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なぜ消費は活性化しないのか~活性化を阻む6つの理由

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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安価で便利な商品やサービスがあふれる中で、消費者の価値観が変容している可能性もある。「良いモノ」が必ずしも高額ではなくなることで、バブル期に見られたような「高級品」=「良いモノ」という意識は弱まり、高級品を買うことへの憧れも薄れているのではないか。また、モノがあふれる中では、そもそもモノを欲しいという欲求も弱まるだろう。
![[図表-6] 二人以上勤労者世帯の可処分所得と消費支出の関係](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/59983_ext_15_7.jpg?v=1540802426)
さらに、経済不安が強まる中で、同様の商品やサービスであれば、安価なものを利用する方が賢い消費者という自負が高まる風潮もあるのではないか。必要以上にモノを買わない「ミニマリスト」的な消費態度は、「エコ」という観点でも評価が高まるだろう。
これらの経済不安や価値観の変容による消費抑制傾向は、若年世帯で強くなっている。勤労者世帯の可処分所得と消費支出の関係を見ると、高齢世帯と比べて若年世帯では、可処分所得の減少幅に対して消費支出の減少幅(線の傾き)が大きい傾向がある(図表6)。つまり、若年世帯では所得の減少以上に消費額が減っており、消費性向が低下している様子が読み取れる。
一方で、欲しい商品やサービスがないという点も指摘できる。消費者の暮らし方や価値観が変わっているために、一部では強いニーズがあるものの、商品やサービスが足りていない状況も見える。
例えば、共働き世帯の増加で保育園待機児童問題が社会問題化していることから分かるように、子どもの保育需要は増している。また、待機児童問題では保育園のみが注目されがちだが、小学生の学童保育でも待機児童問題はある。共働き世帯では、平日は子どもの習い事の送迎ができないことが多いために、子どもの習い事関連のサービスに対するニーズも強い。現在、都市部では、英会話や楽器などの習い事教室が併設した民間学童や習い事送迎タクシーなどは高額にも関わらず予約で埋まっていると聞く。今後、子育て世帯では大学進学世代の母親が増えることで、子どもの教育関連サービスへのニーズは、さらに強まるのではないか。
従来商品であっても、消費者の暮らし方の変化に合わせて見せ方を工夫するだけで、売れる商品に変わる可能性もある。例えば、従来同様の機能を持つ冷蔵庫でも、単純に大型化して大量の作り置きや下ごしらえ食品を保存しやすい作りにして共働き世帯向けに打ち出すことなども考えられる。
最後に、統計上の課題をあげたい。政府の消費関連統計は改善が進められている ところだが、実は活性化している消費があっても、現在のところ、十分に捉えられていない可能性もある。
![[図表-7] NTTドコモの1契約当たりの通信料の推移人以上勤労者世帯の可処分所得と消費支出の関係](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/59983_ext_15_10.jpg?v=1540802426)
さらに、シェアリングサービスなどの新しい形態は、従来の調査枠組みでは該当箇所が分かりにくい懸念もある。また、個人間決済を行う場合は、供給側の統計としては捉えられないという課題もある。
決済手段多様化の影響も指摘できる。近年、スマートフォンの普及拡大に伴い、インターネット通販の決済手段として、携帯電話通信料に上乗せして支払う「キャリア決済」の利用が増えている。この場合、「家計調査」では通信費に紛れる可能性がある。「家計調査」における1世帯当たりの通信費は増加傾向にあるが、NTTドコモの1契約当たりの通話料は減少傾向にある(図表7)。なお、同社の2015年の金融決済取扱高(クレジットカード決済含む)は3兆円を超えて増加傾向にある。ただし、「キャリア決済」による消費は、通信費として計上されるため消費全体への影響は小さいが、被服や書籍など個別品目の消費への影響は増している。
3―おわりに~経済基盤の安定化や社会保障制度の持続性確保等の政策、企業努力の余地も
よって、賃金が上がれば消費が増える、という単純な構造ではない。しかし、(1)の経済不安による消費抑制意識は、政策として、現役世代の経済基盤の安定化や社会保障制度の持続性確保などを、さらに強く推し進めることで緩和できる。(2)については、今後、高齢世帯では単身世帯が増加する中で、ひとり暮らしならではのニーズなどもあるのではないか。(3)~(5)については、消費者の潜在ニーズを探り、それに合う商品やサービスを提供することが企業活動の醍醐味とも言えるだろう。全体としては個人消費の力強さは欠ける中でも、売れている商品もある 。その背景には何があるのか、また、革新的な商品を生み出す土壌作りとして政府や企業は何ができるのか。まだまだ工夫の余地はある。
(2018年10月30日「ニッセイ景況アンケート」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/22 | 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/04/14 | 「トキ消費」の広がりとこれから-体験が進化、共有が自然な消費スタイル、10年後は? | 久我 尚子 | 研究員の眼 |
2025/04/08 | 2025年の消費動向-節約一服、コスパ消費から推し活・こだわり消費の広がり | 久我 尚子 | 基礎研マンスリー |
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