2018年11月05日

【インドネシアGDP】7-9月期は前年同期比5.17%増~消費鈍化も5%強の底堅い成長を維持

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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インドネシアの2018年7-9月期の実質GDP成長率1は前年同期比(原系列)5.17%増と、市場予想2の同5.15%増とほぼ一致する結果となり、前期の同5.27%増から低下した。
7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、消費の減速が成長率低下に繋がった(図表1)。

民間消費(対家計民間非営利団体含む)は前年同期比5.08%増(前期:同5.22%増)と、小幅に低下した。業種別に見ると、ホテル・レストラン(同5.69%増)や輸送・通信(同5.68%増)、食料・飲料(同5.21%増)が高めの成長を続ける一方、アパレル(同4.45%増)が低調だった。

政府消費は前年同期比6.28%増となり、前期の同5.21%増に続いて高めの伸びが続いた。
総固定資本形成は前年同期比6.96%増と、前期の同5.86%増から上昇した。機械・設備(同22.13%増)が5期連続の二桁増となったほか、建設投資(同5.66%)が改善した。一方、過去2四半期堅調だった自動車(同4.50%増)が鈍化した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲1.10%ポイントとなり、前期の▲1.24%ポイントからマイナス幅が縮小した。まず輸出は前年同期比7.52%増(前期:同7.63%増)と小幅に低下した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同8.96%増)と4四半期ぶりの高水準となった一方、財輸出(同7.33%増)が石油・ガス輸出の急減により鈍化した。また輸入は同14.06%増となり、5期連続の二桁増となったが、前期の同15.26%増からは鈍化した。
(図表1)インドネシア実質GDP成長率(需要側)/(図表2)インドネシア 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、第一次産業が鈍化した(図表2)。

第一次産業は同3.62%増(前期:同4.77%増)と、穀物とプランテーション作物の産出量の鈍化を受けて低下した。

成長を牽引する第三次産業は同6.15%増(前期:同5.80%増)と上昇した。内訳を見ると、構成割合の大きい卸売・小売が同5.38%増(前期:同5.30%増)、ホテル・レストランが同5.90%増(前期:同5. 75%増)、情報・通信が同8.98%増(前期:同5.93%増)、不動産が前年同期比3.85%増(前期:同3.11%増)、金融・保険は同3.44%増(前期:同3.02%増)、行政・国防が同7.89%増(前期:同7.26%増)、建設業が同5.79%増(前期:同5.73%増)となり、それぞれ上昇した。一方、ビジネスサービスは同8.67%増(前期:同8.89%増)、運輸・倉庫が同5.64%増(同8.70%増)と、それぞれ低下した。

また第二次産業は同4.41%増(前期:同4.15%増)と上昇した。内訳を見ると、製造業が同4.33%増(前期:同3.84%増)、鉱業が前年同期比2.68%増(前期:同2.60%増)と、それぞれ上昇した。
 
1 11月5日、インドネシア統計局(BPS)が2018年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

インドネシア経済は7-9月期に若干鈍化したが、引き続き5%強の底堅い成長が続いている。

7-9月期は、民間消費が減速した。7-9月期はアジア競技大会の開催が8月の小売売上高を押し上げたものの、4-6月期はラマダン(イスラム教の断食月)や地方選挙に伴う関連支出の拡大、公務員賞与の増額による消費の押上げ効果が大きく、その反動減が7-9月期の消費減速に繋がった。民間消費は、引き続き賃金上昇ペースの鈍化や政府の税徴収の強化などが抑制要因となる一方、低インフレ環境の継続(図表3)や高水準の消費者心理指数(図表4)、政府の社会扶助プログラムの増加などが支えとなり、総じて底堅い伸びを維持している。また投資は機械・設備の好調に加えて建設投資が持ち直して好調であった。
(図表3)インドネシアの為替レート・インフレ率・政策金利/(図表4)インドネシアの企業景況感、消費者信頼感
経済の先行きは、引き続き牽引役の内需が堅調に推移するとみられる。今後は10月に開催された世界銀行IMF年次総会や19年4月に予定される総選挙と大統領選挙に向けた支出拡大が消費を押し上げるだろう。

また物価動向は今後も安定した推移が見込まれ、家計の購買力の支えとなるだろう。10月のCPI上昇率は前年同月比3.2%増となり、年初から中銀目標レンジ(2.5-4.5%)の中央値を下回って推移している。新興国不安を背景とするルピア安が輸入価格を押し上げる一方、政府は選挙を控えて燃料小売価格を統制して値上げを抑制することから、先行きの物価上昇はごく緩やかなものとなりそうだ。

しかしながら、輸出は減速傾向が強まっており、経済成長は横ばい圏で推移することとなりそうだ。7-9月期の実質輸出は前年同期比7.52%増と堅調に拡大したが、通関ベースの貿易統計を見ると伸び悩みつつある。輸出数量は7月(前年比20.9%増)まで好調だったが、8-9月平均が前年比2.6%増と大きく鈍化している。足元では、米中貿易戦争の過熱による世界貿易への悪影響が表面化してきており、インドネシアの輸出の減速傾向が一時的なものになるとは考えにくい。

また米国の金融引締めを背景とするインドネシア中銀の積極的な利上げは、過熱感の見られない景気に冷や水を浴びせる恐れもある。インドネシア中銀は、年末にかけて追加利上げを実施し、年明け以降も引き締めスタンスを維持するだろう。

一方、ルピアが安定感を取り戻す兆しもある。インドネシアの9月の貿易収支は3ヵ月ぶりの黒字になった。これは政府の貿易赤字抑制策が奏功した可能性がある。このまま貿易収支の改善が経常赤字の抑制に繋がると、ルピアの売り圧力が和らぎ、今後のインドネシア中銀の追加利上げが小幅に止まる展開も予想される。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2018年11月05日「経済・金融フラッシュ」)

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