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- 最近の人民元と今後の展開(2018年9月号)
2018年09月04日
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- 8月の人民元レート(対米ドル、スポット・オファー、中国外貨取引センター)は前月末比ほぼ横ばいの1米ドル=6.8320元で取引を終えた。なお、日本円に対する人民元は100日本円=6.16215元(1元=16.23円)と前月末比1.1%の元安・円高で取引を終えた。
- 18年末に向けての人民元レートは波乱含みだ。米国がこのまま対中強硬姿勢を崩さなければ、中国経済にはもう一段の下押し圧力が掛かり人民元は下落する可能性が高い一方、米国が貿易摩擦解消に向けた道筋を探り始めれば、人民元切り上げが「落としどころ」として浮上してくる可能性もあるからだ(想定レンジは1米ドル=6.3~6.9元、1元=16.0~17.5円)。
1――8月の人民元の動き
8月の人民元レート(対米ドル、スポット・オファー、中国外貨取引センター)は前月末比ほぼ横ばいの1米ドル=6.8320元で取引を終えた。人民元レートの動きを振り返ると、15年8月の人民元ショックが資金流出を招き人民元は下落基調となったが、17年5月に中国が人民元の基準値設定方法を変更したこと、欧州経済の復調を背景にユーロドルが上昇したこと、米中貿易摩擦を背景に元高圧力が高まるとの思惑などから、18年春には人民元ショック前の同6.2元を窺う動きとなった。しかし、その後は欧州経済の減速を背景にユーロドルが下落に転じたこと、米国の関税引き上げを緩和するため中国は元安を許容するとの思惑が浮上したことなどから人民元は下落に転じた。そして、この8月には中国が再び基準値設定方法を厳しくするなど元安阻止に動いたことから下げ止まることとなった(図表-1)。なお、8月は日本円が対米ドルでやや上昇したため、日本円に対する人民元は100日本円=6.16215元(1元=16.23円)と前月末比1.1%の元安・円高で取引を終えた(図表-2)。
2――今後の展開
さて、18年末に向けての人民元レートは波乱含みである。米国がこのまま対中強硬姿勢を崩さなければ、中国経済にはもう一段の下押し圧力が掛かり人民元は下落する可能性が高い一方、米国が貿易摩擦解消に向けた道筋を探り始めれば、人民元切り上げが「落としどころ」として浮上してくる可能性もあるからだ(想定レンジは1米ドル=6.3~6.9元、1元=16.0~17.5円)。
ここもとの米中経済環境を概観すると、米国では景気が好調で米中貿易摩擦を懸念した株価下落も小幅に留まっている。他方、中国では内需に陰りが見られ株価も軟調だが、今のところ想定範囲内の緩やかな減速に留まっている。しかし、米中貿易摩擦がさらに深刻化すると米中経済が共倒れになる恐れがある。米国が中国からの輸入品に高関税をかければ、米国での中国製品の競争力は低下、米国への輸出が減少して中国企業の抱える過剰生産設備問題は深刻化し、中国経済には大きな打撃となる。一方、中国が対抗して米国からの輸入品に高関税をかければ、中国における米国製品の競争力は低下、中国への輸出は減少して米国の農業生産者などが顧客を失うとともに、米国では中国からの輸入品が値上がりし家計や製造コストを圧迫するため米国経済にも大きな打撃となる。
但し、トランプ米政権としては振り上げた拳を下ろす訳にはいかない。一方、中国としても対外開放や関税引き下げなど譲歩できる面では譲歩しており、国策として打ち出した「中国製造2025」に関する施策を取り下げることはできない。そして、中国は景気下支えに動き始めた。昨年12月と3月の米利上げに際して中国は、追随してリバースレポ(7日物)を引き上げたが、6月の米利上げでは見送った。また、預金準備率を2回に渡って引き下げるなど金融政策を緩和方向に調整し始めた(図表-3)。従って、当面の人民元レートは軟調地合いとなりそうである。
しかし、米国が貿易摩擦解消に向けた道筋を探り始めると、人民元切り上げが「落としどころ」として浮上してくる可能性がある。米国サイドから見れば中国に人民元切り上げを認めさせることで選挙民にアピールできる。一方、中国サイドから見ると元高は輸出にこそ不利に働くものの、ここもとの中国の景気回復は世界経済の好調と輸出に依存し過ぎたとの負い目がある上、購買力平価との関係で見て大幅に割安な現状を踏まえればある程度のレート調整はやむを得ない面もある(図表-4)。また、人民元高は輸入物価を押し下げるため、製造コストの低減や消費者物価の抑制というメリットもある。従って、人民元は政治的な駆け引きで動く側面もあるため、米中間で「現代版プラザ合意」のようなことが起きて、中国が人民元を切り上げる可能性は十分にあると見ている。
ここもとの米中経済環境を概観すると、米国では景気が好調で米中貿易摩擦を懸念した株価下落も小幅に留まっている。他方、中国では内需に陰りが見られ株価も軟調だが、今のところ想定範囲内の緩やかな減速に留まっている。しかし、米中貿易摩擦がさらに深刻化すると米中経済が共倒れになる恐れがある。米国が中国からの輸入品に高関税をかければ、米国での中国製品の競争力は低下、米国への輸出が減少して中国企業の抱える過剰生産設備問題は深刻化し、中国経済には大きな打撃となる。一方、中国が対抗して米国からの輸入品に高関税をかければ、中国における米国製品の競争力は低下、中国への輸出は減少して米国の農業生産者などが顧客を失うとともに、米国では中国からの輸入品が値上がりし家計や製造コストを圧迫するため米国経済にも大きな打撃となる。
但し、トランプ米政権としては振り上げた拳を下ろす訳にはいかない。一方、中国としても対外開放や関税引き下げなど譲歩できる面では譲歩しており、国策として打ち出した「中国製造2025」に関する施策を取り下げることはできない。そして、中国は景気下支えに動き始めた。昨年12月と3月の米利上げに際して中国は、追随してリバースレポ(7日物)を引き上げたが、6月の米利上げでは見送った。また、預金準備率を2回に渡って引き下げるなど金融政策を緩和方向に調整し始めた(図表-3)。従って、当面の人民元レートは軟調地合いとなりそうである。
しかし、米国が貿易摩擦解消に向けた道筋を探り始めると、人民元切り上げが「落としどころ」として浮上してくる可能性がある。米国サイドから見れば中国に人民元切り上げを認めさせることで選挙民にアピールできる。一方、中国サイドから見ると元高は輸出にこそ不利に働くものの、ここもとの中国の景気回復は世界経済の好調と輸出に依存し過ぎたとの負い目がある上、購買力平価との関係で見て大幅に割安な現状を踏まえればある程度のレート調整はやむを得ない面もある(図表-4)。また、人民元高は輸入物価を押し下げるため、製造コストの低減や消費者物価の抑制というメリットもある。従って、人民元は政治的な駆け引きで動く側面もあるため、米中間で「現代版プラザ合意」のようなことが起きて、中国が人民元を切り上げる可能性は十分にあると見ている。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年09月04日「経済・金融フラッシュ」)
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