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米中貿易摩擦と日本の役割-米国に代わるWTOの基本原則とその精神の主導者が必要!
基礎研REPORT(冊子版)6月号

三尾 幸吉郎
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また、米国が通商法301条に基づく追加関税を発表すると、中国は「米国のやり方はWTOの基本原則や精神に著しく違反しており、中国はWTOでの紛争解決手段に訴える」として追加関税を発表した。そして米国が追加関税1000億ドルの積み増し検討を米通商代表部(USTR)に指示したと発表すると、中国も対抗措置をとる構えを見せ“関税引き上げ合戦”の様相を呈してきた。
特に、WTOの基本原則(自由、無差別、多角的通商交渉)とその精神の主導者だった米国が「米国第一」を掲げそれを軽視しているように見えるとともに、中国がその枠組みの中で紛争を解決しようとしている点には驚かされる。
さらに米中貿易摩擦がエスカレートしていくと米中経済が共倒れになる恐れがある。米国が中国からの輸入品に高関税をかければ、米国での中国製品の競争力は低下、米国への輸出が減少して中国企業の抱える過剰生産設備問題は深刻化し、中国経済には大きな打撃となる。一方、中国が対抗して米国からの輸入品に高関税をかければ、中国における米国製品の競争力は低下、中国への輸出は減少して米国の農業生産者などが顧客を失うとともに、米国では中国からの輸入品(スマホや衣料品など)が値上がりし家計を圧迫するため、米国経済にも大きな打撃となる。
また、米中以外の諸国も大きな影響を受ける。米中が互いの輸入品に高関税をかけることになれば、漁夫の利を得る国もでてくるからだ。米国向け輸出では米アップル(それを受託製造する台湾企業)が中国にあるスマホの製造拠点をベトナムなどへ移転する可能性がある。また、中国向け輸出では、米国産の自動車が減少して日本産が増加したり、米国産の農産品が減少してブラジル産が増加したりする可能性もある。
ただし、米中貿易摩擦の行方を見通すには不確実性が高すぎて、漁夫の利だと思っていたら取らぬ狸の皮算用だったということも十分あり得る。米国が対話姿勢に転じると、その後は中国による米国製品の輸入拡大に焦点が移り、米国企業や中国企業が中国にある製造拠点を中国以外の新興国に移転する必要はなくなり、中国は米国産の自動車を増やして日本産を減らし、米国産の農産品を増やしてブラジル産を減らすことを検討、それまでと全く正反対の動きになりかねないからだ。
米中の関税引き上げ合戦が繰り広げられる中で、その一挙手一投足に右往左往するその他の諸国は、WTOの基本原則とその精神の主導者の復帰を待ち望んでいるようだ。第二次世界大戦前のブロック経済が輸出市場を囲い込み戦争への道を開いたとの認識の下、米国はその前身であるGATT(関税及び貿易に関する一般協定)の頃からWTOの基本原則とその精神の主導者だった。しかし、「米国第一」を掲げて登場したトランプ政権は、保護主義的な政策を打ち出すとともに、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱し米国に有利な二国間交渉を推進している。その他諸国が米国と二国間交渉に臨めば、米国の強い政治的圧力を背景に不利な交渉となるのは明白だ。そして、世界はWTOの基本原則とその精神の主導者を失いつつある。
一方、中国は前述のようにWTOの枠組みの中で紛争を解決しようとしてはいるものの、外資企業に技術移転を事実上要求したり、外資企業の活動を事実上制限して国内企業を優遇したり、また政治的に対立するとフィリピンが南シナ海の領有権問題で対立したときのように検疫の強化を名目に事実上バナナ輸出が止められたり、韓国とTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備問題で対立すれば中国本土からの韓国旅行を事実上制限したりする行動が目立つ。
したがって、中国が「形式的」にはWTOの枠組みの中でも、「事実上」は強い政治的圧力を背景にその精神に反した行動をとり続けるなら、WTOの基本原則とその精神の主導者とはなり得ないだろう。
以上のような世界情勢を考えると、米中以外の諸国には、米中の政治的圧力に負けないだけのパワーが必要であり、日本を初めとする諸国は団結してそのパワーを高めることが肝要と思われる。そして、米中に次ぐ経済規模を持つ日本はそのリーダーとしてその前面に立つべきだろう。
(2018年06月07日「基礎研マンスリー」)
三尾 幸吉郎
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