2018年04月06日

2018・2019年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)4月号

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―8四半期連続のプラス成長

[図表1]企業部門主導の成長が続く 2017年10-12月期の実質GDPは、前期比0.4%(前期比年率1.6%)となった。外需寄与度は2四半期ぶりにマイナスとなったが、民間消費(前期比0.5%)、設備投資(同1.0%)が増加し、国内需要主導で8四半期連続のプラス成長となった。

日本経済は2017年を通して潜在成長率を上回る成長を続けたが、その主役は輸出、設備投資の企業部門である。一方、10-12月期の民間消費は増加に転じたが、7-9月期(前期比▲0.6%)と均してみれば横ばい圏にとどまり、住宅投資は2四半期連続で減少した。家計部門は低調な推移が続いている。

アベノミクス開始以降の実質GDP成長率に対する累積寄与度を企業部門(設備投資+純輸出)、家計部門(民間消費+住宅投資)、政府部門(政府支出+公的固定資本形成)に分けてみると、実質GDP成長率7.5%のうち、企業部門の寄与度が4.4%で、全体の6割近くを占めている。一方、GDPの約6割を占める家計部門の寄与度は1.6%で、全体の2割強にすぎない[図表1]。

2―3%の賃上げは実現するのか

安倍首相は経済界に対し3%の賃上げを要請し、2018年度税制改正では企業の賃上げを後押しするため、所得拡大促進税制の見直しを行った。これまで賃上げに慎重だった経団連も3%の賃上げ目標を提示するなど、ここにきて賃上げの機運は高まっている。

新たな所得拡大促進税制では、減税措置を受けるための要件が、大企業(資本金1億円超)で「給与平均額が前年比3%以上」 、中小企業(資本金1億円以下)で「給与平均額が前年比1.5%以上、あるいは2.5%以上」となっている。厚生労働省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」によれば、2017年の賃金改定率の平均は大企業が2.1%、中小企業が1.9%と両者に大きな差はないが、その分布をみると、大企業は2%台(2.0~2.4%、2.5~2.9%)に半数以上の企業が集中しているのに対し、中小企業は比較的バラツキが大きく、ボリュームゾーンは1%台(1.0~1.4%、1.5~1.9%)である[図表2]。
[図表2]賃金改定率の労働者分布
今回の税制改正は減税措置の要件が、企業規模別の賃上げの実態に見合った設定になっている。2018年度は大企業では3%以上の賃上げを実現する企業が大幅に増加することが予想される。一方、中小企業は着実な賃上げが進むことは見込まれるものの、減税要件のハードルが低いことから3%以上の賃上げを行う企業数は限定的にとどまるだろう。

3%の賃上げを考える上では、その数字が基本給にあたる月例賃金ベースなのか、賞与や手当てなどを含んだ年収ベースなのかを区別する必要がある。連合は月例賃金の引き上げを求めているのに対し、経団連は年収ベースも選択肢のひとつとしており、両者には隔たりがある。所得拡大促進税制の「給与平均額」は基本給以外に残業代、賞与、手当てなども含む年収ベースとなっている。企業業績の大幅改善を受けて2018年度の賞与は増加することが見込まれるため、多くの大企業にとって3%のハードルはそれほど高くない。しかし、賞与は業績が悪化すれば大きく削減されるため、3%の賃上げは一時的なものに終わる恐れもある。

また、賃上げ率は定期昇給分を含んだ数字で示されることが多いが、労働市場の平均賃金に直接影響を与えるのは定期昇給分を除いたベースアップであることにも注意が必要だ。2017年の春闘賃上げ率は2.11%(厚生労働省調査)だったが、定期昇給が1.7%程度なので、ベースアップは0.4%程度となる。実際、毎月勤労統計によれば、2017年度の一般労働者の所定内給与は前年比0.4%(2017年4月~2018年1月の平均)でベースアップと一致している。 所得拡大促進税制における給与平均額の算出対象となる雇用者は「当期および前期の全期間の各月において給与などの支給がある継続雇用者」とされているため、給与平均額の伸びは定期昇給を含んだ概念に近い。

労務行政研究所の「賃上げに関するアンケート調査」によれば、2018年の賃上げ見通しは平均で2.13%と前年を0.13%上回ったものの、3%には程遠い結果となった。厚生労働省の賃上げ実績は同調査の見通しを若干上回る傾向があるが、乖離幅がそれほど大きくないことを踏まえれば、2018年の春闘賃上げ率が3%に達する可能性は低いだろう。今回の見通しでは、春闘賃上げ率の想定を2018年が2.40%、2019年が2.50%とした。

3―実質GDP成長率の見通し

日本経済は、海外経済の回復に伴う輸出の増加、高水準の企業収益を背景とした設備投資の回復が続くことが見込まれる一方、実質所得の低迷が続く家計部門は消費、住宅投資ともに低調に推移する公算が大きい。当面は企業部門(輸出+設備投資)主導の成長が続くことが予想される。

2018年度は春闘賃上げ率が3年ぶりに前年を上回ることを反映し、名目賃金の伸びは2017年度よりも高まるが、物価上昇ペースの加速によりその効果は減殺される。さらに、年金給付額の抑制などから家計の実質可処分所得はゼロ%台の低い伸びとなるだろう。このため、消費が景気の牽引役となることは期待できない。
[図表3]低迷する期待成長率 また、足もとの設備投資の回復は企業収益の大幅な増加に伴う潤沢なキャッシュフローを主因としたもので、企業の投資スタンスが必ずしも積極化している訳ではない。企業の設備投資意欲を反映する「設備投資/キャッシュフロー比率」は50%台の低水準での推移が続いている。内閣府の「企業行動に関するアンケート調査(2017年度)」では、今後5年間の実質経済成長率の見通し(いわゆる期待成長率)が1.1%となった[図表3]。

前年度の1.0%からは若干改善したものの、依然として低水準にある 。企業の設備投資意欲が高まり、キャッシュフローに対する設備投資の水準を大きく引き上げるまでには時間がかかるだろう。

先行きの企業収益は増加基調を維持するものの、人件費、原材料費などのコスト増から伸びが鈍化する可能性が高く、これに伴い設備投資も徐々に減速するだろう。この結果、2018年度の成長率は2017年度よりも明確に低下する可能性が高い。ただし、景気の回復基調は維持され、2018年度末頃には景気回復期間が戦後最長景気(2002年2月~2008年2月)を上回り、過去最長を更新する公算が大きい。
[図表4]実質GDP成長率の推移 2019年度は10月に消費税率引き上げ(8%→10%)が予定されているが、2014年度(5%→8%)よりも税率の引き上げ幅が小さく、飲食料品(酒類と外食を除く)及び新聞に軽減税率の導入が予定されていることから、成長率、物価への影響は前回よりも小さくなるだろう。また、税率引き上げは2019年度下期からとなるため、年度ベースの影響は2019年度、2020年度ともに1%分(軽減税率導入を考慮すると0.75%分)となる。さらに、消費増税前後には駆け込み需要とその反動減が発生するが、年度途中での引き上げとなるため、駆け込み需要とその反動減は2019年度内でほぼ相殺されることが想定される。2019年度は消費税率引き上げの影響が前回よりも小さいことに加え、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う押し上げ効果も期待されることから、マイナス成長となった2014年度のように経済成長率が大きく落ち込むことは避けられるだろう。

実質GDP成長率は2017年度が1.8%、2018年度が1.2%、2019年度が0.9%と予想する[図表4]。
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2018年04月06日「基礎研マンスリー」)

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