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若者の「内向き志向」は本当か?ー潜在する動機・意欲を引き出す早期教育の必要性
基礎研REPORT(冊子版)4月号

大阪成蹊大学マネジメント学部教授 ニッセイ基礎研究所客員研究員 平賀 富一
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この点に関連し、複数の大学で、国際経営に関連する科目の講義を担当している筆者自身の経験を申し上げたい。当初は、そのような科目を履修する受講生の多くは、海外の事象に関心や興味をもっている受講生が多いものと思っていたが、毎年、最初の授業で、「海外で働きたい人は?」と質問すると、消極的な反応の人が多いことに驚かされる。加えて、筆者は、高校でも、「総合的な学習の時間」の特別授業として、上記の大学の講義のエッセンスのような授業も行っているが、そこでも、受講生の海外留学や海外勤務に対する反応は消極的なものが多い。
しかし、大学で講義回数が進み、日本の世界・アジアでのポジションや変化、アジア諸国の発展ぶり、グローバルな環境下での日本の若者のチャンスといった話を聴くにつれて、次第に受講生の考えは大きく変化してくる。最終講義が近づく頃には、「もっと早く高校生の時に、このような話を聴きたかった、そうすれば、海外への留学や、語学の勉強とか、もっと色々なことにより熱心に取り組めたと思う」との感想が増える。実際に、卒業して暫くしてから、インドネシアやベトナムなどで起業したいので相談に乗ってほしいという複数の卒業生と面談する機会もある。高校の場合も、上記の特別授業が気づきや動機付け(モチベーション)や意欲を感じる契機になり、大学に進んで海外留学したり、グローバルな事業展開を行う企業に就職するという事例の増加につながっている。このように考えると、日本の若者が内向きというのは、そもそも、海外やグローバルな知識、視点を伝えていなかったり、そのようなことを真剣に考える機会が少ないことが、大きな理由なのではないかと推量される。
この点に注目して、上記の産能大の調査結果をさらに詳しく見ていくと、前述のとおり、回答者全員では6割が海外勤務を敬遠しているが、他方、留学経験者(回答者中の2割強)に絞ってみると、実に7割もの多くが、海外勤務を前向きにとらえているという興味深い事実がある。
日本の若者の海外での活躍の興味深い事例として、元AKB48のメンバーであった仲川遥香氏が、その著書「ガパパ! ~AKB48でパッとしなかった私が海を渡りインドネシアでもっとも有名な日本人になるまで」(ミライカナイ、2016年)の中で述べていることを紹介したい。仲川さんは、2012年、AKB48から、インドネシアの姉妹ユニットであるJKT48に志願して移籍した。彼女は、経済発展著しいアセアン(東南アジア諸国連合)における、最大の人口大国(2.5憶人)たるインドネシアへ居を移し、最初の半年でインドネシア語をマスターして活躍、大人気アーティストとなった。2016年末のJKT48の卒業後も、多くのCMやテレビのトークショーのレギュラー出演など現地で活発な芸能活動を行っている。その結果、「インドネシアで最も有名な日本人」となり、2018年「日本インドネシア国交樹立60周年親善大使」に任命されたり、英国ブランドウォッチ社による「Twitterで最も影響力がある人ランキング(女性部門)」で2016年・2017年と2年連続で世界7位にランクされるなど活躍している。
その仲川さんが、自身の苦労と成功体験を踏まえて、日本の若者に対して、日本国内から海外に視野を広げてより充実した自分らしい人生を送るという観点での重要点・留意点を挙げている。仲川さんの例と同様に、スポーツの世界で活躍する若者の多くが、海外でのトレーニングや試合の経験、外国人コーチの指導を通じて技能を高めていることは今更言及するまでもないことであろう。大きな可能性を持つ日本の若者が、少子高齢化という課題を抱える日本で働くことのみを考えるのではなく、アジアの成長市場など海外市場の動向・変化、その中に自らの個性や能力を発揮できるチャンスのある場所を見つけるという人生の選択肢に気づき、考えて欲しいと思う。その契機となる留学や語学学習の意義を感じ、自分のキャリアを意欲的に考えてもらう機会を高校や中学といったより早い時期に用意することが大切と考える。
(2018年04月06日「基礎研マンスリー」)
大阪成蹊大学マネジメント学部教授 ニッセイ基礎研究所客員研究員
平賀 富一
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