2018年05月08日

オフィス市況は好調維持。Jリート市場は復調。-不動産クォータリー・レビュー2018年第1四半期

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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4.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2018年第1四半期の東京都心部Aクラスビル2の成約賃料は35,013円(前期比+1.2%)、空室率は1.8%となった。底堅い経済成長に下支えされオフィス需要は堅調に推移しているが、2018年から2020年まで大規模ビルの供給が相次ぐことが重石となり、Aクラスビル賃料は2015年第3四半期をピークに小幅な動きが続いている。一方、Bクラスビル、Cクラスビルの成約賃料は、大量供給の影響が限定的で、緩やかな賃料上昇トレンドを維持している(図表-18)。日経不動産マーケット情報3によれば、2019年春までに竣工するビルはリーシングが順調に進捗しており、今後は2次空室の動向が注目される。
図表-18 東京都心オフィスビルの空室率・成約賃料(オフィスレント・インデックス)
地方の主要都市では、新規供給が抑制される中、堅調なオフィス需要を受けて、空室率が一段と低下している(図表-19)。これらの都市では、今後も新規供給が抑制されるため、好調な市況が継続する見込みである(図表-20)。

ニッセイ基礎研究所では、今後の東京都心部Aクラスビルの賃料について2018年後半から2021年まで下落すると予測している(2017年4Q~2021年3Qの下落率は▲18.5%)4。一方、東京以外の主要都市は、2020年~2021年までは賃料上昇が続き、ピークまでに福岡は2017年4Qから10.9%、仙台は同+10.7%、大阪は同+10.4%、札幌は同+7.4%、名古屋は同+3.6%の賃料上昇を予想している5
図表-19 主要都市の大規模ビル空室率/図表-20 主要都市の大規模ビルの新規供給面積(2018年以降合計・2017年ストック比)
 
2 三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2018」を参照のこと。
3 高田七穂「オフィス市況トレンド 新築ビルの稼働率 竣工済み33棟は稼働率94% 未竣工の3割超がすでに満室」、『日経不動産マーケット情報』、2018年4月号、日経BP社
4 佐久間誠「東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2018年)-2018年~2024年のオフィス賃料・空室率」(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2018年2月8日)
5 佐久間誠「福岡オフィス市場の現況と見通し(2018年)」(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2018年4月2日)
佐久間・竹内「仙台オフィス市場の現況と見通し(2018年)」(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2018年4月5日)
佐久間誠「大阪オフィス市場の現況と見通し(2018年)」(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2018年3月6日)
佐久間・竹内「札幌オフィス市場の現況と見通し(2018年)」(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2018年4月4日)
佐久間・竹内「名古屋オフィス市場の現況と見通し(2018年)」(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2018年4月3日)
(2) 賃貸マンション
主要都市のマンション賃料は緩やかな上昇が続いている。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2017年第4四半期は前年比で札幌が+2.7%、大阪が+2.0%、福岡が1.7%、横浜・川崎が+1.6%、東京23区が+1.3%、仙台が+0.6%、名古屋が+0.6%となり、全ての都市で上昇した。また東京23区をタイプ別に見ると、シングルタイプが+1.6%、コンパクトタイプが+1.9%、ファミリータイプが+3.1%となり全てのタイプで上昇している(図表-21)。
図表-21 主要都市・東京都区部のマンション賃料
また、東京の高級賃貸マンションについても、空室率が5.8%に低下し、賃料は前年比+1.7%の17,235円/月坪に上昇した。前年比では8期連続の上昇となりファンドバブル期(2008年2Q)の水準(17,620円/月坪)近づいている(図表-22)。
図表-22 高級賃貸マンションの賃料と空室率
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業動態統計などによると、2018年1-3月の小売販売額(既存店)は百貨店が前年比+0.4%、スーパーが同+0.3%、コンビニエンスストアが同+0.6%となった(図表-23)。主要都市のプライム商業エリアの路面賃料を見ると、銀座はショールームの出店需要やGINZA SIX開業のプラス効果の影響などもあり、5~6万円/月・坪と高止まりの状況が続いている。一方、心斎橋はドラッグストアの出店ラッシュがひと段落したこともあり、賃料は2万円/月・坪レベルへと低下し、一服感が見られる(図表-24)。
図表-23 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
図表-24 主要都市のプライム商業エリア路面店舗賃料(月・坪当たり)
全国61都市のホテル客室稼働率(2018年2月)は前年同月比1%上昇し80.6%となった。過去1年を見ると、1月は前年を下回ったものの、それ以外の月は前年を上回り、ホテルの客室稼働は好調を維持している(図表-25)。週刊ホテルレストラン6によると、2017年は訪日外客数の増加が後押ししたものの、ホテルの新規供給増加や民泊の台頭などを背景に稼働を重視するホテルが多くADR・RevPARは低迷傾向にある。
図表-25 ホテル客室稼働率の暦年月次ベース(全国)
2018年1-3月の訪日外国人客数は前年同期比16.5%増加の約762万人となった(図表-26)。航空路線の拡充やクルーズ船寄港数の増加、ビザ緩和などを背景に引続き好調に推移している。2018年1-3月の延べ宿泊者数は前年同期比0.5%増加し、そのうち外国人が前年同期比13.4%増加と、日本人の低迷(前年同期比▲1.8%)を補った。(図表-27)。
図表-26 訪日外国人客数
図表-27 延べ宿泊者数(前年同期比)
シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2018年第1四半期)は前期比2.0%上昇の6.9%、近畿圏は1.6%上昇の21.2%となった(図表-28)。今後もEC市場の拡大などにより大規模な先進的物流施設の需要は旺盛なものの、首都圏では今後2年間過去最大の供給が予定されており、空室率はさらに上昇する見込みである。
図表-28 大型マルチテナント型物流施設の空室率
 
6 臼井英裕「2017年全角60都市の客室・定員稼働率および15エリアの客室3指標」、『週刊ホテルレストラン』、2018年4月27日、オータパブリケーションズ
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

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