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医療の値段(診療報酬)は、 どのように決められているの?
基礎研REPORT(冊子版)5月号
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
1―医療の値段の決め方
医療は、公的医療保険制度の公定価格として、全国一律の値段が決められている。これは「診療報酬」と呼ばれており、値段表に相当するものが「診療報酬点数表」。診療報酬の本体は医科、歯科、調剤からなる。併せて、薬価と材料価格が設定されている。
診療報酬は、問診等の基本的な診察、血圧測定等の簡単な検査、処置、入院、手術、投薬などの具体的な医療行為ごとに、点数として示されている。点数は、1点=10円として換算される。
2|出来高払いと包括払いがある
診療報酬は、「出来高払い方式」をベースにしている。これは、医師や歯科医師などが、実際に患者に行った医療行為ごとに、診療報酬を設定し、その合計額を医療の値段とするもの。この方式は、実際に行われた診療に応じて値段が決まるという意味で、合理的といえそうだ。しかし、サービス提供者側からみると、医療行為を行うほど、報酬が増える仕組みともいえる。このため、不必要な診療や投薬などの過剰医療を招きかねないという課題がある。
そこで、比較的規模の大きい病院では、「包括払い方式」がとられている。この方式では、各医療行為ごとではなく、一連の医療サービスを一括りにして、診療報酬が設定される。具体的には、疾患ごとに定められた入院1日あたりの医療サービスの費用に基づき、入院日数に応じて報酬の額が決まる。医療行為を増やしても報酬が増えないため、過剰医療の抑制が期待できる。
3|内閣が全体の改定率を決定する
(1)全体の改定率の決定
診療報酬は、原則2年ごとに改定される。全体の改定率は、予算編成過程を通じて、内閣が決定する。また、改定の基本方針は、社会保障審議会の医療部会と医療保険部会が決定する。
各部会の審議を経て、中央社会保険医療協議会(中医協)が、具体的な診療報酬点数の設定について審議する。
審議の際は、様々なデータが参照される。例えば、病院経営収支調査、医療経済実態調査などの医業経営指標や、物価指数、賃金指数などの経済指標が参考にされる。更に委員からの要望や意見が提出されて、審議が進められる。
2―医療費を巡る課題
近年、医療費問題が顕著である。国民医療費は2015年度に42兆円。2025年度には50兆円を上回ると見通される*1。
*1「社会保障に係る費用の将来推計の改定について(平成24年3月)」(厚生労働省)によると、医療の給付費は2025年度に54.0兆円となる見通し。
2|医療費削減に向けた取り組み
このため、医療費削減に向けた様々な取り組みが始まっている。特に、薬価制度の見直しが進められている。高額な抗がん剤の緊急的な薬価引き下げや、薬価改定の頻度を2年ごとから毎年にすることなどだ。更に、ジェネリック薬の処方推進や、費用対効果の薬価への反映なども進められている。
一方、近年は、肺炎や老衰が増加しており完治ではなく、病状を軽減する寛解を目指すなど入院のニーズは多様化している。そこで、急性期の病床を、回復期や慢性期のものに移行させ、看護師等の配置密度を下げて、ケア内容に見合った医療体制に変更するとともに、医療費の削減を図ろうとしている。
更に、病気になる前から健康管理をする予防医療の取り組みも進んでいる。これまで、予防医療は、保険医療外で医療費は全額患者負担とされてきた。予防医療への保険適用のあり方を考えるべき状況になりつつあるといえよう。
3|社会全体で議論することが必要
近年の医療費増大は、医科・歯科部分が中心となっている。したがって、この部分の報酬切り下げの是非が、大きな検討事項となる。ただし、単純な切り下げは医療サービスの低下を招く恐れがある。報酬の見直しは、医療サービスとセットで議論すべきであろう。
今後、医療費と医療サービスのバランスについて、社会全体で議論を深めていく必要があるものと考えられる。
(2018年05月09日「基礎研マンスリー」)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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