2018年05月25日

中国経済見通し-「6.5%前後」へ軟着陸のシナリオは維持も、米中覇権争い激化なら中国経済にはダブルパンチ!

三尾 幸吉郎

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4.輸出の動向

(図表-10)輸出入額(ドルベース)の推移 輸出は堅調に推移している。18年1-4月期の輸出額(ドルベース)は前年同期比13.7%増と、17年通期の同7.9%増から伸びが加速した。世界経済の回復が続く中で、欧米先進国向け輸出が高い伸びを示したほか、一帯一路沿線地域など新興国向けも好調だった。特に化学品や機械・輸送機器が高い伸びを示し、その他製品(衣類、バッグ類、履物類など)の伸びは低位に留まった。一方、輸入額(ドルベース)も前年同期比19.6%増と17年通期の同16.0%増から伸びが加速した。特に欧州からの輸入が好調で同20.1%増となったほか、ASEANやアフリカなど新興国からの輸入も2割超の高い伸びを示した。また、品目別では鉱物性燃料と機械・輸送機器が高い伸びを示した。その結果、貿易黒字(モノ)は767.5億ドルと前年同期比20.4%減となった(図表-10)。
今後を輸出入動向考えると、米国経済の持続的拡大や一帯一路沿線地域への影響力拡大で輸出は堅調と見られるものの、中国国内での製造コスト上昇を背景に製造拠点を後発新興国へ移転する動きがあるのに加えて、米中貿易摩擦の深刻化をその流れが加速する“トランプシフト”を起こす可能性もあることから、輸出の伸びはやや鈍化するだろう。一方、輸入に関しては、中国政府が米中貿易摩擦を輸入拡大で乗り切ろうと動き出したことに加えて、習近平国家主席が4月の博鰲(ボアオ)アジアフォーラムで「輸入を主体的に拡大」する方針を示し、11月には上海(青浦区)で第1回国際輸入博覧会を開催する予定で、欧米先進国や一帯一路沿線地域から延べ15万人のバイヤーが集まる見込みであることから、輸入は高い伸びを維持すると見ている。従って、中国の貿易黒字は縮小に向かい、経済成長率への寄与度は下がる可能性が高いと見られる(図表-11)。
(図表-11)輸出の主なプラス・マイナス要因

5.金融の動向

5.金融の動向

中国人民銀行は18年2月5-6日、工作会議を開催し「安定の中で前進を求める(稳中求进)」という総基調を堅持する方針を示すとともに、2018年の主要任務を提示した。具体的には、[1]金融政策の穏健・中立性の維持、[2]金融リスクの確実な防止・解消、[3]重要分野とカギとなる部分の金融改革の適切な推進、[4]金融市場の平穏で健全な発展の持続推進、[5]人民元国際化の着実な推進、[6]国際金融協力と世界経済金融ガバナンスへの深い関与、[7]外貨管理体制改革の一層の推進、[8]金融サービスと管理水準の全面的引き上げ、[9]内部管理の持続強化の9項目を挙げている。

その中身を詳細に見ると、シャドーバンキング(影子银行)、不動産金融、ネット金融、債券デフォルト処理メカニズム整備を挙げるなどマクロプルーデンス政策(宏观审慎政策)による「金融リスクの確実な防止・解消」に力点が置かれており、その金融引き締め効果が景気を冷やす要因となるだろう。また、金利・為替レートの市場化や人民元国際化など金融改革の推進も強調している。しかし、金融改革を急いで進めれば、金利・為替レート・株価が不安定化する恐れがあり、習経済学(シーコノミクス)が最重視する「安定」を損なうことにもなりかねない。従って、中国の金融改革はひとまず前進するものの、市場の反応を見定めつつ慎重に進める可能性が高いことから、そのスピードは緩やかなものに留まらざるを得ないだろう。
 

6.中国経済の見通し

6.中国経済の見通し

(図表-12)経済予測表 1|経済見通し
18年の成長率は前年比6.5%増、19年は同6.3%増と緩やかに減速、中国経済は「6.5%前後」の安定成長へ軟着陸すると見ている。消費は住宅バブル抑制策に伴い家具などの消費需要が減少するものの、雇用情勢安定の下、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費需要を喚起する流れが続いており、消費は堅調を維持すると見ている。投資は引き続き過剰設備・過剰債務の整理が足かせとなり、マクロプルーデンス政策による「金融リスクの確実な防止・解消」もインフラ投資や不動産開発投資を抑制するものの、中国政府による手厚い政策支援を背景に「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する領域では積極的な投資が期待できることから、投資は低位ながらも底堅く推移すると見ている。但し、米中貿易摩擦を背景にした輸入拡大に伴って純輸出のプラス寄与は減少すると予想している。なお、18年の消費者物価は前年比1.9%上昇、19年は同2.4%上昇と予想している(図表-12)。
2|リスクは“関税引き上げ合戦”と“ITを巡る米中覇権争い”のダブルパンチ
中国経済を見通す上では、米中貿易摩擦の深刻化が最大のリスクと考えている。5月17~18日にワシントンで開催された第2回米中貿易協議のあと、米国のムニューシン財務長官は「貿易戦争を当面保留する」と述べた一方、中国の劉鶴副首相も「今回の交渉の最大の成果は双方が貿易戦争をせず、お互いが追加関税を掛け合うのを停止するとの共通認識に至ったことだ」と述べており、一時休戦となったようだ。今後しばらくは中国が米国からの輸入を促進し米国の貿易赤字(≒中国の貿易黒字)を減らす具体策の協議に入るとともに、中国の通信機器大手(中興通訊、ZTE)に対する制裁に関しては経営体制刷新や罰金支払いなど制裁緩和に向けた道筋を探ることになるだろう。しかし、「中国製造2025」の補助金政策を巡る米中の議論は平行線を辿った模様であり、情報技術(IT)の覇権を巡る火種は依然として燻っており、再燃する可能性も排除できない。米中貿易摩擦が“関税引き上げ合戦”に留まらず“ITを巡る米中覇権争い”に及ぶことになると、中国経済にとってはダブルパンチとなり、景気が失速する恐れが高まる。ひとつには、“関税引き上げ合戦”で米国が中国からの輸入品に高関税をかければ、米国での中国製品の競争力は低下、米国への輸出が減少して生産設備の稼働率は低下、中国企業が抱える「過剰設備問題」が深刻化し、バランスシートの反対側(負債サイド)では「過剰債務問題」が深刻化する恐れがでてくる。もうひとつには、“ITを巡る米中覇権争い”が激化して、ITの世界で最先端を行く米国とのヒト・モノ・情報・カネの交流が滞れば、中国が目指す「製造大国」から「製造強国」への進化・発展の道にも暗雲が立ち込めるからだ。
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2018年05月25日「Weekly エコノミスト・レター」)

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