2018年06月11日

欧州経済見通し-米欧摩擦激化は域内政治以上のリスク

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
  1. ユーロ圏では、17年に比べて速度は落ちているものの、景気の拡大が続いている。17年末にかけての成長加速の効果もあり、18年も実質GDPは2%を超えそうだ。
     
  2. 景気拡大は内需が主導する。個人消費は、雇用所得環境の改善に支えられた拡大が見込まれる。設備不足、高稼働率、デジタル化対応需要から固定資本投資は設備投資中心の拡大続く。
     
  3. 見通しに対する外部の下振れリスクは増大しており、米国とEUの貿易戦争は現実味を増しつつある。イタリアなどの政治リスクは、EUのルールと市場の監視が働くことから、金融システムの混乱を通じて、域内景気に急ブレーキをかけることはないと考えている。
     
  4. イタリアの信用悪化にECBが金融政策で対応することは考え難い。ECBは月300億ユーロの国債等の買い入れを18年9月末まで継続した後、テーパリングを経て12月末で終了する。利上げは、現在マイナス0.4%の中銀預金金利のマイナス幅の縮小に19年6月に着手、現在ゼロの市場介入金利の引き上げは19年12月開始と予測する。
     
  5. 19年3月にEUを離脱する英国が、20年末まで現状を維持する移行期間が確保できるかは、現時点では不確かで、将来の関係の協議は平行線を辿っている。EU離脱を控えて投資は伸び悩んでおり、1%台半ばに低下した潜在成長率並みの成長が続くだろう。
ユーロ圏経済見通し/英国経済見通し
■目次

 ・ユーロ圏経済の拡大は持続。1~3月期は特殊要因も影響し実質前年比0.4%に減速
 ・4~6月期の反発力も弱いが、17年の成長加速の押上げ効果も働き18年も2.3%の高成長
 ・個人消費は雇用所得環境の改善を伴う拡大が続く
 ・設備不足、高稼働率、デジタル化対応需要から固定資本投資は設備投資中心の拡大続く
 ・輸出には米国の輸入制限措置拡大で基調が変わるリスクが高まっている
 ・直接投資を通じた結び付きが深い米国とEUは特別な関係。摩擦拡大は双方に不利益
 ・南欧の政治リスク。市場はユーロ離脱リスクが意識されやすいイタリアをより警戒
 ・しかし、スペインの方が財政赤字は大きく、議席数で見る新政権の基盤はより弱い
 ・経済の堅調さに加え、親EU・親ユーロであることもスペインの安心材料
 ・不良債権問題もイタリアの重石。しかし、17年に処理はある程度進展した
 ・イタリアの財政拡張策への警戒は続く
 ・イタリアの政治不安のユーロ圏経済への影響は過大評価すべきではない
 ・ECBは18年末に資産買入終了へ
 ・EU・ユーロ改革への影響。6月28~29日の首脳会議に向けた協議が注目
 ・6月首脳会議ではアイルランド問題の合意も目指す。英国とEUの溝は大きいまま
 ・18年の英国の実質GDPは1%台半ばの潜在成長率並み。BOEは8月にも利上げへ
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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