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2018年09月12日
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1――広がりつつある「SDGs(エスディージーズ)」への取り組み

政府がこのように強いコミットメントを示したことで、企業側のSDGsへの取り組みも進みつつある。2017年11月には、経団連がSDGsを踏まえて「企業行動憲章」を改定し、イノベーションを通じて持続可能な経済成長と社会課題の解決を目指す旨を掲げた1。経営計画の中にSDGsへの姿勢、取り組みを盛り込む企業や、IR資料である統合報告書の中で自社の考え方や方針、取り組みについてディスクローズする企業も増えている。例えば、日立製作所では、SDGs17目標の中から、事業戦略を通じて達成に大きく貢献できる目標を5つ、また企業活動全体で貢献すべき目標として6つの目標を特定し、それ以外の残りの目標への貢献についてもさらに検討していくとしている。そして、こうした方針や取り組み内容を、「日立SDGsレポート-2030年に向けた日立のサステナビリティへの取り組み-」2としてとりまとめ、ディスクローズしている。

1 経団連ウェブサイトよりhttp://www.keidanren.or.jp/announce/2017/1108.html
2 日立製作所ウェブサイトよりhttp://www.hitachi.co.jp/csr/sdgs/pdf/HitachiSDGsReport_j.pdf
2――Society5.0を通じてSDGsを達成する
日本でも広がりつつあるSDGsであるが、その取り組みの上で政府が柱としているのがSociety5.0だ。Society5.0は、狩猟社会(1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)に続く新しい社会のモデルであり、AIやIoT、ビッグデータ等の先端技術を活用した、経済発展と少子高齢化等の社会課題解決を両立するものとして提唱されたコンセプトだ。2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」において提唱されて以降、今やその実現に向けた取り組みが政府の成長戦略の中核に位置付けられている。

Society5.0が提唱されてから2年超が経ち戦略の柱となったものの、近頃はメディアでその言葉を聞く機会も減ってきた。AI、自動運転、IoT等、Society5.0の主要キーワードは毎日のように目や耳にしても、目指すべき社会の姿であるSociety5.0というコンセプトそのものや、その実現を通じてSDGsを達成するというビジョンについては、国民への浸透度はもう一歩というところではないだろうか。
SDGsは、貧困や環境問題等地球規模の課題解決を目指す目標であり、政府や企業、国民に対して行動を促すものである。そう聞くと、慈善活動のようなイメージが先行しがちであるが、SDGsは「持続可能な」開発目標であって、日本の経済成長や企業の事業拡大と相容れないわけではない。国も企業も、成長と社会課題の解決の両立という視点が求められている。SDGsを通じて大きな市場が生まれるとの見方もあり、その新しい市場を狙う国、グローバル企業間の新しい競争という一面もある。今後、環境やフェアトレード等、SDGsに関連付けた様々なルールや国際標準が議論される可能性もあるが、極端な話、SDGsという「考え方」、「ルール」に適合できない一部の新興国や企業が、市場やサプライチェーンから排除されることも起こりうる。「新しい市場」、そして「ルール」をめぐるしたたかなグローバル競争という側面もしっかりと認識しておく必要があろう。
日本は、SDGsとSociety5.0という2つのコンセプトを結び付けた日本ならではのモデルを作り上げ、経済成長と社会課題の解決の両立、そしてグローバル競争に挑むことになる。米国の大手ITプラットフォーマーが躍進し、中国も国家戦略として先端IT・ハイテク技術の強化を図る中、Society5.0の主戦場であるデジタル領域で日本は押され気味である。SDGsに関しても、目標への取り組みや貢献をアピールするだけの「形式的な」対応に留まると、勝機を逃してしまう。SDGsとデジタル革命の世界的潮流に埋没することなく、日本ならではの社会モデルを打ち出し、社会課題解決への貢献に加えて、新しい市場の獲得や経済的な成長も実現することに期待したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年09月12日「基礎研レター」)
中村 洋介
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