交代することはあっても、本人の死亡のほかは、本人(成年被後見者)の判断能力が回復するのでなければ後見は終了しない。
*3 成年後見制度利用促進基本計画(平成29年3月24日閣議決定)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/keikaku1.pdf 参照
*4 認知症患者が2012年で462万人である一方、成年後見制度利用者は2017年で21万人にとどまる。
(2018年11月07日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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