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データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(下・流出編)-人口デッドエンド化する東京の姿-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
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3――2017年・東京都から地方に引き寄せる誘引力に男女差はあったのか
(上)では東京都への流入人口について検討したが、男性に対して女性がどの程度の割合で東京都から人口流出しているのか(地方エリアへと東京人口を誘引できているのか)の流出男女差指標(あるエリアへの年間流出女性数/男性数、以下『女性誘引力』とする)を見てみたい(図表4)。
最初に全国平均を見ると、83.1%である。
全国的にみると地方は東京都から女性を呼ぶ誘引力が、男性への誘引力の8割程度にとどまっている、という見方が可能である。
男性を10人呼び寄せられる力があるとすると、女性に関しては8人程度しか呼び寄せることが出来ない、ということである。つまり、地方エリアは東京都の女性に対するアピール力が総じて弱いということになる(地方の男性重視誘引特性)。
東京都から流出してくる男性に比べて女性の割合が最も少ないグループは、女性誘引力が70%を切っている。つまり、男性が3人流出してくるのに対して、女性は2人程度、といったイメージとなっている。この女性誘引力が70%に満たないエリアは4エリアあり、少ない順に島根県、三重県、香川県、愛知県となっている。
これらの県は全国的に見るならば、東京都から男性を呼ぶ誘引力と女性を呼ぶ誘引力の格差が大きなエリアといえるだろう。
女性誘引力が全国平均未満かつ70%から80%未満のエリアは26エリアも存在する。
図表からわかるように、女性誘引力の全国平均を引き上げているのは対東京都流出入人口規模が大きく、さらに女性誘引力も高めの関東3エリア(神奈川・埼玉・千葉)なのである。
ゆえに、大半のエリアは全国平均の83%未満、という結果になっている。
残念ながら、男性よりも女性に対して誘引力が高い(指標が100を超える)エリアは1つもない。言い換えるなら、東京都は全国の女性人口のデッドエンド化が著しいエリア、地方女性デッドエンド化エリアなのである。
4――東京都からの人口奪還状況~東京デッドエンド化寄与エリアはどこか
最後に、結局のところ、2017年の1年間において東京都に送り込んだ人口をどの程度東京都から取り戻しているか(流出/流入)を、エリアごとにみてみたい(図表5)。
2017年年間ベースでは埼玉県だけは東京からの人口が東京への人口を上回る「奪還勝者」となっている。また千葉県もほぼ100%に近い奪還率である。
9割程度の奪還率は神奈川県、沖縄県である。
全国平均だけ見ると約8割東京都から地方は人口を年内に奪還しているようにみえるものの、図表からは牽引しているのは特定エリアのみであることが明確に伝わる結果となっている。
一方、東京からの奪還率が6割を切ってしまうエリアも4エリア存在する。青森県、新潟県、岐阜県、和歌山県である。
これらのエリアは東京の人口デッドエンド化にかなり寄与するエリアとなっているといえるだろう。
東京からの奪還率が7割に満たないエリアが実に26エリアにものぼることから、いかに東京都が全国からの人口の行き止まりとなって一極集中が進んでいるかがわかるであろう。
8割以上奪還できているエリアは男性では11エリアあるのに対し、女性ではわずか4エリアである。
一方で6割以下の奪還エリアは、男性は2エリアにとどまるが、女性にいたっては17エリアにのぼっている。
5――地域人口政策における「エリア出生率比較の罠」からの脱却を
いくら出生率だけをあげてみても母親候補の数が減少すれば、生まれくる子どもの数は増えてはこない。
地方の政策関係者から「経済政策と、結婚・出産のような社会政策は別ものである」といった声を聞くことがある。
こういった声は、恐らくは「母親候補の県外流出による母数減少」が地域ベースで見るならば出生数に大きな影響をもたらすことになることへの無理解からくる議論であろう。
母親候補の女性が仕事や居場所を求めてエリア外へどんどん流出する中で、いくら出生率だけがあがっても、そのエリアの空の下に生まれる子どもたちは減るばかりである。
図表からは、2017年単年の人口移動状況だけを見ても、ほとんどのエリアが東京都に「母親候補」を流出させ、かなり多くを取り戻せていない様子がうかがえる。
東京都が全国最低出生率を突き進みながらも多子化している状況を支えているのが地方から流入する母親候補たちであることを示す1つのデータである。
地方がどんなに男性誘致経済政策を進めても、女性はさほど戻ってはこない。
「男に仕事を。そうすれば嫁がついてくる」
そのような懐かしき時代は、専業主婦希望女性が激減した1990年代に終焉したことに、地方エリアはもし気がついていないのであれば、早急に気がつかなくてはいけないかもしれない。
母親候補の女性たちが東京というデッドエンドに流入し続けている。
そこは、国内最高の未婚率・国内最低の出生率という悪条件をかいくぐり、何とか出産にいたらねばならない、という大変過酷な世界である。
(上)の繰り返しになるが、都会と地方は対立構造にあるわけではない。実は、とも沈みの構造となっている。
日本全体で取り組む、「東京デッドエンド化解消への取組」。
本気の地方への女性誘引策の展開こそが、急務であると考える。
【参考文献一覧】
総務省総計局. 「平成29年住民基本台帳人口移動報告」
国立社会保障人口問題研究所.「出生動向基本調査」
国立社会保障人口問題研究所.「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
国立社会保障人口問題研究所.「日本の地域別将来推計人口(平成25(2013)年推計)」
国立社会保障人口問題研究所.「出生動向基本調査(独身者調査)」第11回~第15回
厚生省人口問題研究所(1992)「独身青年層の結婚観と子供感」
厚生労働省.「人口動態調査」
国立社会保障・人口問題研究所. 「人口統計資料集」2017年版
総務省総計局. 「2015年 国勢調査速報値」
総務省総計局. 「人口推計(平成29年(2017年)10月確定値)
天野 馨南子.“2つの出生力推移データが示す日本の「次世代育成力」課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造-” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2016年12月26日号
天野 馨南子. “消え行く日本の子ども-人口減少(少子化)データを読む-わずか半世紀たたず、半減へ”ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2018年4月9日号
天野 馨南子. “ データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-”ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート 2017年8月14日号
天野 馨南子. “データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)
-地方の人口流出は阻止されるのか-” ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート 2018年8月6日号
天野 馨南子. “専業主婦ライフの提供は「最強モテ・オファー」なのか ― 若い女性が望む理想の生き方とは?” MONEY PLUS「結婚難民の羅針盤」 2018年4月8日号
https://moneyforward.com/media/marriage/56775/
(2018年08月13日「基礎研レポート」)
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03-3512-1878
- プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向
・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】内閣府特命担当大臣主宰「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024~2025年度)
・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
※都道府県委員職は年度最新順
・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
・【高知県】高知県「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度~)
・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度~)
・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【愛媛県法人会連合会】えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー
天野 馨南子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/04/21 | 「都道府県人口減の未来図」-2024年都道府県20代人口流出率ランキング | 天野 馨南子 | 基礎研レポート |
2025/03/24 | 若い世代が求めている「出会い方」とは?-20代人口集中が強まる東京都の若者の声を知る | 天野 馨南子 | 研究員の眼 |
2025/03/07 | 若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る | 天野 馨南子 | 基礎研マンスリー |
2025/02/05 | 【地方創生・人口動態データ速報】2024年 社会減(国内移動純減)都道府県ワーストランキング-日本人と外国人の合計で移動純減は40エリア- | 天野 馨南子 | 基礎研レター |
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