2018年09月07日

ここに注目!ドル円相場~円とドルのパワーバランスの行方

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. 5月以降、ドル円レートは110円付近で方向感のない推移を続けている。年内の主な注目材料を確認すると、海外発の材料では、FRBの利上げ、新興国からの資金流出、貿易摩擦、米中間選挙、国内発の材料では、自民党総裁選挙と企業の対外投資が挙げられる。
     
  2. なかでも最も不確実性が高いのが貿易摩擦だ。米中間には多額の貿易赤字や覇権争いがあるだけに、米政権の強硬姿勢は続きそうだ。2000億ドル分の対中関税も発動される可能性が高まっており、市場はたびたびリスク回避地合いになりそうだ。最近、リスク回避局面においてドルが円と同等に買われてきた背景には、米経済に対する市場の楽観があるが、貿易摩擦は米経済にとっても重荷となる。今後も激化していくことになれば、楽観が後退し、リスク回避局面でドルよりも円が買われやすくなると考えられる。
     
  3. また、今後は貿易問題を巡る日米間の緊張の高まりも予想される。今後はいよいよ日本に米政権の矛先が向かうことで、両国間の軋轢が表面化する事態が想定される。その場合、リスク回避の円買いが発生するだろう。また、米国が為替条項の導入を主張してくれば、日銀金融緩和が後退するとの思惑を通じて円高圧力が発生することになる。
     
  4. これらの材料の展開次第で円とドルのパワーバランスは変化することになるが、メインシナリオとしては、今後はやや円安ドル高方向と見ている。米利上げ観測と日本企業による活発な対外投資が円安ドル高圧力となる。ただし、大幅な円安は想定しづらい。今後も新興国の資金流出や貿易摩擦の激化が予想され、たびたびリスク回避に伴う円高圧力が対ドルでも発生するためだ。年末時点で1ドル112円程度と予想している。
     
  5. ただし、リスクバランスを考えると、円高リスクの方が高い。米政権が2000億ドル分に留まらず、全ての中国製品に制裁関税をかける方針を示したり、貿易摩擦の悪影響が想定以上に顕在化したりすれば、109円を下回る大幅な円高の進行も起こり得る。
円とドルの名目実効レート
■目次

1.トピック:ここに注目!ドル円相場
  ・海外発の材料
  ・国内発の材料
  ・メインシナリオとリスクバランス
2.日銀金融政策(8月):債券市場の機能度改善は限定的
  ・(日銀)現状維持(開催なし)
3.金融市場(8月)の振り返りと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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