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中国経済見通し-「6.5%前後」へ軟着陸のシナリオは維持も、米中覇権争い激化なら中国経済にはダブルパンチ!

三尾 幸吉郎
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4.輸出の動向

5.金融の動向
その中身を詳細に見ると、シャドーバンキング(影子银行)、不動産金融、ネット金融、債券デフォルト処理メカニズム整備を挙げるなどマクロプルーデンス政策(宏观审慎政策)による「金融リスクの確実な防止・解消」に力点が置かれており、その金融引き締め効果が景気を冷やす要因となるだろう。また、金利・為替レートの市場化や人民元国際化など金融改革の推進も強調している。しかし、金融改革を急いで進めれば、金利・為替レート・株価が不安定化する恐れがあり、習経済学(シーコノミクス)が最重視する「安定」を損なうことにもなりかねない。従って、中国の金融改革はひとまず前進するものの、市場の反応を見定めつつ慎重に進める可能性が高いことから、そのスピードは緩やかなものに留まらざるを得ないだろう。
6.中国経済の見通し

18年の成長率は前年比6.5%増、19年は同6.3%増と緩やかに減速、中国経済は「6.5%前後」の安定成長へ軟着陸すると見ている。消費は住宅バブル抑制策に伴い家具などの消費需要が減少するものの、雇用情勢安定の下、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費需要を喚起する流れが続いており、消費は堅調を維持すると見ている。投資は引き続き過剰設備・過剰債務の整理が足かせとなり、マクロプルーデンス政策による「金融リスクの確実な防止・解消」もインフラ投資や不動産開発投資を抑制するものの、中国政府による手厚い政策支援を背景に「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する領域では積極的な投資が期待できることから、投資は低位ながらも底堅く推移すると見ている。但し、米中貿易摩擦を背景にした輸入拡大に伴って純輸出のプラス寄与は減少すると予想している。なお、18年の消費者物価は前年比1.9%上昇、19年は同2.4%上昇と予想している(図表-12)。
中国経済を見通す上では、米中貿易摩擦の深刻化が最大のリスクと考えている。5月17~18日にワシントンで開催された第2回米中貿易協議のあと、米国のムニューシン財務長官は「貿易戦争を当面保留する」と述べた一方、中国の劉鶴副首相も「今回の交渉の最大の成果は双方が貿易戦争をせず、お互いが追加関税を掛け合うのを停止するとの共通認識に至ったことだ」と述べており、一時休戦となったようだ。今後しばらくは中国が米国からの輸入を促進し米国の貿易赤字(≒中国の貿易黒字)を減らす具体策の協議に入るとともに、中国の通信機器大手(中興通訊、ZTE)に対する制裁に関しては経営体制刷新や罰金支払いなど制裁緩和に向けた道筋を探ることになるだろう。しかし、「中国製造2025」の補助金政策を巡る米中の議論は平行線を辿った模様であり、情報技術(IT)の覇権を巡る火種は依然として燻っており、再燃する可能性も排除できない。米中貿易摩擦が“関税引き上げ合戦”に留まらず“ITを巡る米中覇権争い”に及ぶことになると、中国経済にとってはダブルパンチとなり、景気が失速する恐れが高まる。ひとつには、“関税引き上げ合戦”で米国が中国からの輸入品に高関税をかければ、米国での中国製品の競争力は低下、米国への輸出が減少して生産設備の稼働率は低下、中国企業が抱える「過剰設備問題」が深刻化し、バランスシートの反対側(負債サイド)では「過剰債務問題」が深刻化する恐れがでてくる。もうひとつには、“ITを巡る米中覇権争い”が激化して、ITの世界で最先端を行く米国とのヒト・モノ・情報・カネの交流が滞れば、中国が目指す「製造大国」から「製造強国」への進化・発展の道にも暗雲が立ち込めるからだ。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年05月25日「Weekly エコノミスト・レター」)
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