2018年08月07日

変容する消費構造-モノからサービス、デパートからネット、BtoCからCtoCへ~消費者の今を知る

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~なぜ消費が伸びないのか?変容する消費構造

なぜ消費は活性化しないのか-活性化を阻む6つの理由」で述べた通り、個人消費が盛り上がりに欠ける理由には、(1)経済不安や(2)高齢化の進行、(3)お金を使わなくてもすむ現代の消費社会、(4)価値観の変容、(5)欲しいモノ・サービスがない、(6)統計上の課題があげられる。

一方で、自動車の販売台数の減少や百貨店の売上高の減少など、かつて隆盛を極めた業界が低迷していることも消費が伸びないという印象を強めているのではないだろうか。現代社会では消費者がお金を使う対象や買い物をする場所は変わり、消費構造は変容している。改めてその状況を捉えたい。
 

2――消費支出の構造変化~「被服及び履物」などのモノから「保健医療」や「通信」などのサービスへ

2――消費支出の構造変化~「被服及び履物」などのモノから「保健医療」や「通信」などのサービスへ

消費者は何にお金を使うようになり、何にお金を使わなくなっているのだろうか。総務省「家計調査」を用いて総世帯の消費支出を指数化すると、消費支出全体は低下傾向にある(図1)。支出項目別には「被服及び履物」が大幅に低下し、2010年頃から「教育」も低下している。いずれも物価を考慮した実質増減率でも同様だが、特に「被服及び履物」の減少幅が大きい。2017年の対2002年実質増減率は、消費支出全体が▲13.3%、「被服及び履物」が▲32.2%、「教育」が▲19.5%である。

世帯の家計収支には、世帯人員の年齢分布や人数が影響を与える。現在、世帯主年齢が60歳以上の高齢世帯は過半数、単身世帯は3割を超える中で、家計収支への高齢化や単身化の影響は無視できない1。さらに、少子化で子どものいる世帯数が減少している状況もある。高齢世帯や単身世帯では、家族で暮らす現役世帯と比べて支出額が少ない。また、支出項目にも違いがあり、高齢世帯では「教育」や「被服及び履物」、「住居(主に家賃地代)」が少なく、「保健医療」や「食料」が多い。単身世帯では「教育」や「交通・通信」が少なく、「住居(主に・家賃地代)」や「教養娯楽」が多い。

総務省「家計調査」では、二人以上世帯のみではあるが、世帯人員の年齢分布や人数の影響を除き、物価も考慮した「消費水準指数」を公表している。これを見ると、消費支出全体や「被服及び履物」は、図1と同様に低下傾向にあるが、「教育」は近年、上昇傾向にある(図2)。つまり、総世帯における「教育」の低下は高齢化や単身化、少子化による影響と言え、子育て世帯では教育費は、むしろ増えている可能性がある2。確かに、文部科学省「子供の学習費調査」によれば、2010年以降、家庭内学習費や塾・習いごと等の費用が含まれる「学校外活動費」は、小中学生や高校生のいる家庭で増加傾向にある。また、大学の学費も増加傾向にある。私立大学の授業料は年々上昇しており、国公立大学でも定期的に改定が成されている(文部科学省「国立大学と私立大学の授業料等の推移」など)。

さて、図1にて、総世帯で上昇しているものには「保健医療」や「通信」がある。2017年の対2002年実質増減率は「保健医療」が+8.3%、「通信」が+44.5%である。これらについて、図2にて、二人以上世帯の消費水準指数で見ると、「保健医療」は図1ほどではないものの全体を上回って高水準で推移しており、「交通・通信」も大幅に上昇している。

つまり、総世帯で見ても、世帯分布を調整した二人以上世帯で見ても、「被服及び履物」は減る一方、「保健医療」や「通信」は増えており、これらは消費者全体で共通した変化と言える。

2000年代に入り、ファストファッションメーカーが台頭し、ネット通販で安価な商品を入手しやすい環境にもなっている。最近では高級ブランドバッグやスタイリストがコーディネートした洋服を楽しめるシェアリングサービスも登場している。現在では、お金を出さなくてもトレンドを楽しむことができ、安くても品質の良いものも増えている。一方、高齢化が進行し、医療技術をはじめとして様々な領域で技術革新が進展する現代社会では、治療における選択肢は増え、予防医療への意識も高まっている。さらに、インターネット上を大量の情報が流通し、様々な商取引が拡大する高度情報通信社会では、家庭での通信環境の充実が進み、スマートフォンなどの通信手段も欠かせない。

このような中で、「被服及び履物」といったモノよりも、「保健医療」や「通信」などのサービスへお金を使うように消費支出の構造はシフトしている。
図1 総世帯の消費支出の推移(2002年=100)/図2 二人以上世帯の消費水準指数の推移(世帯人員及び世帯主の年齢分布調整済、1990年=100)
 
1 久我尚子「増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2018/5/9)
2 同様のことは「教養娯楽」でも言えそうだ。
 

3――買い物をする場所の変化~デパートからスーパー、コンビニ、ネットへ

3――買い物をする場所の変化~デパートからスーパー、コンビニ、ネットへ

図3 業態別売上高の推移 消費者がお金を使う場所も変化している。業態別の売上高を見ると、百貨店が大きく減る一方、1990年代後半からスーパーが、2000年代に入るとコンビニエンストアが、近年ではEコマースが著しく増加している。なお、統計は十分ではないが、ドラッグストアも増加傾向にあるようだ。

百貨店の商品別売上高を見ると、1990年から現在まで、変わらずに「衣料品」が最多だが、売上高に占める割合は低下している(49.5%→43.5%、▲6.0%pt)。一方で「飲食料品」は上昇している(20.5%→28.4%、+7.9%pt)。また、スーパーではもともと「飲食料品」が最多だが、百貨店と同様に「衣料品」が占める割合は低下し(31.3%→9.2%、▲22.1%pt)、「飲食料品」が増えている(42.6%→73.9%、+31.3%pt)。消費支出において「被服及び履物」が減っているように、百貨店やスーパーの売上高でも「衣料品」は減っている。なお、コンビニでは、食品や生活雑貨などの非食品、サービスのいずれの売上高も増えている。店舗網が拡大し3、商品やサービスの品揃えも充実し、ますます利便性が増していることで、消費者は、地域の商店街などの小売店などからコンビニへシフトしているのだろう。

そして、近年、驚異的な伸びを示すEコマースだが、2017年のEコマースの売上高の内訳は物販が52.1%(うちスマホ経由は35.0%)、サービスが36.1%、デジタルが11.8%である。なお、物販領域におけるEC化率4は上昇傾向にあり、2017年で5.79%である。Eコマースの諸外国の状況5やEコマースはネットを通じて国境を超えた取引が容易であることを鑑みれば、今後とも拡大は続くだろう。

よって、消費者が買い物をする場所は百貨店からスーパーやコンビニ、ドラッグストア、そして、ネット通販にシフトしており、ここでも構造変化が生じている。
 
3 一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会「コンビニエンスストア統計データ」
4 電話やFAX、Eメール、相対(対面)等も含めた全ての商取引金額(商取引市場規模)に対するEC市場規模の割合。
5 経済産業省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究
報告書」によると、中国やイギリスの商取引に占めるEコマースの割合は15%程度、韓国は10%超、米国は7%程度。
 

4――おわりに~BtoC市場からCtoC市場への構造変化も、シェア経済で国境を超えた取引の拡大も

4――おわりに~BtoC市場からCtoC市場への構造変化も、シェア経済で国境を超えた取引の拡大も

消費構造の変容には、消費者がお金を使う対象や買い物をする場所に加えて、BtoC市場からCtoC市場へのシフトも指摘できる。フリマアプリや民泊などのシェアリングサービスの登場により、これまで事業者が提供していたモノやサービスが、消費者間で直接やりとりできるようになっている。また、シェアリングサービスは決済手段などEコマースと重なる部分が多いため、国境を超えた取引も広がる可能性が高い。今後は国内市場だけでなく国外市場もという価値観のシフトも生じるだろう。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2018年08月07日「基礎研レター」)

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