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- ここに注目!ドル円相場~円とドルのパワーバランスの行方
2018年09月07日
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1.トピック:ここに注目!ドル円相場
5月以降、ドル円レートは110円付近で方向感のない推移を続けている。この間、貿易摩擦の悪化やトルコをはじめとする新興国からの資金流出などで市場がリスク回避的になる場面が多く、従来であればリスク回避の円高がもっと進んでもおかしくなかった。しかしながら、今回は米国経済に対する市場の楽観を背景として、リスク回避局面において円もドルも同様に買われる傾向が強く、(実効レートでは)円高ドル高の様相が続いてきた(表紙図表参照)。円もドルも他通貨に対して同等に買われる状況では、ドル円は動意に乏しくなる。
いわば均衡状態が続いてきた円とドルのパワーバランスが今後どうなるのか?年内の主な注目材料を点検する。
いわば均衡状態が続いてきた円とドルのパワーバランスが今後どうなるのか?年内の主な注目材料を点検する。
(海外発の材料)
(1) FRBの利上げ
まず注目されるのは、米国の利上げだ。9月下旬に開かれるFOMCでの追加利上げはほぼ確実であるため、その後の利上げペースがポイントになる。12月以降の利上げはまだ市場で完全には織り込まれていないため、織り込みが進めば米金利上昇を通じてドル高に働く。
また、今後は利上げの打ち止め観測(時期とその際の金利水準)も影響度を増していくだろう。6月FOMC時のFRBメンバーによる政策金利見通しでは、2020年にかけて利上げが続く見通しとなっているが、来年中にも中立金利(景気を冷やさず加速させもしない金利水準)と見なされる長期予想(2.875%)に到達する見通しだ。それ以上の利上げは景気に抑制的な水準となるため、今後FRBでは「どこまで利上げを行うか」について議論や情報発信が活発化するとみられる。「利上げの打ち止めはそう遠くない」との見方が広がれば、ドル高の抑制材料となる。
目先は9月下旬のFOMC後に公表されるFRBメンバーの政策金利見通しにおいて、新たに公表される2021年分も含めてどのようなパスが示されるかがポイントになる。
(1) FRBの利上げ
まず注目されるのは、米国の利上げだ。9月下旬に開かれるFOMCでの追加利上げはほぼ確実であるため、その後の利上げペースがポイントになる。12月以降の利上げはまだ市場で完全には織り込まれていないため、織り込みが進めば米金利上昇を通じてドル高に働く。
また、今後は利上げの打ち止め観測(時期とその際の金利水準)も影響度を増していくだろう。6月FOMC時のFRBメンバーによる政策金利見通しでは、2020年にかけて利上げが続く見通しとなっているが、来年中にも中立金利(景気を冷やさず加速させもしない金利水準)と見なされる長期予想(2.875%)に到達する見通しだ。それ以上の利上げは景気に抑制的な水準となるため、今後FRBでは「どこまで利上げを行うか」について議論や情報発信が活発化するとみられる。「利上げの打ち止めはそう遠くない」との見方が広がれば、ドル高の抑制材料となる。
目先は9月下旬のFOMC後に公表されるFRBメンバーの政策金利見通しにおいて、新たに公表される2021年分も含めてどのようなパスが示されるかがポイントになる。
(2) 新興国からの資金流出
また、米国の利上げと関連して、新興国からの資金流出も注目される。
また、米国の利上げと関連して、新興国からの資金流出も注目される。
(3) 米政権発の貿易摩擦
さらに、米政権発の貿易摩擦も引き続き大きな材料になる。この材料が最も不確実性が高い。米国とEU、メキシコとの間の摩擦は交渉の進展により一服したが、中国との間には事態の改善が見られない。米中間には多額の貿易赤字やハイテクを巡る覇権争いがあるだけに、米政権の強硬姿勢は続きそうだ。2000億ドル分の対中制裁関税も発動される可能性が大きく高まっている。既に発動された500億ドル分の制裁関税のように、複数回に分割しての段階的な発動方針を示すことで、中国に対する継続的な交渉材料にする可能性がある。この場合、市場でのあく抜け感は出にくく、たびたびリスク回避地合いになりそうだ。
ここ数ヵ月の間、貿易摩擦や新興国からの資金流出といったリスク回避局面において、ドルが円と同等に買われてきた背景には、米国経済の先行きに対する市場の楽観がある。ただし、制裁関税は米製品に対する報復関税を招くほか、輸入物価押し上げを通じて米国経済にとっても重荷となる。今後もさらに大規模な制裁関税を発動していくことになれば、米国経済に対する楽観が後退するだろう。その結果、リスク回避局面では、従来のようにドルよりも円が買われ、円高ドル安に振れやすくなると考えられる。
また、今後は貿易問題を巡って日米間の緊張が高まることも想定される。既に昨日、トランプ大統領が、日本に対して今後、貿易赤字削減を強く求める姿勢を示したとの報道が伝えられている。EUとの交渉が一段落したうえ、NAFTAの交渉も佳境に入っており、今後はいよいよ日本に矛先が向かうだろう。中間選挙を控えて成果を急ぐ米政権は、日本に対して二国間FTAを通じての農産物輸入拡大や自動車の輸出抑制を求めてくる可能性が高い。安倍政権としても、来年の参議院選挙を控えて安易に妥協は出来ないだけに、両国間の軋轢が表面化する事態が想定される。その場合は、日本株下落に伴うリスク回避の円買いが発生するだろう。
米政権は韓国やメキシコとの交渉において、通貨安誘導抑止のための為替条項を盛り込んだ。日米交渉においても、米国が為替条項の導入を主張してくれば、日銀金融緩和が後退するとの思惑を通じて円高圧力が高まることになる。トランプ大統領によるドル高牽制や円安誘導批判にも警戒が必要になる。
目先は、月内に開催される予定の第二回FFR(日米新貿易協議)の行方が注目される。
さらに、米政権発の貿易摩擦も引き続き大きな材料になる。この材料が最も不確実性が高い。米国とEU、メキシコとの間の摩擦は交渉の進展により一服したが、中国との間には事態の改善が見られない。米中間には多額の貿易赤字やハイテクを巡る覇権争いがあるだけに、米政権の強硬姿勢は続きそうだ。2000億ドル分の対中制裁関税も発動される可能性が大きく高まっている。既に発動された500億ドル分の制裁関税のように、複数回に分割しての段階的な発動方針を示すことで、中国に対する継続的な交渉材料にする可能性がある。この場合、市場でのあく抜け感は出にくく、たびたびリスク回避地合いになりそうだ。
ここ数ヵ月の間、貿易摩擦や新興国からの資金流出といったリスク回避局面において、ドルが円と同等に買われてきた背景には、米国経済の先行きに対する市場の楽観がある。ただし、制裁関税は米製品に対する報復関税を招くほか、輸入物価押し上げを通じて米国経済にとっても重荷となる。今後もさらに大規模な制裁関税を発動していくことになれば、米国経済に対する楽観が後退するだろう。その結果、リスク回避局面では、従来のようにドルよりも円が買われ、円高ドル安に振れやすくなると考えられる。
また、今後は貿易問題を巡って日米間の緊張が高まることも想定される。既に昨日、トランプ大統領が、日本に対して今後、貿易赤字削減を強く求める姿勢を示したとの報道が伝えられている。EUとの交渉が一段落したうえ、NAFTAの交渉も佳境に入っており、今後はいよいよ日本に矛先が向かうだろう。中間選挙を控えて成果を急ぐ米政権は、日本に対して二国間FTAを通じての農産物輸入拡大や自動車の輸出抑制を求めてくる可能性が高い。安倍政権としても、来年の参議院選挙を控えて安易に妥協は出来ないだけに、両国間の軋轢が表面化する事態が想定される。その場合は、日本株下落に伴うリスク回避の円買いが発生するだろう。
米政権は韓国やメキシコとの交渉において、通貨安誘導抑止のための為替条項を盛り込んだ。日米交渉においても、米国が為替条項の導入を主張してくれば、日銀金融緩和が後退するとの思惑を通じて円高圧力が高まることになる。トランプ大統領によるドル高牽制や円安誘導批判にも警戒が必要になる。
目先は、月内に開催される予定の第二回FFR(日米新貿易協議)の行方が注目される。
(4) 米中間選挙
少し先では、11月6日に実施される米中間選挙も注目材料になる。現段階では、上院は共和党優勢、下院は民主党優勢との見方が多いが、仮にこの通りとなった場合にはドルが売られる可能性が高い。議会でねじれが発生することでトランプ政権の政策遂行能力が著しく低下するためだ。
また、議会の協力を得られなくなったトランプ大統領が、2020年の大統領選に向けて大統領権限の強い通商・外交領域において、強硬姿勢を強める恐れもある。
少し先では、11月6日に実施される米中間選挙も注目材料になる。現段階では、上院は共和党優勢、下院は民主党優勢との見方が多いが、仮にこの通りとなった場合にはドルが売られる可能性が高い。議会でねじれが発生することでトランプ政権の政策遂行能力が著しく低下するためだ。
また、議会の協力を得られなくなったトランプ大統領が、2020年の大統領選に向けて大統領権限の強い通商・外交領域において、強硬姿勢を強める恐れもある。
(国内発の材料)
このように注目材料が目白押しの海外に比べて国内の注目材料は少なめだ。日銀は7月末に政策の修正を行ったばかりであり、政策スタンスの変更は当面見込まれない。7月に弾力化が決定された国債やETFの買入れ動向を巡って市場の思惑が揺れ動き、ドル円に影響する場面は今後も想定されるが、急激な変更は考えづらいため、影響は限定的なものに留まりそうだ。
このように注目材料が目白押しの海外に比べて国内の注目材料は少なめだ。日銀は7月末に政策の修正を行ったばかりであり、政策スタンスの変更は当面見込まれない。7月に弾力化が決定された国債やETFの買入れ動向を巡って市場の思惑が揺れ動き、ドル円に影響する場面は今後も想定されるが、急激な変更は考えづらいため、影響は限定的なものに留まりそうだ。

そうした中で注目されるのは、自民党総裁選挙だ。本日告示され、安倍首相と石破元幹事長が立候補を届け出た。20日に投開票が行われる。
議員票の大半を固めたと見られている安倍首相の3選が有力視されるが、安倍首相が勝利するか?勝利する場合には大勝となるか?という点がポイントになる。
安倍首相が大勝した場合は、党内の求心力が維持され、大規模緩和路線も維持されるとみられるため、円安材料になるだろう。新たな総裁任期は2021年9月となるが、その間に4人の日銀審議委員が任期を迎えることから、首相が人事を通じて日銀の方針を左右することが出来る。
ただし、日銀がさらなる緩和に踏み切る可能性は殆どないほか、緩和の長期継続は織り込み済みであるため、円安のインパクトや賞味期限は限定的になるだろう。
(メインシナリオとリスクバランス)
以上、ドル円相場を巡る材料には様々なものがあり、それぞれの展開次第で円とドルのパワーバランスは変化することになる。
筆者のメインシナリオとしては、今後は円安ドル高方向と見ている。米国の継続的な利上げ観測と日本企業による活発な対外投資が円安ドル高圧力となる。
ただし、大幅な円安の進行は想定しづらい。今後も新興国の資金流出や貿易摩擦の激化が予想され、たびたびリスク回避に伴う円高圧力が対ドルでも発生しそうだ。また、FRBは来年中にも利上げを停止すると予想されるため、年終盤には徐々に利上げの打ち止めが意識されやすくなり、ドル高の抑制に働くと見ている。年末にかけての予想基本レンジは109円~114円。年末時点のドル円レートは1ドル112円程度と予想している。
以上がメインシナリオとなるが、上下のリスクバランスを考えると下振れ(円高方向)リスクの方が高い。米政権が2000億ドル分に留まらず、全ての中国製品に制裁関税をかける方針を示したり、貿易摩擦の悪影響が米中などで想定以上に顕在化したりすれば、109円を下回る大幅な円高の進行も起こり得る。
以上、ドル円相場を巡る材料には様々なものがあり、それぞれの展開次第で円とドルのパワーバランスは変化することになる。
筆者のメインシナリオとしては、今後は円安ドル高方向と見ている。米国の継続的な利上げ観測と日本企業による活発な対外投資が円安ドル高圧力となる。
ただし、大幅な円安の進行は想定しづらい。今後も新興国の資金流出や貿易摩擦の激化が予想され、たびたびリスク回避に伴う円高圧力が対ドルでも発生しそうだ。また、FRBは来年中にも利上げを停止すると予想されるため、年終盤には徐々に利上げの打ち止めが意識されやすくなり、ドル高の抑制に働くと見ている。年末にかけての予想基本レンジは109円~114円。年末時点のドル円レートは1ドル112円程度と予想している。
以上がメインシナリオとなるが、上下のリスクバランスを考えると下振れ(円高方向)リスクの方が高い。米政権が2000億ドル分に留まらず、全ての中国製品に制裁関税をかける方針を示したり、貿易摩擦の悪影響が米中などで想定以上に顕在化したりすれば、109円を下回る大幅な円高の進行も起こり得る。
(2018年09月07日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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