2018年09月03日

糖質制限と筋トレで、本当に健康的に痩せられるのか?―シンクタンク社長の体験レポート―

代表取締役社長 手島 恒明

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1―はじめに

最近、健康やダイエットがブームになり、「糖質制限食で痩せた」とか、有名俳優を使ったテレビCMで、「個別トレーニングジムに通って、みちがえるように痩せた」といった情報が、ちまたにあふれている。こうした事象は本当なのか、また健康面で問題はないかと疑問をお持ちの方も多くいらっしゃるのではないかと思う。かくいう私も、昨年度までの不健康な生活をしていたことが災いしてとても健康とは言えない体型になってしまったので、今年の4月より、なんとかしなくてはいけないという思いで、半信半疑ながら、思い切って、個別トレーニングジム「R」に入会して、自分で体験してみることにした。以下は、その4ヶ月の体験レポートである。
 
Rでは、ダイエット期間中は、糖質制限と、原則週2回の個別トレーニングジムにおける筋トレが求められる。2章以降では、その内容と考え方、そしてその結果についてご紹介したい。
 

2―糖質制限について

2―糖質制限について

糖質制限ダイエットのルーツは、アメリカ人医師のロバート・アトキンス博士が考案した炭水化物の摂取を制限する「アトキンスダイエット」にある。
 
まず糖質とは何か、糖質制限することの意義について説明する。
 
糖質とは、炭水化物、タンパク質、脂質の三大栄養素のうちの炭水化物の一部で、炭水化物は、糖質と食物繊維の二つからなる。糖質は、人にとって重要なエネルギー源のひとつになることはもちろん、脳や神経の活動を左右するエネルギー源になる。糖質というと、甘いものというイメージがあるが、糖質を含む食品には、甘い食品(EX.お菓子、果物)とそうでない食品(EX.ご飯、パン、小麦粉)の両方あることに注意する必要がある。

糖質をとると血糖値が上昇し、それを抑えるためにインスリンが分泌される。インスリンは分泌されると血液中のブドウ糖を筋肉に送ってグリコーゲンという形で蓄積する一方で、余ったブドウ糖を中性脂肪に変えて脂肪細胞に蓄積するため、内臓脂肪が増加することになる。これが太る原因になる。そのため、糖質を制限することで、インスリンの分泌を抑え、内臓脂肪を貯めこまないようにして、太りにくくするのが、いわゆる糖質制限ダイエットである1。それでは、糖質を制限するとエネルギー源がなくなってしまうのではないかと、心配になるが、実は、糖質を制限すると、人間の体は、体内のエネルギーをまかなうため、体脂肪を分解してエネルギー源とする。また、そのとき生じる遊離脂肪酸が多いと、肝臓に運ばれて、ケトン体が合成される。このケトン体も遊離脂肪酸同様に糖質の替わりにエネルギー源となる。そのため、1日50グラム以下に糖質を制限するレベルの糖質制限ダイエットは、ケトン体ダイエットとも言われている。

Rでは、ダイエット期間中の糖質を一日50グラムまでに制限するよう私の場合は指導された。また、糖質以外の食事については、バランスよく、特に、葉物野菜とタンパク質を多くとるように指導される。
 
一般的な食事をしていると日本人は、一日で糖質を200から300グラムくらいとっているといわれている。ご飯軽く一膳は、糖質約60グラムになるので、糖質を一日50グラムに抑えるためには、ご飯、パン、うどん、そば、パスタなどの主食はもちろんのこと、お菓子、果物などの甘いものもほとんど控えるようアドバイスを受ける。
 
なお、本当にこうした糖質制限をしてよいかについて心配だったので、事前にいろいろな文献、レポートをあたって調べてみた。
 
糖質制限については、賛否両論あり、200から300グラムの糖質をとっている日本人が諸外国の方に比べて、糖質を取りすぎているということは間違いないが、一方で、糖質制限を支持する人の中でも極端な長期に亘る糖質制限は、医学的に安全とはいいがたいので、注意が必要という意見が多い。そこで、私が、方針として採用したのは、「一日50グラム以下の糖質制限は短期間限定で行うのであれば許容される」というものだった。
 
(2018年3月の東北大学大学院の農学研究科の都築毅准教授らの研究によると、約1年に亘る糖質制限食についてのマウスを使った実験により、一般的な食事を与えたマウスの多くは、平均寿命より長生きしたが、糖質制限食では平均寿命まで生きられないという結果になり、しかも糖質制限の個体は見た目も一般食の個体に比べて、背骨の曲がりや脱毛がひどく、老化の進度が30%も高いという研究成果を学会発表している。ただし、これはインスリン遺伝子を2本も持ち合わせ、人と違って高脂肪食で食べ過ぎを起こすマウスなればこそのデータともいわれている。)
 
短期間とは、集中ダイエット期間の6ヶ月以内をめどとした。(2006年に報告されたNordmannのレポートによると、「低炭水化物ダイエットは6ヶ月までに有意な体重減少をもたらすが、1年で、低炭水化物制限を行った群団と、総エネルギーと脂質制限を行った群団では、両群に有意な差がなくなり、低炭水化物食では血中LDL(悪玉)コルステロールの増加をきたす」と指摘している。ただし、2012年に報告されたSantosらのレポートでは、「低炭水化物ダイエットは6ヶ月まででも、12ヶ月まででも、24ヶ月まででも体重、血圧、血糖、一部の脂質プロファイルの改善に有効である」としている。)一日の糖質摂取を50グラム以下に制限して、1年以上続けるなどの長期間に亘る糖質制限は、医学的にも安全性が確立されていないという意見が多く、明確な結論は出ていないが、自分を実験台に使うのは、止めたほうがいいと思う。
 
それでは糖質摂取の水準を、集中ダイエット期間後はどのあたりにすればいいかというと、日本糖尿病学会が2013年3月に発表した、「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言」が参考になりそうだ。このレポートによると、「糖尿病における三大栄養素の推奨摂取比率は、一般的には、炭水化物50~60%エネルギー(150グラム/日以上)、たんぱく質20%エネルギー以下を目安とし、残りを脂質とする」と提言されており、炭水化物摂取は一日150グラムがひとつの目安になりそうだ。(日本糖尿病学会の提言には、個人差や既往症によっては、炭水化物の摂取比率を増減させることを考慮しても良いとされており、あくまでも目安である。)
 
糖質制限については、糖質さえとらなければ何でもいくら食べても飲んでもいいといったやり方で行うことは問題があると思う。たとえば、タンパク質を補うために大量の脂っこいステーキを食べるとか、糖質のないウィスキーや焼酎はいくら飲んでもかまわないと思っている人もいる(実際そのように書いてある本もある)が、動物性の脂質を大量にとると、体重が落ちにくくなるし、血中LDLコレステロールが上がるリスクもある。また糖質制限時には、肝臓が働いてケトン体を作るためにかなり負荷がかかるため、アルコールを大量に飲むと、肝臓が疲弊してしまい、実際自分でも体調が悪くなるといった事象を体験した。したがって、ケトン体を作るためにある程度のタンパク質、脂質は必要だが、過剰な摂取は好ましくないと思う。何事もほどほどが大切だと思う。
 
1 最近のHarvard大学のグループから提唱された仮説では、糖質摂取後のインスリン分泌による血中エネルギー基質の欠乏が飢餓感から食べ過ぎを生むともされており、糖質制限ダイエットは自動的に(満腹感を得ながら)食べ過ぎを予防する方法とも考えられるようになった。
 

3―実際の食事内容について

3―実際の食事内容について

糖質制限といっても「実際に何を食べるのですか」と聞かれることが多いので、ここで紹介したい。Rでは、その方によって推奨量は異なるが、タンパク質を毎食できれば、30グラム以上とるようにすると言われる。これは後で述べる筋トレによる筋肉疲労を早く回復させ、筋肉量を増やすためである。しかしながら、普通の食事ではなかなかタンパク質をそこまでは取れないので、市販されている減量用のプロティン、具体的には、私は、明治の「ザバスソイプロティン100」を朝食と昼食の2回、一回約20グラムを水に溶かして飲んだ。
 
それから、エネルギー不足にならないように「中鎖脂肪酸」の多いココナッツオイルを勧められた。「中鎖脂肪酸」は、腸管から吸収された後、すぐに肝臓で処理され、すぐにエネルギー変換されるのが特徴である。私は、仙台勝山館のMCTオイルをこれも朝食と昼食に20ccずつ飲んだ。ココナッツオイルは味もなく、コーヒーなどに入れて飲む人もいるようだが、私はそのまま飲んでいた。なお、夕食時には、ココナッツオイルはとらないように言われる。これは、寝ている間に体脂肪を分解するのによくないと説明された。
 
食事については、野菜と肉、魚をバランスよく摂るように言われる。野菜は、キャベツ、レタス、ほうれん草などの葉物野菜を積極的に食べるようにし、ジャガイモ、にんじん、ごぼうなどの根菜類は糖質が高いため控えるように言われる。肉は、できれば、鶏の胸肉がいいので、スーパー、コンビニなどで売っている「サラダチキン」をよく食べた。ちなみにサラダチキンにはいろいろあるが、プレーンなものは続けて食べていると飽きてくるので、私は日本ハムの「やわらかチキンこがし醤油テリヤキ」をよく食べた。テリヤキ風の味付けでなかなか美味しくて、糖質ゼロはとても助かった。
      
朝食は、ほぼ毎日、サラダ(キャベツ、ベビーリーフ)、サラダチキン、チーズ、ゆで卵1個、プロティン20グラム、MCTオイル20ccを食べた。

昼食が困った、Rでは、コンビニでも糖質の低いものを選んで食事ができると言われたが、毎日実行するのは難しい。そこで活用したのが、糖質オフ弁当だ。ネットで調べて一番人気の日清医療食品の「食宅便低糖質セレクト」を定期的に購入して食べた。これは、糖尿病などをお持ちの方向けの糖質を抑えた弁当で、糖質は、5グラム程度に抑えてある。全部で21種類あり、基本は、肉1品、魚1品、その他の小鉢系の野菜などが3品入っていて、1食600円程度である。もちろんご飯はない。冷凍で7食ずつ届けられるので、冷凍庫に保管していて、電子レンジで温めて食べた。味はあまり期待していなかったが、食べてみると案外おいしかった。野菜も適度に盛り付けられており、栄養バランスもよさそうである。Rのトレーナーと相談して、これだと少しタンパク質が足りないので、サラダチキンとチーズを一緒に食べた。
実際の朝食(左)、昼食(右)の例
最後に夕食だが、これは自宅で食べるケースと、会食など外で食べるケースに分けて説明する。
 
自宅で食べるときは、最初は野菜、肉、魚を食べていたが、これだとなかなか体重が減らない。特に牛肉、豚肉、脂の多い鶏のもも肉はあまりよくないのだと感じた。そこで、肉を食べるのを止めることにした。具体的には、サラダ、魚(主に刺身の盛り合わせ)、枝豆または豆腐、ゆで卵1個だけにしてみた。すると体重が減りだした。よく糖質制限中は、牛肉のステーキをいくら食べてもいいとか、アブラっぽいものを一杯食べてもいいなどと言われているが、私の体験上、夕食でこれをやると、体重は増えないかもしれないが、一方で体重がなかなか減らないと思われる。
 
外食の場合は、なるべく和食系の居酒屋、料理屋にしてもらい、乾杯はハイボール、その後は焼酎の水割りにした。私はビール、日本酒が好きだが(これは最初はつらかったが)、次第に慣れてきた。もちろん、〆のごはん、麺類とデザートはパスした。ビール1本で糖質は約20グラム、日本酒一合で糖質は約10グラムに対し、ウィスキー、焼酎はゼロである。ただし、これも糖質ゼロだからといって、飲みすぎると、肝臓がケトン体を作るのに負荷がかかるからか、飲みすぎたときは肝臓のあたりが重苦しくなり、自然と量もほどほどになった。会食の際には、糖質の多い、中華料理、イタリアンはなるべく避けてもらった。
 
この食生活をほぼ4ヶ月続けたが、最初の一週間を過ぎると慣れてきて、それほどつらく感じることはなかった。
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