2018年09月25日

ドイツの生命保険会社の状況(3)-BaFinの2017年Annual Reportより(資本規制を巡る状況への対応及び2017年の生命保険会社の状況)-

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1―はじめに

前回のレポートでは、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)の2017年のAnnual Reportの「統合監督(Integrated supervision)」の章に記載されている項目の中から、「1.英国のEU離脱(Brexit)」、「8.国際監督(International supervision)」、「9.リスクモデリング(Risk modelling)」及び「10.会計(Accounting)」、「11.環境及び気候リスク(Environmental and climate risks)」の5つの項目を抜粋して、生命保険監督が関係してくる内容を報告した。

今回のレポートでは、国際的な資本規制の構築等やソルベンシーIIのレビューを巡る動きへの対応、ソルベンシーIIによるSCR比率等の結果数値の概要及び2017年の生命保険会社の事業結果の状況等について報告する。
 

2―国際的な資本規制の構築等への対応

2―国際的な資本規制の構築等への対応

1|ICS(保険資本基準)について
現在、保険監督者国際機構(IAIS)が取り組んでいる保険グループのための最初のグローバルでリスクセンシティブなソルベンシー制度の開発について、「BaFinにとっての重要な懸念事項は、モニタリング段階で全ての会社が適用する必要がある標準化された方法に加えて、ICSを計算する目的で内部モデルも同等の基準として認められることである。」として、内部モデルをICSに組み込むことのサポートを表明している。

モニタリング期間中、内部モデルは補足的にのみ使用されることが意図されている。モニタリング段階の完了によって、標準化された方法の代替案としての使用を見直す予定となっている。IAISは現在、内部モデルの適用基準を定義する作業を行っており、このプロセスは、2018年の次回のフィールドテストで完了する予定である、としている。

また、問題の1つは、負債を割り引く目的で利回り曲線を決定するために使用される方法論に関係しており、同時に、リスクフリーの利回り曲線を計算する包括的な方法について合意が必要となる、としている。

なお、BaFinの2017年のAnnual Reportは、ドイツ語版が5月3日に、英語版が7月30日に公表されており、BaFinは当時の状況に基づいて記述している。

IAISは、7月31日に、ICS Version 2.0を含むComFrame全体に関する公開協議文書をリリースしている。この文書の内容のうち保険負債評価に使用する割引率については、基礎研レポート「 IAISがICS(保険資本基準)Version2.0のための公開協議文書を公表-新たな保険負債評価の割引率アプローチ等を提案-」(2018.8.14)で報告している。

BaFinもこの内容について、9月5日にリリースされたトピック文書「Global capital standard: Insights on the International Capital Standard for internationally active insurance groups」1の中で、概要を説明している。

1.1.1グローバル資本基準
保険監督者国際機構(IAIS)は、保険グループのための最初のグローバルでリスクセンシティブなソルベンシー制度の開発に何年も取り組んできた。BaFinはプロジェクトで協力しており、欧州ソルベンシーIIフレームワークとの互換性を達成するために懸命に取り組んでいる。

2017年の夏、IAISは、拡張フィールドテストのための保険資本基準の最初のVersionであるICS 1.0を発行した。この国際資本基準は、国際業務を有する全ての大規模保険グループ(国際的に活動する保険グループ - IAIGs)に適用されることを意図している。フィールドテストは、割引や自己資本の基準など、ICSの様々な要素の様々なオプションを試すことを目的としている。テストの結果は、ICSのVersion1.0からVersion2.0への進行中の開発に盛り込まれ、オプションは含まれなくなる。

次のステップでは、2017年5月に開始されたフィールドテストの結果をIAISが分析し始め、ドイツ企業が参加した。BaFinも関与した集中的な議論の後、IAISは、2020年からICS 2.0を開発フェーズから実施フェーズに移行するプロセスがどのように機能するのかを11月に発表した。

次のステップ
2020年以降、最初の5年間のモニタリング期間中、市場調整後の評価のみを用いてICS 2.0が報告されることを意図している。その後利用可能となる結果は、IAIGsのソルベンシーを評価するために使用されるさらなる情報を提供するが、モニタリング期間中に監督措置を開始するための基礎としては使用されない。このようにして得られたデータは、監督カレッジにおける比較可能性の向上にも寄与する。モニタリング段階の完了後、ICS 2.0は、IAISとそのメンバーの希望にしたがって、世界中の規定資本要件(PCR)として導入される予定である。

BaFinは内部モデルのサポートを表明する
BaFinにとって重要な懸念事項は、モニタリング段階で全ての会社が適用する必要がある標準化された方法に加えて、ICSを計算する目的で内部モデルも同等の基準として認められることである。モニタリング期間中、内部モデルは補足的にのみ使用されることを意図している。モニタリング段階の完了によって、標準化された方法の代替案としての使用を見直す予定である。IAISは現在、内部モデルの適用基準を定義する作業を行っている。このプロセスは、2018年の次回のフィールドテストで完了する予定である。IAISの他のメンバーは、調整後の会計基準(GAAP +)に基づく方法を好んでおり、5年後にレビューを満たす必要がある。合意された計画はまた、異なるコンセプトを遅滞なくまとめ、詳細に定義し、フィールドテストのオプションを減らすことを想定している。

問題の1つは、負債を割り引く目的で利回り曲線を決定するために使用される方法論に関係している。同時に、リスクフリーの利回り曲線を計算する包括的な方法について合意が必要となる。IAISメンバーはまた、ソルベンシー比率を決定するために、適格自己資本を異なる階層に配分する基準に合意しなければならない。その他の未解決点は、資本要件の個々の要素の計算とリスクマージンの計算である。

2|G-SIIs(グローバルにシステム上重要な保険会社)及びABA(活動に基づくアプローチ)
G-SIIsの選定に関して、保険業界におけるシステミックリスクを評価するアプローチについては、「BaFinの見解では、直接的と間接的なシステミックリスクの区別は非常に重要であり、両方をハイブリッドアプローチで組み合わせることができる。BaFinがサポートするこの種のハイブリッド手法は、両方の視点を統合し、したがって、包括的なモニタリングアプローチにつながり、それゆえまたシステミックリスクの低下につながる。」としている。

また、「G-SIIsの以前の識別の目的で、データ照会に約50の会社が含まれていたが、BaFinの意見では、このグループはABAのために拡張される必要がある。そうすることによってのみ、特定の活動の可能性のある否定的な影響を評価することが可能となる。」としている。さらには、「BaFinは、ソルベンシーIIに組み込まれた比例原則もABAの目的のために守られるべきであると確信している。」と述べている。

1.1.2 G-SIIの指定及びABA
金融安定理事会(FSB)は、2017年にグローバルにシステム上重要な保険会社(G-SIIs)を指定していない。しかしながら、G-SIIsに対する監督措置は、2016年に指定された9つの保険グループに対して有効なままである。FSBは、会社の異なる活動に基づくアプローチ(活動ベースのアプローチ - ABA)に向けた作業の進展を考慮して、指定に関する新たな議論が2018年に計画されることを強調した。

直接的及び間接的なシステミックリスク
保険業界におけるシステミックリスクを評価する目的のABAは、現在、会社に焦点を当てたアプローチの補完として開発されている。BaFinはABAの開発に関与している。会社ベースのアプローチにおいては、会社の(管理されていない)破綻が金融システムに直接的な悪影響を及ぼしかねない(ドミノ効果)かどうかという点で中心的な疑問がある。ABAは異なる観点からシステミックリスクにアプローチする。この場合、重大な問題は、多くの行為者によって集団的に取り組まれる特定の活動が金融市場にマイナスの影響を与える可能性(津波効果)があるかどうかである。BaFinの見解では、直接的と間接的なシステミックリスクの区別は非常に重要であり、両方をハイブリッドアプローチで組み合わせることができる。BaFinがサポートするこの種のハイブリッド手法は、両方の視点を統合し、したがって、包括的なモニタリングアプローチにつながり、それゆえまたシステミックリスクの低下につながる。

IAISは2017年にABAの作業を強化し、12月に最初のコンサルテーションペーパーを発表した。このペーパーでは、IAISはABAの潜在的枠組みと可能な範囲を定めている。この枠組みは、システミックリスクに関する現在までのIAISの作業に基づいている。IAISは、2018年に行われる潜在的なシステミックリスクをもたらす活動を特定することに加えて、利用可能な監督ツールを、これらの活動の特定されたリスクと照合するつもりである。このプロセスがIAISツールボックスのギャップを明らかにする場合、それらのギャップは埋められる予定である。

対象となる会社グループ
G-SIIsの以前の識別の目的で、データ照会に約50の会社が含まれていたが、BaFinの意見では、このグループはABAのために拡張される必要がある。そうすることによってのみ、特定の活動の可能性のある否定的な影響を評価することが可能となる。BaFinは、ソルベンシーIIに組み込まれた比例原則もABAの目的のために守られるべきであると確信している。これは、ミクロ経済的リスクとマクロ経済的リスクの両方に適用された。

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中村 亮一

研究・専門分野

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