コラム
2018年08月20日

柔軟な発想・思考で、訪日客も含め暮らしやすく魅力ある日本にしたい!

大阪成蹊大学マネジメント学部教授 ニッセイ基礎研究所客員研究員 平賀 富一

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今般、成田・羽田など主要な国際空港で顔認証方式の出入国の自動化ゲートがスタートし、順次その普及を図ることが報じられている。増加する出入国者による混雑緩和への取り組みとして大いに歓迎したい。この点に関し、先んじているシンガポールのチャンギ空港では、従来からの指紋認証方式によるシステムの活用を踏まえて、近年では、顔認証方式による出入国手続きに、搭乗チェックインや荷物を預ける手続き含めたフローの完全自動化が進みつつあるとのことである。日本では、指認証方式のシステムは2007年に導入されたが、その利用率が約8%と少なく、その結果、出入国のゲートで係員のいる窓口(人手対応)の長蛇の列が通常であった。指認証方式のシステムでは、最初の登録作業に相当な長時間がかかったが、筆者は、便利なシステムを使いたいと思い、早めに空港に着いて時間を確保し3度登録にトライしたが、各回ともに指紋がうまく認識できないということで徒労に終わった。係官に、私のようなケースは特殊なのかと尋ねると、同様の認識不可のケースは非常に多いとのことであった。そこで現場の上層部や、上部機関に改善を要求して欲しいと言うと、係官は、自分たちから言うより、外部の利用者から声を挙げてもらうほうがより効果的と思うとのことで、現場の担当官が認識している利用者の声を組織の内部で共有し速やかに改善につなげる仕組みがうまく機能していないとの難しさを感じたものである。その結果、いったん導入したが利用度が低いシステムに長期間固執し、その保守・運用コストの無駄、自動化で対応できない出入国者への人手による対応の手間・コストの無駄、内外の出入国者の行列に並ぶ時間の無駄といった大きなロスが発生していたと思われる。
 
我が国が、東京オリンピック・パラリンピックの一大イベントを控えて、MICE1の積極的な誘致も含めた、観光立国化を推進する中で、無料WIFIの拡大、交通インフラ(鉄道・航空機、空港・駅、道路など)の整備、地図・掲示等の改善・整備は、利用者ファーストの観点を最優先に進められることが不可欠であり、現状の問題点を認識し、優れた制度やシステムをどんどん導入していくことが大切である。しかしながら、日本には、従来の慣習やシステムにとらわれるあまり、外国人観光客も含め多くの利用者が不便を感じるネックが随所にあると感じている。
 
この点に関して、日本の鉄道の玄関ともいえる東京駅での身近な例を挙げたい。それは、タクシー乗り場(八重洲側)の混雑の問題である。そこでは、各新幹線からの降車客などタクシー待ちの多くの客が並んで乗車するまでに長時間待つ光景が見られる。他方、客待ちをするタクシーの数は十分に多いので、そこでの大きなネックは乗車場所の問題だと考えられる。多くの待ち客と十分な数のタクシーがあるのに、同時に乗車できるスペースはわずか縦列の二台のみとなっている。ここで、二台スペースの前のタクシーに乗車する客が大きな荷物をトランクに入れたり、外国人客が行き先を運転手に説明するのに時間がかかったり、乗車人数が多い場合などには、後のタクシーの発車が出来ないなど事態はさらに厳しいことになる。外国人観光客も含めた多くの顧客はこのような状況に半ばあきれた表情を浮かべつつ我慢している。筆者は、この光景を見ると、世界の優れた空港のランキングで常に上位に挙げられる前記のチャンギ国際空港のタクシー乗り場の方式を想起し比較してしまう。同空港のタクシー乗り場にも大勢の客が並んでいるが、一度に5台くらいのタクシーが、それぞれ斜めの方向に停車し、他車の乗降の状況とは無関係に多くの乗客を効率的にさばいており、乗車までの待ち時間は非常に少ない。この両者の違いはどこから来るのだろうか、冒頭に述べた認証技術のケースとは異なり、チャンギ空港が、特別なシステムや技術を使っているわけでもなく、単にスペースの利用者(タクシーと乗客)の利便性を考慮しているということではなかろうか。いわば頭の使い方の工夫ともいえよう。もちろん、東京駅の現状には種々の事情・経緯もあろうが、今後訪日客も含め顧客の数がどんどん増えると予測される状況下で、関係者が柔軟な発想で、早期に利用者ファーストの工夫・対応をいただくよう期待したい。
 
以前、シンガポール政府の高官から聴取した「(同国では)よいと思うことはまず実行してみて、問題があれば修正する」という利用者優先の姿勢は、同国が、香港や北欧諸国、スイスなどとならび、国際競争力ランキングや仕事のしやすさランキングで最上位グループにランクされ、MICEにおける世界的な優良開催都市として評価されている重要な源泉の一つであると考える。世界の優れた制度や取組を柔軟に取り入れ、利用者重視の取り組みや工夫を行っていくことが、観光立国化(特にインバウンド観光)の推進のみならず、日本の社会を暮らしよくしていくために大切なことと考える。
 
1 MICE…企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字のことであり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称(観光庁ホームページより)。
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大阪成蹊大学マネジメント学部教授 ニッセイ基礎研究所客員研究員

平賀 富一

研究・専門分野

(2018年08月20日「研究員の眼」)

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