- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- コーポレートガバナンス >
- コンプライ・オア・エクスプレイン開示のコンプライアンス
1――コンプライの実態
では、2018年6月のコード改訂で改めて必要性が強調された経営者の後継者計画(コード補充原則4-1③)でその実態を見てみよう。2017年7月時点(東証調べ)では、「取締役会による後継者計画の監督」について実施していないとして理由を説明した企業は東証一部・二部合計2,540社のうち340社にとどまっていた。にもかかわらず同年の経産省のアンケートによれば、その340社の倍以上となる718社が、後継者計画の監督を実施できていないどころか、存在すら認識できていないのである(図表2:「存在しない」447社+「わからない」271社=718社)。
2――実態と開示の乖離は何が問題なのか
取締役会の付議状況を見ると、コンプライ・オア・エクスプレインを含めたコーポレートガバナンス報告書の証券取引所宛提出に際し、4割の企業が取締役会で決議しており、報告事項扱いである企業と併せれば、7割近い企業が取締役会に付議している(図表3)。
会社外部との関係では、証券取引所が有価証券上場規程第436条の3に「企業行動規範」の「遵守すべき事項」として、コーポレートガバナンス報告書による各コード原則のコンプライ・オア・エクスプレインの表明義務について規定している。しかしながら、日本取引所自主規制法人によれば、コードに関する企業の取り組みや説明内容に改善すべき点があれば、まず株主との対話を通じて改善されることが想定されているとのことである。また、実態と開示の乖離が実効性確保手段(公表措置等)の対象となるのは、「コードの原則を実施していないことが客観的に明らかであり、かつ、会社がその理由の説明を拒絶する場合」などに限られるようである3。実際には、開示の名宛人である投資家(株主)の側でも、コーポレートガバナンス報告書が企業のコンプライ・オア・エクスプレインの実態を反映していないことは既に織り込み済みと見られ、対話を通じて実態を確認するという部分もあるようだ。
1 澤口実(2015).「視点 コードに対応したガバナンス報告書を読んで」資料版/商事法務380号 P.3
2 江頭憲治郎「株式会社法(第6版)」有斐閣(2015)P.464
3 詳細は拙稿「コーポレート・ガバナンス報告書の ベストプラクティス “とりあえずコンプライ”を “あとからエクスプレイン”する」基礎研レポート(2015)を参照。http://www.nli-research.co.jp/files/topics/53291_ext_18_0.pdf?site=nli
3――会社が失う大切なもの
最後にコーポレートガバナンス報告書の実態を従業員の目線で考えてみよう。会社の担当者が経産省のアンケートに対してコーポレートガバナンスの取組みが形式にとどまっていると吐露しているということは、現状を潔しとは考えていないという意味で、コーポレートガバナンスの内部通報という面があるかもしれない。日本は良きにつけ悪しきにつけ言霊の国である。公器たる上場会社が公式書類において利害関係者をたばかるようなことはあってはならないし、もしあるとすればコンプライアンス精神という最も重要な会社財産を毀損していることになるだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
このレポートの関連カテゴリ
江木 聡
研究・専門分野
(2018年10月10日「基礎研レター」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年04月19日
しぶといドル高圧力、一体いつまで続くのか?~マーケット・カルテ5月号 -
2024年04月19日
年金将来見通しの経済前提は、内閣府3シナリオにゼロ成長を追加-2024年夏に公表される将来見通しへの影響 -
2024年04月19日
パワーカップル世帯の動向-2023年で40万世帯、10年で2倍へ増加、子育て世帯が6割 -
2024年04月19日
消費者物価(全国24年3月)-コアCPIは24年度半ばまで2%台後半の伸びが続く見通し -
2024年04月19日
ふるさと納税のデフォルト使途-ふるさと納税の使途は誰が選択しているのか?
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【コンプライ・オア・エクスプレイン開示のコンプライアンス】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
コンプライ・オア・エクスプレイン開示のコンプライアンスのレポート Topへ