2018年05月02日

2018年度診療報酬改定を読み解く(下)-外来機能の分化、かかりつけ医機能の充実を巡る論点と課題

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   三原 岳

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3――OECDの報告書

まず、日本の制度を客観視する上で、OECD(経済協力開発機構)の指摘を見てみよう。OECDは2014年11月、日本の医療制度について報告書8を公表しており、ここでは高齢化に対応する医療提供体制改革に向けて具体的な提案を示している。

まず、フリーアクセスなどを前提とした日本の医療制度を「利便性と反応性という利点がある」としつつも、「緩やかな管理と高い柔軟性は、超高齢化社会の医療ニーズにも適うものではない可能性がある。代わりに複雑で慢性の疾患を1つ以上抱える高齢者には、健康を維持し、社会への参加能力を最大限に発揮するために、継続的で、予防的で、個々に合わせたサービスが必要である」「日本の急速に高齢化する人口を考慮すると、予防的及び包括的な高齢者ケアに向けた明確な方向性が必要である。さらに費用対効果が高い予防医療に向けた日本の方向転換には、生涯を通じて一貫した予防的ケアを提供する、首尾一貫したプライマリ・ケア部門が必要不可欠」と指摘している。

ここで言うプライマリ・ケアとは前半で触れた通り、国民の日常的な医療ニーズに幅広く対応する概念であり、世界各国の医療制度改革はプライマリ・ケアを志向しており、OECD報告書も日本ではプライマリ・ケアの強化が必要と訴えたのである。

さらに、OECD報告書はプライマリ・ケアの強化策として、「個人にかかりつけのプライマリ・ケア医を登録するよう求める改革が、より効果的なプライマリ・ケアの発展には必要条件であると考えられる」「登録制度は選択肢を狭めるのが目的ではなく、治療の継続性、連携及び登録された患者全体のニーズの把握が目的であることを強調することが重要である」と指摘した9

つまり、日本で当然視されているフリーアクセスの下では、患者が複数の医師にかかった場合、「医療の入口」が分散することになるため、複数の慢性疾患を持っている高齢の患者を包括的かつ継続的に診ることが難しくなる結果、「高齢化社会には適さない」と指摘し、患者にとっての「医療の入口」に当たるかかりつけの医師を患者が指名・登録する「登録制度」の導入を提案しているのである。

これは日本の医療制度改革にとって有益な提案であり、高齢化に対応する提供体制を構築する上で、患者にとっての「医療の入口」を1カ所に絞る登録制度の提案は極めて有益と思われる。

では、ここで言う登録制度と「緩やかなゲートキーパー」は何が違うのだろうか。次に登録制度を採用しているイギリス、フランスとの比較を通じて、考察を加えていく。
 
8 OECD(2014)“OECD Reviews of Health Care Quality JAPAN RAISING STANDARDS ASSESSMENT AND RECOMMENDATIONS”『OECD医療の質レビュー 日本 スタンダードの引き上げ 評価と提言』を参照。
9 そのほか、プライマリ・ケアの質を評価する制度や、登録した人数に応じて報酬を支払う人頭払いの導入などを提唱しているが、ここでは触れない。
 

4――英仏との比較

4――英仏との比較

1イギリスの制度との対比
イギリスは公的医療費の大半を税金で賄う国民保健サービス(National Health Service=NHS)を整備しており、2次医療や3次医療を受ける場合、原則として家庭医(General Practitioner=GP)と呼ばれるプライマリ・ケア専門医の紹介を必要とする10

その際、国民は平均3~5人程度のGPが勤務する診療所に登録することが義務付けられており、GPは幅広い年齢層や病気・ケガに対応するだけでなく、病気やケガの種類や状態、緊急性などに応じて専門的な医療機関や社会資源を紹介する11
図3:日本のかかりつけ医とイギリスの家庭医の違い 言い換えると、患者にとっては、かかりつけとなる「医療の入口」が1カ所に絞られており、そこでプライマリ・ケアの専門能力を持ったGPの診察や治療を受けられることになる。その意味では、イギリスのゲートキーパー機能は厳格である。

特に、日本との対比を考える際にポイントとなるのは登録制度である。先に触れた通り、イギリス国民は必ずかかる診療所を登録する「登録制度」を採用しているが、日本は自由に医療機関を選べる。さらに、イギリスの場合は登録制度を通じて「医療の入口」を1カ所に絞っているのに対し、日本は臓器・疾病別に行く医療機関や医師を変えるなど、かかりつけ医を複数持つことができる。そのイメージは図3の通りであり、日本の「緩やかなゲートキーパー機能」の意味が鮮明となるであろう。

さらに、日本は医療機関の窓口で自己負担を取る一方、イギリスの医療制度は無料であり、その差異は大きい、イギリスのGPがプライマリ・ケアの専門能力を持っているのに対し、後述する通りに日本のかかりつけ医は「機能」とされている点も大きな違いである。

だが、共通点も見られる。実は、イギリスは登録制度を維持しつつ、自由に選べる度合いを増やしている。具体的には、以前のイギリスのシステムでは、国民は診療所を選ぶ権利を付与されておらず、かかりつけとなる診療所が居住地に応じて自動的に決まる仕組みだったが、これでは良いGPに当たるかどうか選ぶ住所次第で決まることになり、「郵便番号による宝くじ(postcode lottery)」と揶揄されていたという。そこで現在は複数の診療所から1つを選択できるようになった。つまり、診療所に対する登録義務を通じてゲートキーパー機能を維持しつつ、患者に選択権を付与した。

一方、日本は患者に選択の自由を認めつつ、「緩やかなゲートキーパー機能」を通じて、大病院にいきなり受診する行動を変えようとしている。以上のように考えると、登録制度の有無は大きな違いと言えるが、医療機関や医師を選ぶ患者の自由と、「医療の入口」を絞り込む制限(あるいは強制)の間でバランスを取ろうとしている点は両国に共通していると言える。
 
 
10 イギリスの医療制度に関しては、NHS England(2016)“General Practice Forward View”、堀真奈美(2016)『政府はどこまで医療に介入すべきか』ミネルヴァ書房、健保連(2012)「NHS改革と医療供給体制に関する調査研究報告書」、澤憲明(2012)「これからの日本の医療制度と家庭医療」『社会保険旬報』No.2489・2491・2494・2497・2500・2513を参照。
11 イギリスのプライマリ・ケアについては、Graham Easton(2016)“The Appointment”[葛西龍樹・栗木さつき訳(2017)『医者は患者をこう診ている』河出書房新社]を参照。日本の提供体制改革との関連では、拙稿「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(4)-日常的な医療ニーズをカバーするプライマリ・ケアの重要性」を参照。
www.nli-research.co.jp/report/detail/id=57355
2フランスの制度との対比
ここにフランスの仕組みを対比させると、論点が浮き彫りになる12。フランスは元々、日本と同じフリーアクセスだったが、2005年から「かかりつけ医」(Médecin Traitant)制度を導入し、かかりつけ医への登録を国民に義務付けた。GPが働く診療所に登録と受診を義務付けるイギリスと異なり、フランスの場合、大学病院の勤務医なども指名できるほか、かかりつけ医を経由せずに大病院に行くことも可能である。しかし、かかりつけ医を経由した場合の自己負担は30%だが、経由しない場合は70%とし、自己負担に差を付けることで、かかりつけ医での受療を誘導しようとしている。

これを日本と比較すると、共通点と違いを指摘できる。共通点としては両国ともダイレクトに大病院に行った場合、自己負担を高く設定することで、フリーアクセスを修正しようとしている点である。さらにフランスの制度では、かかりつけ医を診療所の医師に限っておらず、誰でもかかりつけ医に指名できる日本に近い。

一方、違いもある。第1に、日本では先に触れた通り、「緩やかなゲートキーパー機能」にとどまっている分、「医療の入口」を複数持てるが、フランスは登録義務を課すことで、「医療の入口」を1カ所に絞っている点である。

第2に、ダイレクトに大病院に行った場合、日本のシステムでは患者の負担が医療機関の収入になるのに対し、フランスのシステムでは単に患者の負担増となる点である。

ここで3カ国の状況を比較すると、以下のようなことが言えるだろう。まず、イギリスとフランスは登録義務を課しているのに対し、日本はフリーアクセスをベースとしているため、登録制度の有無という大きな違いがある。次に、日仏両国のゲートキーパー機能はイギリスに比べて緩やかであり、かかりつけ医をプライマリ・ケア専門医(イギリスの場合はGP)に限っていない点、かかりつけ医に受診しない場合の自己負担を高く設定している点が共通しているが、自己負担を高くする際の方法で違いが見られる。
 
12 フランスの事例については、松本由美(2018)「フランスとドイツにおける疾病管理・予防の取組み」『健保連海外医療保障』No.117、松田晋哉(2016)「フランスの専門医」『健保連海外医療保障』No.112、加藤智章(2012)「フランスにおけるかかりつけ医制度と医療提供体制」『健保連海外医療保障』No.93を参照。
3かかりつけ薬剤師・薬局を巡る議論
では、日本では登録制度に近い仕組みが存在しないのだろうか。実は、2016年度の診療報酬で創設された「かかりつけ薬剤師(薬局)」は事実上、登録制度に近い側面を持っている。

これは▽保険薬剤師として3年以上の薬局勤務経験を持つ、▽研修認定を取得している、▽地域活動に参画している――といった要件を満たした保険薬剤師が患者の同意を得ると、薬歴管理や服薬指導、24時間で相談を受け付けられる体制整備などに取り組んだ場合、報酬上の加算を受けられる仕組みであり、2018年度報酬改定では加算の充実が図られた。

この目的として、厚生労働省は服薬状況を継続的かつ一元的に把握できるようになるとともに、患者の生活実態に合わせた薬歴管理や服薬指導、多剤投与の防止などの効果を挙げており、ポイントは要件として「患者1人に対して1人の保険薬剤師のみ」「患者が受診している全ての保険医療機関、服用薬などの情報を把握」としている点である。このことを通じて、患者にとっての「薬剤師の入口」を1カ所に絞っている点で、登録制度に近い側面を持つ。

もちろん、イギリスやフランスの仕組みと比較すると、相違点もある。第1に、イギリスやフランスのように登録義務が課されておらず、かかりつけ薬剤師を指名するかどうか患者の選択に委ねられている点である。第2に、フランスとは自己負担を増やす際の方策が異なる点に留意する必要がある。フランスの場合、かかりつけ医以外で受診すると、患者の自己負担が増えるだけであり、医療機関の収入には影響しないが、かかりつけ薬剤師・薬局を指名した場合、薬剤師や薬局に加算が入るとともに、患者の自己負担も増えることになる。既に述べた通り、かかりつけ医機能の強化の一環として、2018年度改定では「機能強化加算」が創設されたが、これも同じ仕組みである。
4いくつかのバリエーション
こうした議論を踏まえると、患者にとっての「医療の入口」を1カ所に絞る登録制度については、いくつかのパターンが存在することに気付く。ここでは、(1)登録制度の有無(及び登録制度に絡む患者の自己負担の在り方)、(2)かかりつけ医となる医師の在り方――の2つを論じる。

まず、登録制度の有無である。登録制度を通じて患者―医師の固定的な関係を維持しつつ患者の自由度を高めているイギリスに対し、登録制度を導入しつつも自己負担に差を付けることで医療機関の選択の自由を緩やかに認めているフランス、登録制度を採用しないまま自己負担に差を付けることで医療機関の自由を緩やかに制限しようとしている日本という整理が可能である。分かりやすく整理すると、フリーアクセスを修正したフランスは日本とイギリスの中間に位置し、かかりつけ医を経済的な誘導だけで普及させている日本はフランスに近付いていると整理できる。これを具体的な制度として整理すると、以下のようなパターンが考えられる。

1) 選択権を付与せず、厳格な登録を義務付ける(以前のイギリス)。
2) 登録制度を維持しつつ、患者に登録先の選択権を付与する(現在のイギリス)。
3) 患者に登録を義務付けるが、登録した医師や医療機関ではないところで受診した場合、自己負担を多く徴収する(フランス)。
4) 登録制度を採用せず、登録した医師や医療機関ではないところで受診した場合、自己負担を多く徴収する(現在の日本)。

このほか、5) として登録を任意とする代わりに、登録した医師や医療機関ではないところで受診した場合、自己負担を多く徴収するパターンも想定できる。

登録制度に関連する論点として、自己負担に差を付ける方法についても、いくつかのパターンが有り得る。例えば、(1)患者がダイレクトに大病院に行くと、患者の自己負担は増えるが、医療機関の収入にならない(現在のフランス)、(2)大病院に行くと、患者の自己負担は増え、その負担は医療機関の収入になる(紹介状なしで大病院に行った場合、5,000円を追加徴収する日本の措置)、(3)患者が指名(登録)すると、医療機関の収入が増えるが、患者の自己負担も増える(日本のかかりつけ薬剤師・薬局)――といったパターンに整理できる。2018年度改定は(2)の対象拡大とともに、(3)の手法を用いてかかりつけ医機能を強化しようとしていると整理できる。

もう1つの論点として、患者がゲートキーパーを果たす医師を指名する際、プライマリ・ケア専門能力を持った医師に限定するか否かという点もある。イギリスはプライマリ・ケア能力を持ったGPに限定しているが、日本とフランスは専門医も指名できる。「緩やかなゲートキーパー機能」の強化に際しては、こうした点を踏まえつつ、患者―医師関係をどう構築するか論じる必要がある。

では、こうした差異やバリエーションを念頭に入れつつ、「緩やかなゲートキーパー機能」の見直しに向けて、どんな制度改革が想定されるだろうか。以下、(1)登録制度、(2)かかりつけとなる医師の在り方――の2つを論じる13
 
13 このほか、登録先の医師に対する報酬制度について、「登録した人口に応じて支払う人頭払いにするのか、治療・検査行為ごとに評価する出来高払いを維持するのか」という論点があるが、ここでは論じない。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

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