2018年04月17日

働き方改革で家庭での男性活躍推進を~企業に期待される少子化対策の取り組みは(下)~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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(2)子どもの数がゼロ、一人の夫婦の割合が増加
実際に、夫婦が持つ子どもの数は近年、低下している。出生に関する統計のうち、合計特殊出生率と完結出生児数に着目したい。合計特殊出生率は、未婚者を含めて15~49歳女性の出生率を合計したものであり、完結出生児数は、結婚期間が15~19年経過した夫婦が実際に持った子どもの平均人数を表すものである。図表5は、その二つの数値について近年の推移をグラフに示したものである。合計特殊出生率(青色の折れ線グラフ)は2005年に1.26で底を打って以降、様々な子育て支援策によって近年、回復傾向にある。これに比べて、完結出生児数(緑色の折れ線グラフ)は2002年には2を上回っていたが、その後少しずつ低下している。2002年までは平均すると夫婦は二人以上の子どもを持っていたが、直近の2015年では二人を割っている。
図表5 回復傾向にある合計特殊出生率と、低下傾向にある完結出生児数
図表6 夫婦の間に生まれた子どもの数の分布
その要因は、子どもの数がゼロや一人という夫婦の増加である。同調査によると、夫婦が持つ子どもの数で一番多いのは現在でも二人だが、過去13年で分布が変化している。2002年には、子どもの人数がゼロと一人を足した割合は12.3%だったが、わずか13年で2倍の24.8%となった(図表6)。これは、晩婚化や晩産化などの影響が大きいと考えられるが、上記の図表1と図表3でみたように、仕事と家庭を両立する妻の負担増加とも整合している。
3|男性の仕事と家庭の両立の状況
(1)低迷する育児休業取得率
働く男性の家事・育児への参加度合いをみる指標の一つが、育児休業取得率である。厚生労働省の雇用均等基本調査によると、2016年度は男性の育休取得率は3.16%だった。過去最高ではあるものの、低水準が続いている。それでは、育休を取得したい男性が少ないのだろうか。 

連合が2013年、20~50歳代の男性1,000人を対象に行った携帯電話でのインターネット調査(共働き家庭も専業主婦家庭も含む)によると、調査時点で子どもがいない男性のうち、子どもができたときに育休を「取得したいし、取得できると思う」と回答した男性は26.3%で、全体の4分の1にとどまった(図表7)。しかし、「取得したいが、取得できないと思う」が52.2%おり、両方を合わせると、育休取得の意欲を持っている男性は合わせて約8割に上った。特に20歳代でその割合が高かった。しかし実際には、多くの男性が取得を諦めていることになる。
図表7 育児休業取得に対する男性の考え方
そこで、実際に育休取得の意欲はあるけど取得できなかった人や、できないと思う人に理由をきくと(複数回答)、トップは「仕事の代替要員がいない」(57.9%)で、仕事上の都合によるものだった(図表8)。2位は「経済的に負担となる」(32.6%)だった。育児休業給付金は、取得前賃金の最大67%だからである。育休期間中は健康保険と厚生年金の保険料が免除されるため、実際の手取りは育休取得前の8割程度になるが、特に妻が専業主婦の家庭の場合、家計への影響は大きい。その他の理由は「上司に理解がない」(30.2%)、「元の職場に戻れるかどうかわからない」(26.9%)、「昇進・昇給への悪影響がある」(22.2%)、「同僚に理解がない」(16%)など、職場の風土・意識やキャリアアップに対する不安が上位を占めた。また、「男性が育休を取るものではない」も11.7%あり、本人の性別役割意識にも原因があった。
図表8 男性が育児休業を取得しなかった・取得できないと思う理由
さらに、育休を申請したり、取得したりした際に、上司らから嫌がらせを受ける「パタニティ・ハラスメント」を経験した男性が、全体の11.6%いた。具体的には、「制度利用を申請したら、上司に『育児は母親の役割』『育休をとればキャリアに傷がつく』と言われた」などである。育児・介護休業法では、男女にかかわらず、育休を申請したり、取得したりすることによる事業主の不利益取り扱いを禁止しているが、男性も対象となることについて理解が広がっておらず、職場でも性別役割意識が根強いことが分かる。2017年からは法改正により企業にハラスメント防止措置が義務付けられ、上司だけでなく、同僚による不適切な発言もハラスメントになり得ることが指針に明記されており、今後は改善が期待される。
(2)長時間労働が背景に
子育てはもちろん、生後だけではない。一時的に育休を取得するだけではなく、その後も十数年にわたって育児と教育を継続していくためには、仕事と家庭を両立できることが前提となる。そのために、最も重要なのは本人の意識改革であるが、そこでネックとなるのが、長時間労働が多い職場環境である。

よく知られるように、国内では海外に比べて労働時間が長い。労働政策研究・研修機構によると、働く男性のうち、労働時間が週49時間以上に上る男性の割合は、日本では2015年時点で29.5%に上る。韓国の37.6%に比べると少ないが、その他の主要欧米諸国と比べてはるかに多い(図表9)。因みに女性は、男性ほどではないものの、欧米に比べると割合が多い。職場で長時間労働が常態化していると、子どもがいる労働者だけが、家庭の事情で早く帰宅したり、同僚に仕事の代替を依頼したりするのは難しい。まして、上記でみたように職場の上司や同僚の間に「家事、育児は女性の仕事」という意識があれば、申し出は余計難しくなる。これが、小さい子どもがいる夫の帰宅を遅くし、家庭で家事・育児を担うことができない背景にあると言える。
図表9 各国で週49時間を超える長時間労働をする男性の割合
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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