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逆正弦法則-ギャンブルで負けが込んでいる人は負け続ける?
基礎研REPORT(冊子版)9月号

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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まず、偏りのないコインを1枚用意する。コインを投げて表が出たら勝ちで、100円を受け取る。裏が出たら負けで、100円を支払う。このコイン投げを何度も繰り返す。当然、累計収支は変動する。
表と裏の出る確率は、2分の1ずつと仮定しよう。まず、最終的な累計収支について考えてみる。収支トントンになるケースはたくさんあるだろう。当初勝ち続けたが、その後負けが込んで結局0になるケース。勝ったり負けたりを続けて、収支0で終わるケースなどだ。一方、勝ちや負けばかりで、大きな黒字や赤字となることは少ない。最終的な累計収支は、収支0を頂点とした山の形に分布する。
そこで、直感的に「勝っている状態(それまでの累計収支が、黒字の状態)と負けている状態(赤字の状態)は同じくらいある」という感じがしてくる。この直感は正しいだろうか。10回のコイン投げで、コインを1回投げるごとに、勝っている状態か、負けている状態かをみてみる。そして「黒字の状態の数-赤字の状態の数」の差をとる。これを1,024通りのそれぞれについて計算する。ただし、それまでの累計収支が0の状態は、黒字や赤字の状態の数にカウントしない。
10回とも裏の場合は、収支は常に赤字で状態の差は-10。裏6回の後に表が4回出た場合も、ずっと赤字で差は-10。裏3回の後に表が7回出た場合は、6回目終了時点で収支0。それまでの5回は赤字、以降の4回は黒字で状態の差は-1。
1,024通りの「黒字の状態の数-赤字の状態の数」の差は、次のようになる。
投げる回数を増やすとU字型理論曲線(赤線)に近づく。この曲線から状態の差の確率を計算すると、逆正弦関数(サイン関数の逆関数)が現れる。このため、この事象は「逆正弦法則」と呼ばれる。
この法則は、野球、バスケットボール、バレーボールなどのスポーツでの試合展開を考えるとイメージしやすい。対戦チームの実力が互角ならば、点をとったり、とられたりする確率は同じくらいだろう。
では、いつもシーソーゲームになるかというと、そうとは限らない。むしろ、先制点をあげたチームがそのまま逃げ切ることが多い。たとえ逆転劇が見られたとしても、逆転したチームが勝ち切ることが一般的だろう。逆転につぐ逆転の大熱戦で観客を大いにわかせる好ゲームには、めったにお目にかかれない。
話をコイン投げゲームに戻そう。2つのことがわかった。最終的な累計収支は、収支0を頂点とした山の形に分布する[図表1]。一方、状態の差は黒字か赤字のどちらかに偏りやすい[図表2]。これは、負けの状態からゲームを始めたと考えると理解しやすい。少しくらい表が出ても、負けの状態は脱しない。もし裏が出続ければ、もっとひどい負けの状態に陥る。つまり、ギャンブルで負けが込んでいる人は、今後も負け続ける可能性が高い。
今回、表と裏の出る確率を2分の1ずつと仮定した。実際は負けの確率は2分の1より大きい。ギャンブルの主催者に、ある程度利益が渡る仕組みだからだ。つまり、負けの状態になりやすいといえる。
ギャンブルで負けていると、それを取り返そうとさらにのめり込む。これは、ギャンブルの行為や過程に心を奪われて、やめるにやめられない「ギャンブル依存症」の問題に関係するものかもしれない。
統計上、赤字を挽回して同じくらい黒字を味わうことは難しい。ギャンブルで負けているときは、どこかで手を引く判断が必要と思われるが、いかがだろうか。"
(2018年09月07日「基礎研マンスリー」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
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