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世界貿易が直面するリスク-保護主義よりも労働市場の再構築を
総合政策研究部 研究員 鈴木 智也
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3――関税率引き上げの悪影響、保護主義は最良の選択肢ではない
次ページの図表9は、需要曲線と供給曲線を重ねたものである。需要曲線は、ある価格において購入希望者がどれだけいるのかを示したものであり、図表上は右下がりの直線で表される。供給曲線は、生産者がある価格のもとで販売する商品数量を示したものであり、図表上は右上がりの直線で表される。直感的には、価格の低下によって購入希望者が増加し、価格の上昇によって生産量は増えると思えば理解しやすい。このとき、消費者と生産者がそれぞれ得る満足を消費者余剰(図中、青色の領域[A])と生産者余剰(図中、赤色の領域[B])と呼ぶ。消費者余剰は、実際に商品を購入できた消費者が、それぞれ購入しても良いと思える価格から実際の価格(図中、価格PまたはP+⊿T)を差し引いた差額の合計であり、国内消費者全体が得られる利益と捉えることができる。生産者余剰は、販売収入から生産コストを差し引いた利益と簡易的には理解され、国内生産者が得る利益と捉えることができる。なお、消費者余剰と生産者余剰の合計は総余剰と呼ばれ、社会全体の効率性や利益の大きさを示している。
図表9の左側の図は、関税が導入される以前(関税率が引き上げられる以前)の状況を示したものだ。このとき、価格は国際競争によって低く抑えられており、価格Pで取引が行われる。供給側では、国内で採算の取れる[X0]までしか国内生産されず、残りの需要[Y0]に対応する部分は輸入によってまかなわれる。次に、関税が導入された場合の変化を右図にて確認する。関税⊿Tが導入されて価格がP+⊿Tに上昇すると、購入希望者は [X0+Y0]から[X1+Y1]に減少する。供給側では、採算ラインの上昇によって国内生産が[X0]から [X1]まで増加し、関税でコスト増となる輸入は反対に[Y0]から [Y1]まで減少する。このとき消費者利益である消費者余剰は[A0]から [A1]まで減少し、生産者利益である生産者余剰は [B0] から[B1]まで増加する。また、社会全体の効率性を示す総余剰は、関税導入前の[A0+B0]から [A1+B1]に変化し、[C+D+E]だけ減少する。この減少部分の面積は死荷重と呼ばれ、関税を導入した際の市場の効率性の低下や国全体の利益の減少を示す。なお、[D]で示される面積は、輸入量[Y1]と関税⊿Tの積で計算される国の関税収入である。総余剰が国全体の利益であることから、関税収入 [D]は総余剰に含めることができるため、最終的な死荷重は[C+E]となる。
以上から、関税率の引き上げは、富の配分を国内消費者から国内生産者に移し、社会全体の利益を減少させる政策であることが分かる。つまり、関税率の引き上げは、グローバル化による恩恵の格差を縮小させる効果と、国全体の利益を減少させる効果のトレードオフの関係を有するのである。
4――労働市場の再構築を、必要なのは人材育成
昨今はグローバル化以外にも、技術革新を要因として産業構造や仕事内容が変化してしまう時代である。各国政府は、安易に保護主義に陥ることなく、労働者が新たな産業に適応するように教育面の支援を強化すべきである。日本国内においては、幼児教育や高等教育の無償化、生涯を通じた学び直し(リカレント教育)など、人材育成を強化しようとする動きがある。私たちはこの動きを加速させ、時代に合わせた働き方を身につける機会を増やし、変化に取り残される人が出ないような仕組み作りをしていく必要があるだろう。
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(2018年04月20日「基礎研レター」)
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