2018年08月22日

底堅さを見せるドル円、問われる米経済の耐久力~マーケット・カルテ9月号

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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為替・金利3ヶ月後の見通し 8月に入り、ドル円はやや円高ドル安に振れている。米中貿易摩擦やトルコ情勢の緊迫化によってリスク回避的な円買いが優勢となったほか、トランプ大統領による利上げへの不満表明によるドル売りが発生したことなどが背景にある。ただし、多くの円高要因があった割に、足元でも1ドル110円台前半とさほど円高は進んでいない。貿易摩擦やトルコ情勢緊迫化では、悪影響が危惧される人民元や新興国通貨などに対して(経済が好調な)ドルが買われ、リスク回避の円高圧力が対ドルでは緩和されたためだ。

今後も米経済は堅調に推移するとみられ、利上げ継続方針を追い風にドル高圧力は続く可能性が高い。今後も貿易摩擦懸念や新興国市場の動揺などから円買いが進む場面が想定されるが、同時にドルも買われることで円高の勢いは限定的になりそうだ。3ヵ月後は112円程度と予想する。ただし、貿易摩擦は米経済にも重荷となる点には注意が必要だ。経済指標の悪化などから米経済の耐久力への疑念が発生すれば、ドル買いの根拠が崩れ、110円を大きく割り込むリスクもある。

ユーロは、トルコ情勢緊迫化の影響が欧州銀行に波及するとの見方で売られ、足元のユーロ円は127円台後半に沈んでいる。ただし、欧州銀行のトルコ債権は限定的な規模であり、ユーロの急落は過剰反応と見られる。また、ECBの量的緩和が年内に終了に向かうことは域内金利の先高感を通じてユーロ高要因になる。一方で、イタリアの財政や英国のEU離脱に対する懸念がユーロの上値を抑えると見込まれるため、3ヵ月後の水準は129円台と予想している。

長期金利は、7月末の日銀による変動幅拡大表明を受けて一旦上昇したが、その後は日銀による臨時オペやリスク回避的な国債需要もあり、0.1%前後での膠着が続いている。今後、日銀はタイミングを見計らいつつ国債買入れを減額し、0.2%近くまで金利上昇を許容していくと予想される。現水準に留まるのであれば変動幅拡大にならず、目的とする国債市場の機能回復にも殆ど寄与しないためだ。
 
(執筆時点:2018/8/22)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2018年08月22日「基礎研マンスリー」)

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