2018年05月01日

健康寿命の都道府県格差

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

文字サイズ

高齢化が進む中、国は、国民のQOL(生活の質)向上や医療費の削減のために、さまざまな健康増進政策を行っている。たとえば、健康日本21(第二次)では、健康寿命の延伸と地域差縮小、生活習慣病の予防・重症化予防等を目標と設定し、推進している。

健康寿命の地域差縮小が目的の1つとなっていることからもわかるように、住民の健康状態は地域によって異なる。これは、地域で住民の年齢や職業構成が違うだけでなく、生活習慣や食文化等も違うからである。また、提供できる医療体制も地域ごとに異なることから、健康増進に向けた取り組みや医療計画は都道府県単位で行うことが多い。

都道府県で、住民の健康状態や医療供給体制、受診状況にどの程度の違いがあるのだろうか。これから何回かに分けて、健康・医療・介護分野の各種データを都道府県ごとに見ていきたい。

今回は、健康寿命の都道府県格差についてみる。
 

1――健康寿命の都道府県による差は最大男性2.0年、女性2.7年

1――健康寿命の都道府県による差は最大男性2.0年、女性2.7年

今年3月、厚生労働省から2016年の都道府県別健康寿命が公表された。この健康寿命は、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義され、厚生労働省が公開している生命表と国民生活基礎調査の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問の結果を用いて、3年に1回算出されている1

現在、国では、平均寿命の延伸とそれを上回る健康寿命の延伸、および地域差縮小を目標とした取組が行われている。今回の都道府県別健康寿命は、こういった国による取組みの進捗を確認するための指標となる。

本稿では、平均寿命と健康寿命の都道府県による特徴を確認した後、都道府県別の健康寿命と平均寿命の関係、および健康寿命の都道府県による差を確認し、健康寿命の延伸に向けた今後の取り組みについて考察する。
 
1 「国民生活基礎調査」は毎年実施されているが、健康寿命の算出に使用する設問は、3年に1回の大規模調査によるものであるため、健康寿命も3年ごとに公表されている。2016年は、熊本地震によって、熊本県では国民生活基礎調査を行われておらず、2016年の熊本県の健康寿命は計算されていない。
 

2――都道府県別の平均寿命と健康寿命

2――都道府県別の平均寿命と健康寿命

図表1 都道府県別平均寿命の分布 1|平均寿命(2015年)の長さは、男女で同じ傾向を示す
まず、平均寿命の都道府県による特徴を見るために、男女の平均寿命の関係を確認する(図表1)。その結果、平均寿命が長い都道府県は男女ともに長く、短い都道府県は男女ともに短い傾向があった(相関係数は0.77)。平均寿命は、都道府県固有の要因の影響を受けていると考えられる。

男女ともに平均寿命が長い都道府県は長野県と滋賀県であり、短い県は青森県だった。全国平均と比べて、福井県、愛知県等の中部地方は男性の平均寿命が長い傾向があり、岡山県、島根県等の中国地方や、沖縄県、熊本県等の九州・沖縄地方は女性の平均寿命が長い傾向があった。

男性の平均寿命がもっとも長い滋賀県ともっとも短い青森県の差は3.11年、女性の平均寿命がもっとも長い長野県ともっとも短い青森県の差は1.74年で、都道府県のバラつきの幅(標準偏差)は、男性が0.57年、女性が0.40年と女性の方が都道府県による差が小さかった。
図表2 都道府県別健康寿命の分布 2|健康寿命(2016年)の長さは、平均寿命ほどは男女で同じ傾向を示さない
次に、健康寿命の都道府県による特徴を見るために、男女の健康寿命の関係を確認する(図表2)。その結果、健康寿命にも男女間で一定の相関があったものの、平均寿命ほど強いものではなかった(男女の相関係数は0.43)。したがって、健康寿命は平均寿命と比べて、都道府県固有の要因以外の影響を受けていることが推測できる。

男女とも健康寿命が長い都道府県は、愛知県と山梨県だった。この2つの県を含む中部地方で男女とも健康寿命が長い傾向があり、奈良県、京都府等の近畿地方は男女とも短い傾向があった。沖縄県、鹿児島県等九州・沖縄地方は女性の健康寿命が長い傾向があった。

男性の健康寿命がもっとも長い山梨県ともっとも短い秋田県の差は、2.00年、女性の健康寿命がもっとも長い愛知県ともっとも短い広島県の差は2.70年で、都道府県のバラつきの幅(標準偏差)は、男性が0.51年、女性が0.65年と男性の方が都道府県による差が小さかった。
3|女性の健康寿命の差は、不健康期間の差による
健康寿命の長さは、平均寿命の長さと、健康上の問題で日常生活に影響がある割合を全年齢について足し合わせた不健康期間の長さで決まる。男女それぞれ、どちらと関係しているのか確認する。

まず、男性について平均寿命と健康寿命、不健康期間と健康寿命、それぞれの相関をみる(図表3)。その結果、男性の健康寿命の長さは、平均寿命の長さ(相関係数0.38)と不健康期間の長さ(相関係数-0.48)に相関関係があることが確認できた。
図表3 健康寿命と平均寿命・不健康期間との関係(男性)
一方、女性についてみると(図表4)、女性の健康寿命の長さは、平均寿命の長さとは相関がなく(相関係数-0.03)、不健康期間の長さ(相関係数-0.86)に強い相関があった。

男性の健康寿命の都道府県による差は、平均寿命、不健康期間いずれの影響も受けているが、女性の健康寿命の都道府県による差は、平均寿命による影響はなく、不健康期間の差によると考えられる。
図表4 健康寿命と平均寿命・不健康期間との関係(女性)
Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【健康寿命の都道府県格差】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

健康寿命の都道府県格差のレポート Topへ